第23話 意地っ張り過ぎる俺は、担任の先生を脅してしまいました。

「ムトーくん、ガルムの傷を癒すなど、君は何をしているかわかっているのか?」


 エバハンがまるで生ゴミを見るかのような視線をよこしながら言ってくる。


 ……わかんよそれくらい、バカな俺でもよ?


 アンタにゃ常識があって、この地域には地域のルールがあって、きっとそん中じゃあ、犬ってのは“敵”なんだろ?


 そんでその大事な大事なルールを破るわけには、破らせるわけにゃいかねぇ。


 なぜならそれは、怖いことだから。


「……へっ、わかってんよ、犬っコロに味方しちゃいけねぇ、味方すん奴を許しちゃいけねぇ、きっとそいつが、ここでの常識でルールなんだろうよ?」


「そうだ! 君はまだ子供だからわからないかも知れないが、ルールというも……」



「わかってんよ、そいつぁ俺も同感だ!」


 エバハンがドヤ顔に変わりゆく瞬間、俺はでっかい声で言ってやる。


「ルールってなぁ大切だよ。気分が悪ぃ時も、ウカレポンチな時も、同じ“前”を向いているために、今日よりかっこいい明日を手繰り寄せるために、そいつは確かに必要だ!」


 「そ、そうだろうそうだろう、いってることはよくはわからないがわかってくれたようだね? わかったらガルムをこちら……うぉっ!」


 少しニヤけながら近づいて来るエバハンの膝の裏を思いきり蹴り上げてやる。


「……くっ、教師になんということを」


 尻餅をついたまま、エバハンが俺に恨めしげな視線を向ける。


 そこには心底俺を見下した、……というよりはただ悲しさが含まれているように見えた。


「いい歳こいて何も知らねぇようだから教えてやる、俺のルールってのはなぁ……」


 オドオドとした悲しげな瞳を力強く睨みつけながら言ってやる。


「60億人の他人と、たった1人のダチが天秤にかかった時ゃあな! ダチの方を優先しなくちゃらなねぇ! それが俺のルールなんだよ!」


「そ、そんな我儘許されるわけ……」


「じゃあテメェのそれはワガママじゃねーってのかよ? テメェの都合で犬っコロをぶっ殺して、助ける奴に噛み付いてよぉ?」


 尚も悲しげに睨み続けるエバハンに俺は言葉を続ける。


「俺の方がテメェより正しいなんて言わねーよ! 何が正しいのかなんて俺にはわかんねーからよ?」


「なら、そんな子供騙しの屁理屈と一緒にするんじゃない! いいか? これは平和を守るためのルールなのだ! これまで魔物に殺された人達を知らないからそんなことが言えるんだろう? これは身を守るためには仕方のないぐはっ……」


 言葉の途中、エバハンの顔面を軽く蹴り付けてやる。


 犬っコロの腹に針をぶっ刺した時、こいつは軽くドヤっていた。


 悪を打ち破る自分に酔っていたんだ。


 そいつが本当に悪なのかなんて見ようともせず。


 知らなければ罪じゃないとばかりに迷いなく。


「だから言ってんだろーがよ? こいつは正しいとか間違ってるとかの話じゃねぇ」


「俺はよ? 曲げねえんだ、……絶対に」


 そこで俺はエバハンを一層強く睨みつける。


「ならよ? どっちのルールが通るのか決める要素はたった一つ、……気合だ!」


 そんな俺の自分勝手な発言に対して、恨めしげに睨んでくるエバハンに、不敵に微笑み返してやる。


「で、アンタ、……俺をねじ伏せてでもそいつを通そうって気合はあるか?」


 そこで俺はあえて『殺す』という念を頭に無理矢理貼り付け、エバハンの目を真っ直ぐに、強く睨む。


「……っ、……うう」


 鋭く睨み返して来ちゃいるが、その瞳は僅かに揺れている。


「どうなんだ? 答えねぇか!」


 俺のダメ押しの怒号にエバハンはビクリとハネた後、小さく答える。


「……わかったよ、君には何も言わないよ」


 

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