第33話:不機嫌なデンとギレイン
一仕事終えた後というのは、やはり清々しいというか、やり切った感があるな。
そんな事を考えていると、すぐ横に慣れた気配が近づいてきたのでそちらへ振り返る。
「……デン。何故そんなにも不機嫌なんだ?」
目の前には不機嫌そうに俺を睨んでいるデンの顔がある。
もしかして、オーガファイターとの戦闘を独り占めした事を怒っているのだろうか。
「オーガファイターを観察し、自警団に情報を共有する必要があったんだ。だから、意味もなく戦いを独り占めしたわけじゃないぞ?」
「そんな事を言っているのではない!」
「そうなのか? なら、どうしてそんなに不機嫌なんだ?」
デンはSSSランクの魔獣だったが、戦闘が好きだったわけではない。
強い相手との戦いは胸躍る物があるらしいが、弱い相手であれば戦いを俺に任せる事も結構多い。
事実、俺とデンの初対面は、デンから仕掛けてきたものだったしな。
そう考えると、オーガファイターは俺からすると強敵の部類に入るのだが、デンからすれば弱い部類に入るはずだ。
独り占めした以外でデンが不機嫌になる理由なんて……考えたところで出てこないな。
「……はぁ。全く、お主は。我の気も知らんで」
「お前がどうかしたのか?」
「なんでもない。それで、こいつらはどうするつもりだ?」
「ギレインに提出する。BランクやAランクが出たって証拠も必要だろうからな」
そんな事を話していると、気配察知の中に四つの気配が侵入してきた。
だが、四つとも俺が知っている気配なので、自警団の人だろうと推測する。
「――レインズ! デン!」
気配に気づいてから数分後、ギレイン、メリースさん、クランキーさん、カリーさんが姿を見せた。
「レインズさん! 大丈夫です……か…………あれ?」
「も、もう、終わっている?」
「なるほど。これが魔獣キラーの実力という事ですか……素晴らしいですね」
メリースさんとカリーさんが驚きの声をもらし、クランキーさんは感心している。
ギレインは一瞬だけ呆けたものの、すぐに歩き出してこちらにやって来た。
その視線は足元に転がっているオーガ、そしてオーガファイターに向けられている。
「これは、凄いなぁ。確かにBランクじゃねえか。ん? だが、こいつは……」
「こいつは後から現れました。Aランクのオーガファイターです」
「んなあっ!? Aランクだと!!」
ギレインの大声に、少し離れた場所にいた三人もこちらへ振り返った。
「まあ、デンもいた事だしな」
「オーガファイターに関しては、我は手を出しておらんぞ?」
「……と、デンは言っているが?」
……デン、お前なぁ。
「えっと、まあ、そうだな。自警団と情報を共有するために、単独で戦った、かな?」
「お前はバカか!!」
「どわあっ!?」
俺が正直に話すと、突然ギレインから怒鳴り声をあげた。
「Aランク魔獣を相手に、情報を得たいからって単独で戦うバカがどこにいるんだよ!」
「えっと、ここに、かな?」
「マジでバカだな! 大バカだ、お前は! それでもし死んじまったら、意味がないんだぞ!」
「で、でも、ジーラギ国ではAランクなんて――」
「倒した事があるってか! だが、それでもだ! Aランクは強敵であり、危険な魔獣だ! 人間なんて一撃で死んじまう! 倒した事のある魔獣だからこそ、警戒が必要なんだよ!」
ギレインはどうしてそこまで怒っているんだろう。
俺は自警団のために情報を得て、これからに活かそうと思っただけだ。
「なあ、ギレイン? どうしてそこまで怒っているんだ? 魔獣は倒せたし、俺もこうして生きているんだぞ?」
「生きていればいいという問題ではない! ……こんなんだから、師匠も死んだんだ。お前も次は死ぬかもしれないんだぞ!」
……あぁ、そういう事か。
ギレインの師匠は、変異種に殺されたはずだ。
だが、戦闘中にはその事に気づかなかったのかもしれない。見た目が変わる個体もいれば、全く見分けがつかない個体もいる。
その時の魔獣が、きっとそうだったのだろう。
「……すまない、ギレイン」
「……あー、いや、俺の方こそ……すまん。いきなり怒鳴っちまって」
事情が事情なだけに、俺もこれ以上は突っかかれない。
ただ、ギレインは一つだけ誤解をしているようなので、そこは訂正しておかなければな。
「ただ、俺に関しては本当に大丈夫だ」
「お前、殊勝な事を言ったかと思えばまた――」
「証拠はこいつだ」
また怒鳴り出しそうなギレインを制して、俺はデンを指差す。
「証拠だあ? デンがどうしたってんだ?」
「デンがいるから大丈夫って事かしら?」
「それもある。だけど、それだけじゃあない」
メリースさんも加わり俺の意図を探ろうとしたが、理由はもう一つある。
クランキーさんとカリーさんは首を傾げるばかりだ。
「デンのランク、言ってませんでしたよね?」
「言ってねえけど……おいおい、まさかこいつがSランクだって言うんじゃねえだろうな?」
「違いますよ」
「そ、そうよね。まさか、Sランクだなんて――」
「デンはSSSランクの魔獣です。確かに油断は禁物ですが、Aランク程度には負けませんよ」
俺は笑いながらデンを撫でていたのだが、四人からの反応が全くない事に疑問を感じて視線を向ける。
「……SSS、ランク?」
「……で、伝説の、魔獣?」
「……嘘、私、生きてるかしら?」
「……僕は、夢でも見ているのでしょうか?」
……あー、うん。そういう反応になるのが、普通なんだろうな。
「全く、お主は。順序があるだろう、順序が」
「なんだか、すまん」
ウラナワ村に戻ったら、ちゃんと説明する必要がありそうだな。
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