第二章:護衛依頼

第51話:移住から三ヶ月

 ウラナワ村に移住してきてから三ヶ月が経った。

 ジーラギ国の王都ジラギースで門番を解雇された時はどうなる事かと思っていたが、国を出てサクラハナ国に来てからは順風満帆な生活を送れている。

 それもこれも、リムルとの出会いがなければこうはならなかっただろう。

 ジーラギ国の港町アクアラインズで出会い、移住を持ち掛けられて海を渡ってサクラハナ国にやって来た。

 いきなりSSSランクの魔獣と戦う事になったのは予想外だったし、さらにジラギースで同僚だったガジルさんとエリカまでやって来たのも予想外過ぎた。


「……まあ、そのおかげもあって、俺は門番として楽をできているんだけどなぁ」


 最初の頃は門番だけではなく、魔獣討伐にも手を貸す事になっていた。

 もちろん、それも仕事の内だから問題ないのだが、ウラナワ村にやって来たばかりの二人が張り切ってしまっているのだ。

 楽なのは良い事なんだが、さすがに暇すぎる。あれから俺は一度も魔獣と戦っていないのだから。

 ギレインたちも十分に強くなっているし、ほとんどの場合で応援を要請される事はない。

 ただし、数が多ければその限りではないが。


「先輩!」

「ふわああああぁぁ……んあ?」


 非番だからと魔獣狩りに出ていたエリカが森の方から走って来た。

 ……非番なんだから休んでたらいいのに。


「メリースさんから応援要請よ!」

「エリカでも難しかったのか?」

「群れを見つけて監視をしていたんだけど、ギースがドジっちゃって!」


 おいおいギース、お前はいったい何をやらかしたんだ?


「それにしても珍しいな。エリカたちが来てからはお役御免って感じだったのに」

「群れが群れを呼んじゃってね。あれだけの数はここに来てから初めてだったのよ」


 また何か不穏な事が起きているのか?

 ……いや、わからない事を考えても仕方がないか。


「場所は……あぁ、あそこか」

「本当に、先輩の気配察知は異常すぎますよね」

「そうか?」

「そうですよ」


 ため息をつきながら言われてもなぁ。それ、褒めてるんだよな?


「そうそう。エリカはいつまで俺の事を先輩って言ってるんだ?」

「え? でも、先輩は先輩じゃないですか」

「ここでは先輩も後輩もないんだから、普通に呼んでくれて構わないぞ?」

「ふえ?」


 なんだ、その返事は。


「それじゃあ行くな。俺の代わりにここは任せるぞ」

「……はっ! あの、先輩!?」


 呼び止められた気もしたが、応援要請という事だから急いだ方がいいかもしれない。

 必要な事は伝えたし、今はメリースさんたちを優先しよう。


 メリースさんたちが戦っている場所を目指しながら、俺は腰に差した新しい愛剣の柄を撫でる。


「時間は掛かったが、ようやく試し斬りができる」


 いや、マジで時間が掛かったよ。張り切り過ぎだから、あの二人。


「いたな。数は……ん? 確かに多いな」


 三桁にはいかないが、それでも近い数がいる。

 幾分かはメリースさんたちが倒しているだろうし、そう考えると総数で言えば三桁いたんじゃないか?


「助太刀するぞ!」

「助かるわ!」

「し、師匠!」

「レインズさ~ん!」


 おいおい、ギースとミリルはギリギリじゃないか。

 メリースさんはまだまだ元気そうだから、二人を守ってもらうとしよう。


「俺が数を減らします。抜けて来たオーガを!」

「了解よ!」

「ギースとミリルは無理するなよ!」

「「はい!」」


 大量のオーガを目の前にして、俺は高揚を隠し切れなかった。

 戦いたいわけじゃない。当然ながら、愛剣を思い切り振れるからだ。


「さあ、出番だぞ――ブルーレイズ」


 キンと甲高い音が鞘を抜き放つと鳴り響く。

 わずかに青みを帯びた刀身から名付けたのだが、個人的には気に入っている。

 今日までは素振りを繰り返してきただけだった。正直、うずうずしていたんだよ。


「さあ、行くぜ!」


 地面を蹴って飛び出した俺は、最前列にいたオーガ五匹の首を一振りで斬り飛ばす。


「うおっ! なんだよ、この切れ味は!」


 まるで地面に落ちた葉っぱを切っているかってくらいに手応えがない。なさ過ぎて自分でも怖くなってしまうくらいだ。


「それに、わかってはいたが軽いな!」


 今まで使っていた剣を同じように振っていたら、手の中から飛んでいきそうな感じすらあるぞ。

 素振りと実戦では力の込め具合も変わってくるし、しばらくは注意が必要かもな。


「だが……うん、良い剣だよ、バージル!」


 俺に合わせて作ってくれた剣だけはある。

 ここまで手に馴染む剣は握った事がないぞ。……まあ、今までは規格が同じ剣だったから当然なのだが。


「さあ、まだまだ試し斬りは終わっていないぞ!」


 こうして、俺は三桁に迫る数のオーガを物の数分で片付けてしまったのだった。……やり過ぎたかな、これは。

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