第25話:丘の上で昼食を

「レインズさーん!」


 俺は木の影から体を半分だけ出すと、笑みを浮かべて軽く手を振る。

 そんな姿が見えたからか、何やら焦ったような表情をしていたリムルの顔が安堵のものに変わっていく。

 こんなにも表情に出してくれると、見ているだけで楽しい気分になるのだが、今回は心配させていたようでさすがに申し訳なく思ってしまう。

 木のところまでやって来たリムルは息を弾ませ、額には薄っすらと汗を浮かべている。


「すまない、突然飛び出したりして」

「いえ、私の方こそ、意地を張ってしまって、すみませんでした」


 ……意地?

 俺がそんな疑問を感じていると、リムルは隣に腰掛けて下を向いてしまう。


「その……私、レインズさんが、他の女の子と仲良くしているのが、羨ましいって思っちゃったんです」

「羨ましい?」

「はい。私がレインズさんをウラナワ村に連れてきたのに、どうして他の女の子と楽しそうに話しているのかって……変ですよね。私から案内を申し出たのに」


 羨ましい……うーん、いったい何が羨ましいんだろうか。


「それは、俺が魔獣を狩って、レベッカに解体を依頼したり、バージルに武器を作ってもらえる事が羨ましいって事か?」

「ち、違いますよ!」

「違うのか? ……すまん。マジで何が羨ましいのかがわからないんだが?」

「……え? あの、えっと、私が羨ましいと言っているのは、レインズさんがってわけではなくて、レベッカさんやバージルさん、それにエミリー先生が羨ましいって事ですよ?」

「……ん? どうして俺と話をして、その三人が羨ましく思うんだ? 話なら、リムルとの方がしているだろう?」


 アクアラインズで知り合ってから、船上でも、ライバーナでも、ウラナワ村に到着してからも、俺はリムルと一番話をしている。

 それ以前に、俺と話をして得られるメリットなんて無いに等しいのだから、別に羨ましく思う必要はどこにもないと思うんだがな。


「「……?」」


 お互いに目と目が合い、同時に首をこてんと横に倒す。


「……ぷっ! あははははっ!」

「……はは。なんだ、結局、何に悩んでいたのかわからなくなってきたな」

「そうですね。あー、なんだ、そうだったんですね!」

「そりゃそうだろう。そもそも、俺と話をして得られるメリットも無いし、羨ましいわけがない」

「そんな事はないと思いますけど……でも、安心しました!」


 何に安心したのかはわからなかったが、リムルが笑顔に戻ってくれたのだから問題はない。


「でも! エミリー先生の胸を見ていたのはダメですからね!」

「うっ! ……いや、あれは俺ではなく、先生の服装を注意すべきだろう」


 健全な男性ならば誰だって目がいってしまう。

 それが美しく、色気があり、巨乳な女性であればなおさらだ。


「……レインズさーん? 変な事を考えていませんかー?」

「いや、そんな事はない」

「本当ですかー?」

「本当だ。全く、そんな事は、これっぽっちも考えていない」

「……」

「……」

「……はぁ。まあ、いいですけどね」


 何やら呆れられてしまった感じがあったが、気のせいだろうか。


「それにしても、ここはいつ来ても気持ちがいいです」

「ここは、リムルのお気に入りの場所なのか?」

「はい! 景色も良いですし、風も気持ち良いですし。昔はここで横になって、日向ぼっこをしてたんですから!」


 そう口にしたリムルは俺の目の前に移動すると、そのまま芝生の上に仰向けになった。


「……あぁ、気持ち良いです」


 横になり満面の笑みを浮かべているリムルを見て、俺はドキリとしてしまった。

 エミリー先生を見た時とは違う、なんとも表現し難いこの感覚に、俺は首を傾げてしまう。


「どうしましたか、レインズさん?」

「……いや、なんでもないよ」


 俺が微笑みながらそう口したところで、お腹の虫が鳴ってしまった。


「……うふふ。せっかくですし、ここでお昼にしましょうか?」

「……すまない」

「いいんですよ。ちょうどお昼時ですし、私もお腹が空きましたから」


 すぐに起き上がったリムルは籠の蓋を開けて弁当箱を取り出した。

 一つを受け取りそれを開けると、中には昨日の宴に出されていた料理の残りだけではなく、食べた事のない食材も入っていた。


「その、右の料理は私の手作りなので、お口に合うかはわかりませんが……」

「とても美味しそうだ。早速いただくとしよう」


 俺はリムルお手製の料理から口に運ぶ。

 サクラハナ国特産の野菜だろうか、コリコリとした歯ごたえがあり、甘みもあってとても美味しい。

 味付けも素材の味を活かすような薄味なのも俺好みだ。


「とても美味しいよ、リムル」

「あ、ありがとうございます!」


 そして、俺は弁当箱の中身をすぐに平らげてしまった。


「朝飯も食べてなかったから、まだまだ入りそうだな」

「え?」

「ん? どうしたんだ? 確か村長が朝に……あれ?」


 そういえば、村長が言い終わる前にリムルが弁当を作ってきたって言ってたっけ。

 俺もてっきり朝飯だと思っていたからそのまま出てきたけど、昼飯だったんだな。


「……す、すみませええええん! あの、私の弁当も食べてください! ぜひとも!」

「いやいや、これで満足したから大丈夫だよ!」

「だって、さっきはまだまだ入るって言ってたじゃないですか!」

「あれは言葉のあやであって、本当にそうではないんだよ!」

「うぅぅぅぅ、本当にすみませんでしたああああああああっ!」


 弁当が美味かった、そこで話が終わって欲しかったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る