第9話:リムルとの会話
「なあ、リムルさん」
「何ですか?」
「俺を、ウラナワ村に移住させてくれないか?」
「…………えっ?」
おぉぅ、固まってしまったよ。
まあ、リムルさんからすると完全に予想外な提案なんだろうな。
「あの、えっと、その」
「俺は商船に乗って、国を出ようと思っているんだ。だから、そっちに移住してもいいって言っているんだよ」
「…………ええええええええぇぇぇぇっ!?」
改めて口にすると、リムルさんは目に見えて慌て始めてしまい、両手を無駄にバタバタと動かしている。
だが、俺が移住するにあたり一つの問題がある。ここを確認しないと、移住はできないだろう。
「ただ、俺は35歳と若くない。だから、リムルさんが言っていた条件に満たさないなら、断ってくれて構わ――」
「ぜひともよろしくお願いしますううううぅぅっ!」
「……いいのか?」
「はい!」
「……35歳だけど?」
「はい! はい!」
「……本当に?」
「喜んでお迎えさせていただきます!」
……若い人とか、関係ないみたいだ。
「えっと、とりあえず落ち着いてくれ。そこの屋台で何か買ってくるから」
「はい! あの、ありがとうございます!」
俺はデンと一緒に一度ベンチを離れると、屋台に向かいながら声を掛けた。
「どうして移住したいなんて言い出したんだ?」
「ふむ。あの女は、魔獣を討伐して生計を立てていると言っていただろう」
「そうだな」
「……お主、どうしてそこまで言って気づかないのだ」
「何にだ?」
屋台に到着してしまったので、俺は売られていた串焼きを三本購入してベンチへと戻る。
「お主のスキルは何だったかな?」
「魔獣キラー……あー、そういう事か?」
デンは、俺のスキルを存分に活かせる場所じゃないのかと言いたいのだ。
確かに、魔獣を討伐して生計を立てている村であれば、俺のスキルは重宝されるだろう。
「その事に気づいたから、我の提案を受けたのだと思ったのだがのう」
「あはは、すまないな。俺は単純に、誰かの役に立ちたいって思っただけだよ」
ジラギースでの20年間は、厄介事を押し付けられただけの人生だった。
魔獣を狩る事で貢献していると思っていたのだが、それは俺がそう思い込んでいただけで、ガジルさんやエリカ以外からは評価すらされていなかった。
魔獣キラーは俺の一部だ。だから、このスキルと共に誰かの役に立てるのであれば、移住してもいいかと考えただけなのだ。
「お待たせ」
「待ってません!」
「……お、おぉ、そうか」
一本をリムルさんに手渡し、一本をデンの前に置き、一本は自分で食べる。
咀嚼している間は無言だったものの、リムルさんはずっと笑みを浮かべており、とても嬉しそうにしている。
……この感じなら、俺が移住しても問題なさそうだな。
「あっ!」
「んぐ? ……ど、どうしたんですか、レインズさん?」
「リムルさんは、どの船に乗るんだ? 俺はガイウスって船長の船なんだが?」
乗る船が違えば行き先も変わってくる。
場合によっては交渉のやり直しになると思い慌てて問い掛けたのだが、その心配は杞憂に終わった。
「そうなんですね! なら、大丈夫です。私もガイウスさんの船ですから」
「そうか……はぁ、なら良かったよ。それなら、リムルさんはずっとガイウスさんの船で移動しているのか?」
「はい! 私が乗船させてもらう前にも、複数の国を回っていたみたいですよ?」
ほほう、それなら安心だな。
俺に護衛みたいな事をしてもらうと言っていたが、必要ないんじゃないかな。
「専属の護衛でもいるのか?」
「魔獣が出た時ですか? いるみたいですけど、専属はどうでしょうか……ずっと一緒にいる人は、一人くらいですかね」
「一人って……他には?」
「移動先に行きたい冒険者を雇っていたみたいですけど、ジーラギ国には冒険者ギルドがないみたいで、雇えなかったみたいです。なので、その一人の方と船員の方が魔獣と戦ってました」
……なるほどね。だからガイウスさんは嬉しそうに笑っていたのか。
まあ、タダで護衛を雇えるなら儲けもの。さらに魔獣キラーなんてスキル持ちであればなおさらだろう。
「俺も護衛になれって言われているから、魔獣が出ない事を願うばかりだな」
「えっ? レインズさんって、戦えるんですか?」
「元兵士だからな」
そう口にしながら、俺は腰に下げた剣を叩く。
先ほどの酔っぱらいを叩きのめした時は素手だったから、喧嘩の強いおじさんくらいにしか見られていなかったのかもしれない。
「す、凄いです! 先ほども言いましたけど、ウラナワ村では魔獣を討伐して生計を立てているので、強い方は本当に大歓迎なんです!」
「強いかどうかは置いといてくれ。元兵士とは言っても、解雇された出来損ないだからな」
「ガウッ!」
いや、この場で魔獣キラーの話はマズいだろう。
ガイウスさんへの説明は乗せてもらうために必要だったから仕方ないにしても、出発までもう少し時間があるんだから、誰に聞かれるともしれない。
俺は、少しだけ騙している事を申し訳なく思いつつ、リムルさんと時間を潰すのだった。
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