第29話:トマスからのお願い

 その日の夜、俺は村長の屋敷で晩飯を頂いていた。


「そうそう、レインズ殿」

「どうしましたか?」


 村長がお茶を飲みつつ、一つの提案を口にしてきた。


「門番として仕事をしてもらうのは問題ないのだが、よければ魔獣狩りにも力を貸して欲しいと思っておる」

「もちろんですよ」


 俺の魔獣キラーは、門番としてよりも積極的に魔獣を狩りに出る事で活きてくる。

 門番の仕事をしつつ、時間を見ながらギースの訓練と魔獣狩りを並行して行いたい。

 ただ、それには一つの懸念が出てくる。


「俺が魔獣を狩るのはいいんですが、魔獣が強くなる条件については?」

「もちろん知っておるよ。そうでなければ、ウラナワ村はとっくに滅んでおるさ」

「そうですか。なら、安心しました」


 そもそも、魔獣が強くなる条件を知らないジーラギ国が異常なのだ。

 俺が門番に就いてからの20年で知っている人物が全員いなくなった、なんて事は考え難い。

 ……うん、ジーラギ国の事は気にしないでおこう。考えてもわからんしな。


「ギースからは訓練をして欲しいと申し出てもらっています。ギレインからも許可を貰ったので、一緒に魔獣狩りに出られたらありがたいですね」

「そうだったか。ならば、自警団にも話を通しておこう。ギレイン殿に伝えておけば、調整はしてくれるじゃろうからな」


 ふむ、話を通してくれるならこちらからも一つお願いをしておこうか。


「でしたら、明日は俺に見回りをさせて欲しいんですが、それについても話しておいてくれませんか?」

「見回り、ですか?」


 俺はウラナワ村周辺の、大きく言えばサクラハナ国の魔獣を知らない。ここに来てから見かけた魔獣はオニビだけなのだ。


「俺もデンも、実際にこの辺りの魔獣を見ておきたいんです」

『む、我もか?』

「当然だろう。一緒にウラナワ村で生活をするんだからな」

「ほほほ。であれば、明日の見回りはメリース殿とカリー殿ですから、同行してもらいましょう」

「……カリーさん、ですか?」


 聞いた事のない名前に、俺は首を傾げた。


「ミリルちゃんのお母様ですよ」


 答えてくれたのはレジーナさんだ。


「ミリルの? ということは、クランキーさんの奥さんですか」

「えぇ、そうです。クランキーさんとカリーさんは、どちらも魔法師なんですよ」


 魔法師の両親から生まれたミリルも魔法師なのか。

 まあ、スキルは遺伝的に引き継がれる事が多いし、当然と言えば当然だな。


「見回りは、前衛と後衛で組んでいるんですか?」

「そうです。この辺りにはいませんが、魔獣の中には物理しか効かなかったり、魔法しか効かない魔獣というのもいますからね。しかし、レインズ殿にはあまり関係なさそうですかな?」


 ……どうやら、村長は俺のスキルについてある程度の理解を示しているようだ。


「確かに、俺にはその辺りの弊害は関係ありませんね。村長は、キラー系のスキルについて詳しいんですか?」


 魔獣キラーだけではなく、キラー系のスキルを持つ者は物理、魔法の耐性に関係なく攻撃する事ができる。

 ジーラギ国でも物理耐性に強い魔獣を相手にした時も、バッサリと両断する事ができた。

 その事を村長は知っているのだろう。


「過去に、キラー系スキルを与えられていた者がこの村におったんじゃよ」

「だから理解が深いんですね」

「ただ、まだまだわからない事の方が多いがのう。その者は、獣キラーだったわい」


 獣キラーであれば、獣に類する魔獣に効果を発揮したのだろう。

 ジーラギ国で倒したヘビーベアなども対象になったはずだ。


「この辺りには獣系の魔獣が多かったので、とても活躍しておりました」

「ただし、その子は若かった。一年前に村を出てしまい、以降は一度も戻ってきておりません」

「そうですか……残念ですね」


 力を手にした者がどのように考えるのか、それは個人に託される。俺の場合もそうだ。

 誰かのためになんて考えず、ジーラギ国に縛られず、すぐに飛び出して自由に生きる事もできただろう。

 だが、俺はそうは考えなかった。

 誰かのために生きたいと、頼られたいと、そう考えたんだ。

 獣キラーを与えられた人物は自分の力を試したかったのか、それとも広い世界で成り上がりたかったのか。


「引き止めたかったが、儂らが若い芽を縛るわけにはいかんからのう」

「ですが、その者について多くの若者が村を離れてしまったんです」

「そんな経緯があったんですね」


 ギレイン辺りは引き留めたかもしれないが、それだけでは止まらなかったんだろうな。


「改めてになりますが、レインズ殿。ウラナワ村に移住を決めてくれて、本当にありがとう」

「これからも、よろしくお願いいたします」


 そこまで話をして、村長とレジーナさんは揃って頭を下げた。


「……俺の方こそ、デンと一緒に迎え入れてくれてありがとうございます。俺にできる事があれば、全力で手伝わさせてもらいます」


 もとより、そのつもりで移住を決めたのだ。

 その後は、これからのウラナワ村についての話で盛り上がり、眠りについたのだった。

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