第52話:自警団の訓練

 久しぶりに剣を振ったからか、気持ちが昂っている。

 だからだろう、エリカの提案はありがたかった。


「仕事外の働きをしたんですから、私が代わりに門番をします!」

「いいのか?」

「もちろんですよ……レ、レインズ」

「そうか。助かるよ、エリカ」

「……う、うん!」


 何やら喜んでいるようにも見えたが……そんなに仕事が大好きなのか? 仕事人間だったかな、あいつ。

 とはいえ、ありがたかったという意味は単純に仕事を変わってくれたからではない。

 昂った気持ちのまま俺が向かった先は――


「おぉっ! こっちだ、レインズ!」

「なんだ、お前も来たのか?」


 声を掛けてきたのはギレインとガジルさんだ。

 俺が向かった先は自警団が訓練をしている広場である。

 このまま休むにしても眠れないだろうし、体を動かすにはここがちょうどよかった。


「今日の門番はお前じゃなかったか?」

「エリカが変わってくれたんです。オーガの群れが現れたので、そちらの援軍要請の代わりに」

「オーガの群れだと? 今日の見回りは確かメリース、ギース、ミリルの三人だったな。大丈夫だったのか?」

「問題ない。まあ、ギースとミリルは疲れ切っていたけどな」


 今ではギレインとメリースさんはオーガを複数相手にしても問題なく戦えている。他の自警団の面々も一対一であれば問題は全くない。

 ただし、ギースとミリルは別だ。

 二人は自警団の中でも最年少であり、実力もまだまだ足りない。

 伸びしろがあると言えば聞こえはいいが、現時点で戦力が足りていない状況では足手まといという事にもつながってしまう。

 今日もエリカとメリースさんだけなら三桁に近い数のオーガでも戦えたはずだ。


「がははははっ! まあ、あの二人はまだまだ子供だからな!」

「そんな子供に戦わせている自警団なんだから、もっと強くならないとな、ギレイン殿は!」

「確かにそうだな。俺に勝てないままじゃ、まだまだだからな!」

「ぐっ! ……お、お前たちなぁ」


 現在の自警団はガジルさんが主になって訓練を行っている。

 俺もギレインに勝ったのだが、ガジルさんの勝ちの方が圧倒的だったのだ。

 どうせ習うなら強い相手の方がいいだろうし、俺よりもガジルさんの方が教え慣れている。

 まあ、問題はそれ以外にもあるんだけどな。


「それにしても、悪いなぁ、レインズ」

「何がですか?」

「お前に訓練を付けてもらうつもりが、ガジルに頼る事になっちまってよ」

「気にしてないよ。俺みたいな若造に教えられるよりも、ガジルさんみたいな年季の入った人に教えてもらった方がいいですよね」


 そう、年齢的な問題だ。

 村の人たちも自警団の面々も、俺みたいな移住者にも気安く接してくれているが、教えを乞うとなれば少し変わってくる。

 口では問題ないと言っていても、体は正直なもので明らかに動きがぎこちなくなってしまう。あれでは訓練にならない。

 その点、ガジルさんなら自警団の中でもギレインに次ぐ年長にあたるしな。


「おいおい、俺を年寄りみたいに言うんじゃねえよ」

「それなら年上の俺はどうなるんだ?」

「いや、そういうわけじゃないですよ!」


 慌てて否定すると、二人は大声で笑ってしまった。


「そういえば、援軍要請って事はレインズも剣を抜いたんだろ? どうだった、新しい剣は?」

「最高でしたよ! 手に馴染み過ぎて、怖いくらいです! ……それで、ちょっと振り足りなくて、模擬戦でもと思ってここに来たんでした」


 当初の目的をすっかり忘れてて頭を掻いた。

 だが、二人は俺の気持ちがわかったのかニヤリと笑って剣を取る。


「久しぶりに俺とやろうぜ、レインズ」

「いいや、ここは成長した俺の実力を見せてやらんとな!」

「「……んあ?」」


 いやいや、二人で模擬戦の相手を取り合うとか、ないでしょ。


「それじゃあ、ギレインからお願いできますか?」

「よっしゃあっ!」

「んなあっ! どうしてだ、レインズ!」

「ギレインには勝てるので、その後に勝てないガジルさんとやるんですよ」

「ちょっと待て! 俺は前座かよ、おい!」

「……まあ、そうなるかな」

「うおおおおいっ! こうなったら絶対に倒してやる、強くなった俺の実力を見せてやるからな!」


 燃えているところ悪いが、俺も負けてやるつもりはない。

 ちょくちょく顔を出しているから知っているが、ギレインの実力はまだ俺に届いていないのも知っている。

 この高ぶりを抑えるには思う存分に剣を振る必要があるから、時間を掛けるつもりもない。


「さあ、やりましょう」

「おっしゃあ! やってやるぜ!」


 他の自警団も集まってきたが……まあ、いいか。


 ――それから数分後、ギレインは地面に顔をこすりつけているのだった。

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