第28話:家と仕事
しばらくギースの訓練を見ていたのだが、見回りに出ていたメリースさんが戻ってくると、村長が呼んでいると報告を受けた。
「家に案内するんだってさ」
「家に? ……そういえば、そんな話になっていたな」
ギレインとの話とギースの訓練に集中し過ぎて、時が経つのをすっかり忘れていた。
すでに日はだいぶ傾いており、その姿を隠そうとしている。
「す、すまなかった、リムル。暇だっただろう?」
「そんな事ないですよ。レインズさんの楽しそうな表情を見れましたし、ミリルちゃんと話もできましたから」
俺が放っていた間、リムルはミリルと話をしていたのか。
……ミリルは、訓練とかないんだろうか。
まあ、本人が楽しそうならそれでもいいのかと考え、俺とリムルはすぐに村長の屋敷へと引き返した。
屋敷に戻ると、村長が玄関前で待っていてくれた。
「お待たせしてしまい、すみませんでした」
「いやいや、いいんですよ。急に呼び出したのは、私の方ですからな」
笑いながらそう口にした村長がそのまま歩き出したので、俺も横について歩き出す。リムルは俺の隣についていた。
「ウラナワ村はいかがでしたかな?」
「皆さん気さくで、とても良い雰囲気をお持ちの方々でした。村も穏やかで、この村を守るためなら、俺のスキルも活かせると思います」
「そうですか。そう言っていただけると、嬉しいですなぁ」
何気ない会話をしながら歩みを進めると、村長は一軒の家の前で立ち止まった。
「これが、俺の家ですか?」
他の家と同じで木造平屋なのだが、一人で暮らすには少しばかり広すぎる気がする。
「そうですが……ふむ、何かご心配がおありですか?」
『レインズ一人には広すぎるのではないか?』
「ほほう、そうですか。デン殿は、外で生活をする事はないのですかな?」
『我はレインズの影の方が居心地が良いからな』
「そうですか。でしたら……少し離れますが、もう一軒の方に向かいましょう」
デンが俺の言葉を代弁してくれたからか、村長はすぐに別の家に案内してくれた。
しかし、すぐに別の家を案内できるという事は、空き家が結構あるのだろうか。
もしかすると、移住者が大勢来ると予想して事前に建てていたのかもしれないな。
だが、次に案内された家は……うん、家と呼んでいいのか怪しいくらいにボロボロの建物だった。
「……そ、村長。冗談、ですよね?」
次に俺の言葉を代弁してくれたのは、リムルだった。
玄関は留め具が取れかかっており、窓枠は完全に外れている。
壁にもいくつか穴が開いている箇所があり、現状では人が住めるものではなかった。
「冗談ではないぞ。元々は門番の休憩所として使われていた建物なんじゃが、最近は門番を立てる事も無くなってのう。誰も寄り付かんかったから、このありさまじゃ」
「なるほど、門番か」
俺は門番という職業に良い思い出はあまりない。
デンと出会えた事と、ガジルさんやエリカと出会えた事以外は、嫌な思い出しかないくらいだ。
だからかもしれないが、俺は門番という職業の嫌な思い出を上書きしたいと考えてしまった。
それに、ここでの俺は現状、まだ無職である。
仕事については早いうちに村長に相談するつもりでもいたので、これならば渡りに船かもしれない。
「もし、この建物で良ければ、こちらで整備に人手を出そう。それまでは、儂の屋敷に泊まればいいさ」
「で、でも、ここを整備するとなると、結構な時間が掛かるんじゃないですか?」
「何、手の空いている者でやれば、三日も掛からんじゃろう」
リムルは心配で聞いてくれているんだろうが、俺の答えはもう決まっていた。
「村長。俺は、ここで暮らしたいです」
「レ、レインズさん!?」
「良いのですかな、レインズ殿?」
「はい。それで、俺にウラナワ村の門番として、仕事をさせて欲しいんです」
ウラナワ村の門のすぐ隣に位置しているここなら仕事場から家まですぐだし、不審者がやって来てもすぐに対応する事ができる。
俺が休憩する時にはデンに任せる事も考えると、すぐ外に出られるこの場所は、やはり都合がいいのだ。
「なるほどのう。そういう事であれば、わかりました」
「ありがとうございます!」
「礼を言うのは儂らの方です。レインズ殿が門番をしてくれるなら、不審者対策も問題はなさそうですな」
「もちろん、魔獣狩りの時にも仕事はしますので」
『当然じゃろう。むしろ、魔獣キラーを存分に使うためにジーラギ国を出てきたのだからな』
何故だかデンが呆れたようにそう口にした。
俺としては至って真面目に家の事や仕事の話をしていたのだが、何かおかしなところでもあっただろうか。
『……お主、ここに来てまで門番を続けると言うのか?』
「あぁ、そうだが?」
『全く。お主は物好きだのう』
「そうか? 俺は俺なりに考えて門番をやりたいって思っているだがな」
『まあ、我はお主の決定を尊重しよう。魔獣狩り以外でも、多少は手伝ってやる』
「助かるよ、デン」
いまだに口を開けたまま固まっているリムルを置いて、ようやく俺の住む家と仕事が決まったのだった。
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