第34話:自警団会議

 ――その後、俺たちはオーガとオーガファイターの魔石を抜き取り、証拠として頭部を持ってウラナワ村へと戻った。

 胴体部分だって素材になるのだが、持って移動できるほど小さくはない。

 デンの背中に載せる事ができたらよかったんだが……。


「嫌だ! 我の美しい白銀にBランクやAランク如きの血を付けるなど、断じて許さん!」


 との事で、胴体部分はクランキーさんとカリーさんに焼却してもらった。

 ……あぁ、もったいない。


 そして、夜になり現在は俺と自警団の面々、そして村長が自警団本部に集まっている。

 今回の騒動により、とある懸念が浮かび上がってきたからだという。


「今日の見回りで、オーガとオーガファイターが現れた」


 会議の口火を切ったのはギレインだ。


「いつもならCランク以上の魔獣を目にする機会なんてそうそうなかったが、オーガはBランク、オーガファイターに至ってはAランクの魔獣だ」


 自警団の面々からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。


「だが、幸か不幸か、リムルが連れてきてくれたレインズが魔獣キラーという破格のスキルを持っていてな、すでに討伐済みだ」


 俺はイスから立ち上がり、顔を合わせていなかった四人の自警団に頭を下げる。


「そんで、こいつがその証拠だ!」


 そう口にしながらギレインが持ち上げたのは、オーガの首。

 それだけで再び自警団に緊張が走ったのだが、次いで俺がオーガファイターの半分になった首を持ち上げると、小さく悲鳴が漏れ聞こえてきた。


「今まで現れなかった高ランクの魔獣が突如として現れた。これは、とても不味い事が起きていると考えられる」


 ギレインに続いて口を開いた村長に、その場にいた全員の視線が集まる。


「魔獣の進化が起こっていると、考えるべきじゃろうな」


 魔獣の進化は俺も目にした事がある。

 今まで低ランクだった魔獣が強くなり、気づけば上位種に進化して現れる。それも一匹や二匹ではなく、複数でだ。

 魔獣の進化について知らなければ実力者であっても命を落とす危険は少なくないし、格下に殺される事だってある。


「おそらく、今回は人型を中心に進化が始まっているのだろう。オーガとオーガファイターがいい例じゃ」

「元々の人型魔獣はどういったものがいたんですか?」

「Cランクのゴブリンナイトや、オークとかじゃのう」


 ゴブリンの上位種に、オークか。

 だが、CランクであればBランクへの進化なら頷けるんだが、Aランクの魔獣まで現れているとなれば話は変わってくる。


「おそらく、人型魔獣のボスが進化したんじゃろう。そのせいで、生まれ落ちる魔獣のランクも一気に上がった可能性が高い。もしかすると、オーガとオーガファイターは斥候じゃったかもしれん」

「BランクとAランクの魔獣が斥候って、ヤバすぎるだろう」


 ギレインが困ったようにそう呟くと、村長がその背中をバンッと叩いた。


「痛いなあっ!?」

「自警団隊長がそんな弱気でどうするんじゃ?」

「まあ、そうだけどよう。さすがにAランクが斥候ってなると……ん? 待て、ってことは、その上にいるボスって、まさか?」

「おそらくは――Sランク以上」


 そうなるだろうな。

 人型魔獣の主戦力はBランク以上となり、Aランク以上がそれらを率いる。そして、全体を率いているのがSランクと見るべきだろう。


「村長やギレインは、魔獣の進化を経験した事があるのか?」

「いいや、俺はねえ。だが、村長はあるはずだぜ?」

「うむ。儂が現役だった頃に、一度だけのう」


 魔獣の進化はそうそう起こる事ではない。

 同じ種類の魔獣を何千、何万と殺してようやく起こる事なのだ。

 周囲が騒然としている中、俺は村長が経験した魔獣の進化について聞いてみた。


「その時は、種類問わずの魔獣が進化して溢れかえってのう。難儀をしたわい」

「進化が重なったんですか。よく生き残れましたね」

「……儂は、後方から魔法を放っていただけじゃからな。ただ、前線で戦っていた者たちは死んでいった。ほとんどの者がのう」

「そうでしたか……」

「過去の話は終わりにしよう。今を見つめなければのう」


 俺がしんみりしてしまったからだろう、村長はニコリと笑いそう口にしたのだが、すぐに真顔を浮かべた。


「今回の魔獣の進化は、非常に不味い状況じゃ」

「そうなんですか? 人型だとわかっているだけでも戦いやすいのでは?」

「その通り。じゃが、問題は魔獣側ではない。儂ら側じゃ」


 そう言われて、俺はなるほどと思ってしまった。

 隊長のギレインですら俺の実力に劣る現状で、Bランク以上の魔獣が溢れかえるこの森で生き残れるはずがない。

 そして、自警団が倒れたとなれば、ウラナワ村の滅亡にもつながってしまう。


「……本来いたであろう魔獣はどこに行ったんですか?」

「それはわからん。推測じゃが、高ランクの魔獣から逃げるため、散り散りになったのではないかと思っておる」


 村長の言葉に確証はない。だが、俺もそう推測している。


「デンはどう考える?」

『おそらくは、その通りであろうな。我の鼻で嗅ぎ分けられる範囲であれば、まさに散り散りに逃げ回っておるよ』

「ウラナワ村に向かって来ている魔獣はいないのか?」

『いないのう。元々いた魔獣は、ここにいる者に勝てないと知っているのだろう』


 ……なら、やりようはあるか。

 あるんだが、これはまたギレインから怒鳴られそうだな。


「村長、俺から一つ提案してもいいですか?」

「ほほう、その提案とは?」

「おい、レインズ。まーた変な事を言わねえよな?」

「俺が単独で魔獣の討伐に出ます。皆さんはウラナワ村の防衛に力を――」

「ぜっっっっっっっったいに、ダメだ!!」


 ……ほらな、やっぱり。

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