第49話:二人の歓迎の宴

 その日の夜、メリースさんが言った通りに二人の歓迎の宴が行われた。場所は俺の時と同じで中央広場だ。

 これまた前回と同じだが、すでにギレインが酔っぱらいと化している。

 主役である二人は村長とメリースさんに改めてお礼を口にすると、他の住民たちへの挨拶回りに行ってしまった。

 ちなみに、デンはまたしても子供たちに乗っかられている。

 最初は助けを求めるようにこちらを見ていたが、今では慣れたものなのか上手くあしらっていた。


「……それじゃあ、俺は俺のやるべき事をするか」


 松明の側に立って一人で酒を飲んでいたのだが、目的の人物を見つけたのでそちらに移動する。


「リムル」

「あ……楽しんでますか、レインズさん」


 うーん、やはり何か元気がないな。

 ガジルさんとエリカが来てからずっとだし、二人が何か関係しているのだろうか。


「元気がないな。何かあったのか?」

「いいえ、何もありませんよ? そんな風に見えましたか?」

「ものすごく。俺以上に顔に出ているんじゃないか?」

「レインズさん以上に? ……うふふ、それって自分を貶していませんか?」

「む、そうか? そんなつもりはなかったんだがな」

「そうなんですか?」


 うんうん、やはり女性は笑っている方が似合っているな。

 だが、まだ本調子ってわけでもなさそうだ。


「……気になっている事があるなら、聞くぞ?」


 俺の言葉に、リムルはまた表情を硬くしてしまった。

 だが、今回はだんまりと言うわけではなく、口を開いてくれた。


「私、バカなんです」

「……えっ?」

「バカでバカで、本当にしょうがないバカなんです」


 ……これは、どういう状況なんでしょうか?


「勝手にエリカさんに嫉妬して、悔しくなって、だけど何も言えなくて。……本当の本当に、バカなんです」

「いや、別にリムルはバカではないと思うぞ?」

「違うんです! ……そうじゃ、ないんです」


 ……待て待て、おいおい! そこで泣かれると俺が泣かしたみたいじゃないか! いや、事実俺が泣かしたようなもんだけどさあっ!?


「いよーし! ガジル、俺と模擬戦をするぞ!」

「いいぜ! 自警団隊長様の実力、確かめてやるぜ!」


 あっちはあっちでなんか盛り上がってるし! こっちを助けて欲しいんですが!


「……レインズさんは、どんな女性が好みなんですか?」

「……へっ?」

「女性の好みです!」


 と、唐突になんて質問をしているんだ、リムルは!?


「えっと、そ、そうだなぁ……せ、誠実でー、優しい人が、いいかなー!」

「誠実で、優しい人、ですか?」

「あ、あぁ! そうだな!」


 こ、これで落ち着いてくれれば――


「それじゃあ、誠実で優しい人に心当たりはありますか?」


 まだ続くのねこの質問!


「あー、えっとー、い、今はまだ、心当たりはないかなー」

「……そうですか」


 ぐぬっ! 今の返事はマズかったのか? どうして落ち込んでしまったんだ?


「レーイーンーズーせーんーぱーい!」

「エ、エリカ! 良いところに――ぶふっ!?」


 振り返った先から突っ込んできたのは、まさかの柔らかな感触の胸だった。

 こいつ、普段は胸当てをしていて気づかなかったが意外と……って、今はそういう状況じゃないから!


「は、離れろバカ!」

「えぇー! 酷いですよー、せんぱーい!」

「……お前、相当酔ってるだろ?」

「これくらい、酔ったに入りませんってばー!」

「ったく、ガジルさんもお前も飲み過ぎだっての。リムル、すまんがこいつの看病を……えっ?」


 ……ま、待て待て待て待て! マジで待ってくれ!

 え、笑顔の奥にものすごい怒気を孕んでいるように見えるのは、俺の気のせいなのか? 気のせいだよな!


「…………レインズさん?」

「は、はい!」

「……私、負けませんからね!」

「負けないって、何に――どわあっ!」


 言葉の半ばで左腕を引っ張られた俺は、その腕をギュッとリムルが抱きしめてきた。

 こちらにも柔らかな感触が伝わってきてしまい、どうしたらいいのかわからず硬直してしまう。


「あぁー! リムルさん、ずるいですよー! 私だって、えーい!」


 そして、俺が硬直しているのをいい事に、今度はエリカが右腕にしがみついてきた。


「お、お前は悪酔いが過ぎるぞ!」

「でもでもー、リムルさんだって酔ってますよー?」

「あぁ? リムルが酒を飲んでるとか……飲んでる、とか……え、飲んでるの?」

「…………えへへ~。これ、とってもおいひいんれすよ~」


 マジかよ! さっきまでのしっかりした会話は何だったんだ!


「……しょうぶれすよ、エリカしゃん!」

「……お互い、後腐れなくやりましょう!」


 最終的には俺の目の前で握手までしてくれている。

 その時にでも、腕を離してくれたら逃げ出せたのに。


「うおっ!」

「ガハハハハッ! こんなんじゃあ魔獣にあっさりと殺されるぞ、自警団隊長殿!」

「親父! あっさり負け過ぎだろう!」

「よーし! これで酒代がごっそり浮いたわ!」


 ……くっ! 俺もそっちに交ざりたいぜ!

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