第50話:新しい住民と新しい剣

 ガジルさんとエリカがウラナワ村にやって来てから2日が経った。

 二人は俺と同じで門番として仕事をしてくれるらしいが、魔獣狩りをする時には同様に手を貸す事にもなっている。

 今はまだ村長の屋敷に泊まっているが、そのうちに自分の家を持てるだろう。

 何せ、家は結構余っていると村長が言っていたからな。


「しかし、そろそろだと思うんだがなぁ」


 俺がそろそろと言ったのは、バージルにお願いしていた新しい剣の事だ。

 お願いしてから今日でちょうど1週間となり、約束の日となる。

 二人に今日は休みが欲しいと聞き入れてもらい、お呼びが掛かるのを家で待っている状態だった。


「レインズさーん!」

「せんぱーい!」

「ん? なんでリムルとエリカ?」


 外から名前を呼ばれて出てみると、やはり二人が家の前に立っていた。

 この二人だが、歓迎の宴の後に夜中まで二人で話をした結果、不思議とものすごく仲良くなっていた。

 あの時の負けない宣言は何だったのかと聞いてみたくもあるが、俺の本能が聞いてはいけないと警鐘を鳴らしているので聞けないでいる。

 ……こういう時は、本能に従うのが一番だよな、うん。


「バージルさんから呼び出しですよ!」

「新しい剣が仕上がったんだってさ!」

「そ、そうか。それじゃあ、行ってくるよ。……ん?」


 えっと、行くとは言ったが、どうして二人が左右に陣取っているんでしょうか?


「私たちも」

「行くからね?」

「……はいはい」


 門から近い家なので、今日の担当であるガジルさんにも一声掛けておく。

 そうそう、二人にはデンの事を軽くしか伝えていなかったので、実物を見た時は大層驚いていたっけ。

 ……まあ、今では一緒になって門番の真似事をしているから、慣れてくれているんだろうけど。


「おうおう、さっさと行けっての。ったく、彼女なしのおっさんの身にもなれっての」

「お主も苦労しているようだのう、ガジル」

「わかってくれるのか、デンさんよ」

「主がレインズだからな。あ奴の鈍感さには、我も苦労しているからな」


 ……全部聞こえているからな?


 二人を伴って鍛冶屋に到着すると、バージルからは呆れた声を掛けられた。


「レインズって、ハーレム好きなの?」

「んなわけあるか!」


 という意味のわからないやり取りを挟んだ後に、俺はようやく新しい剣との対面を果たした。


「……これが、俺の新しい剣ですか」

「そうだよ。オーガナイトの剣と角、そして魔石を砕いて混ぜているの。それと、鉱石にはこれね」

「これは……えっ! こ、これって、まさか!」

「知ってるのね。アダマンタイト」


 知っているも何も、アダマンタイトはジーラギ国の騎士が使うミスリルよりも貴重な素材だと聞いたことがある。

 そんなものを門番である俺のために使ってくれるなんて……。


「バージル」

「なーに?」

「おいくらですか?」

「お金なんて取らないわよ!」

「いやいや! アダマンタイトだぞ? さすがにダメだろう!」

「本当にいいの。レインズがいなかったら、この村はダメだったんだからさ。これはそのお礼よ。それに、あんたのために丹精込めて打った一品よ? 他の誰が使うっていうのよ!」


 俺は俺の仕事をしたまでなのだが、そこまで言われたら受け取らないわけにはいかないか。


「感謝する。この借りは必ず返す」

「いやいや、私の方こそまだ返しきれてないから。こんなんじゃあ、負債が溜まる一方だわ」


 笑いながら肩を叩かれてしまい、俺は苦笑するしかなかった。


「さあ、抜いてみなよ」

「……あぁ」


 そして、俺は新しい剣を手に取ると、鞘から抜き放った。


「…………あぁ、なんて美しいんだ」


 刀身は太く武骨に見えるが、とても薄く見た目とは異なりとても軽い。

 長さはロングソードくらいか、全長が1メートルほどあり、以前使っていた剣よりも20センチほど長い。

 だが、刀身の軽さがあるからか片手で握っても違和感は全く無かった。

 そして、俺が美しいと口にした最大の要因は――


「わずかに、青みを帯びているんだな」


 銀一色だと勝手に思い込んでいたからだろうか、青みを帯びている刀身に目を奪われ、見れば見るほどに美しく思えてしまう。


「オーガナイトの魔石は、さすがAランクってだけあって粉末にしても色が残ったのよ。性能もだけど、これで見た目も会心の出来になったんだけど……どうかな?」


 これほどの逸品を目の前にしたら、答えは決まっているも同然だろう。


「最高だよ、バージル。本当にありがとう!」

「……そっか、そっかあっ! ふぅー、よかったー」

「なんだ、緊張していたのか?」

「そりゃそうでしょ。私から頼み込んで任せてもらったんだからさ。自信はあったんだけど、本人の口から答えを聞くまではね」


 頬を掻きながら苦笑いを浮かべているバージルに、俺は微笑みながらもう一度気持ちを伝えた。


「これは最高の逸品、最高の剣だ。これからも頼りにさせてもらうぞ、バージル」

「こちらこそ、よろし――」

「レインズさん!」

「ま、まさかのライバル出現とか、あり得ないでしょう!」


 ……おいおい、職人を労う最高の場面で、お前たちは何を意味のわからないことを言ってるんだよ!


「こ、ここでの用事は終わりましたよね! さあ、行きましょう!」

「いやいや、バージルを労う必要が――」

「あは、あははー。えっと、私の事は気にしないでちょうだい、レインズ」

「いや、しかしだなあ――」

「くっ! 活発系の女性は私だけだと思っていたのに、これは危険よ、危険だわ!」

「だから、お前たちは何を意味のわからないことを――」

「「それじゃあ、バージルさん!」」


 結局、俺は両腕をリムルとエリカに掴まれたまま、引きずられる形で鍛冶屋を去ったのだった。……解せん。


第一章 終わり

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