〜魔物を殺せない社会不適合者の俺は、ずっとレベル1のままなのになぜか魔物のキングになりました〜

ゆきだるま

三面犬編

第1話 バカな俺は、動物大好きが故に死んでしまいました。

「俺はよ曲げねぇよ、……絶対に」


 俺は先生を、強く睨みつけながら言った。


 せっかく入った新しい学校、新しい土地で俺は手に入れた、そんな場所で言ってしまった。


 初めての、“受け入れられる”ってやつをくれた場所。


 それは本当に奇跡みてぇな環境で、俺の心を躍らせてくれた。


 けれど俺は、担任の先生を睨みつけながら言う。


「人間、やっていいことと悪ぃことがあんだよ」


 俺の心の奥深く。


『やだよ、怖いよ、無くしたくねぇよ』


 って気持ちのもっと奥。


 そこにひっそりと鎮座する『理想の自分』が追い立てる。


『ビビってばっかじゃ、オメーは一生ダセェままだよ』


 だからツッパれよ! おかしいことはおかしいって言っちゃえよって責め立ててくる。


 だから俺は言うことにした。


 けれどどうやら俺は、ここでも“間違ってる”らしい。


 呆れたような先生の顔。


 侮蔑と嘲笑の混じったクラスメイト達の視線が、それを俺に嫌がおうにも伝えて来る。


 別に、誰かに間違ってるって言われたら、多数決で負けちまったら“間違ってる”ってワケじゃねーことくらいは知っている。


 けどよ? 誰も肯定してくんなきゃ、正しいなんて思えねぇ。


 いつだって強がって生きちゃきたけど、どうやら俺は思ってたより寂しがり屋らしい。


 だから誰かに認めて欲しかったんだ。


 けれどどうしていつも、先生の言うことは正しくて、俺は間違っちまっているのだろうか?


 俺ぁバカだし、そういうのを考えるのは得意じゃない。


 けどよ? バカならば従わなけりゃならねーってのか? どうして生まれたのかも、どうして今も守られているのかもわからない“常識”って概念ってやつに。


 もしも、俺よりも頭のいい誰かが考えた常識が、誰かを傷つけているのならば、俺もそれと一緒になって、そいつを傷つけなきゃなんねーのか?


 それが常識だから?


 そいつは間違ってる存在だから?


 だから、間違ってる存在のことは、好きになっちゃいけねーのかよ?


 どんなにそいつが優しくて、あったかくてもダメなのか?


 ……そんなの、悲しいじゃねーか。


 わけがわからなくなった俺は、黙って歩き出す。


 振り返りはしない。


 悲しいけれど絶望はしない。


 俺は正しくなんてなりたくねえんだ。


 ただ、“暖かく”ありたいたいだけだ。


 だから俺は身体が動く限りダダをこね続けてやる。


 そんなバカな俺がどうしてこうなったのか。


 これから俺がどうするのかをどうか見届けて欲しい。


 そしてお前らも一度考えて欲しい。


 バカなことをどうしてもやりたくなった時。


 ダチがバカなことをやり始めた時。


 そのお前やダチんこにとっての“宝物”をバカにしそうになっちまった時、一度立ち止まって考えてくれ。


 心の中に強い想いがあることが、そいつがテメェの頭ん中にとてつもなく綺麗な未来を見せてくれていることが、カッコ悪いワケなんてねぇんじゃねーのってよ。


 だってそーだろ?


 もしもバカにする奴がいたら、そいつがバカだけだ。


 もしもそいつが大事な奴なら、「バカだなぁ」って温かい目を向けてやれ。

 

 もしもそいつが、お前にそれを辞めることを望むのならば、「絶対やめない」ってことを全開で見せてやれ。


 それで壊れる関係ならそれまでだ。


 どんなに大事な関係だって、時にはギャンブルかまさなきゃなんねぇ。


 関係をただひたすら現状維持することなんてできゃしねーんだ。


 人も、人生も常に前に進んでる。


 前に進み続けるもん同士が仲良くし続けるためにゃ、怖くったって前に進むしかねぇ、そうだろ?


 バカな俺がよ?


 それがゼッテーに大事なことなんだってことを見せてやるからよ?


 


卍卍卍



 俺の名前は武藤武。自分で言うのもなんだけど、俺はすげぇやつだ。正義感は強ぇし、優しいし、おまけに喧嘩じゃさいたま市最強の16歳だ。


 勉強できねーのがタマに傷だけど、人間弱点くらい誰にでもあるよな。


 けどそんなスーパーさいたま人であるこの俺、なんと周りからの評価はイマイチ!


 ……いや、俺のスーパー具合から考えりゃあサイテーだ。


 乱暴者・バカ・空気読めない、などなどそんなのばっかし。

 

 俺のとーちゃんに至っては、『お前、……もう30年早く生まれてりゃよかったのになぁ』なんて言われる始末。


 なんでも昔の学校には生徒会長でもキャプテンでもない、“番長”って生徒が学校にいたらしくて、昔なら俺はその番長になれただろうって話。


 そういうマンガを親父に借りて何冊か読んでみたけど、どうもしっくりこない。


 俺以上にロクデナシな奴が好き勝手暴れて人気者になったり、そもそもロクでもない暴れん坊な奴らが学校にたくさんいたりとファンタジーとしか思えない感じだ。


 ま、なんせ今の俺にはんなこたぁ全くカンケーねぇってこと。


 別に皆んなに好かれたくて戦ってんわけじゃねーし。


 別にダチくれーちっとくらいはいるし。


 ……寂しくなんかねぇよ。


卍卍卍


「ありがとうございます!」


 男が俺に頭を下げる。


 数分前、俺は街でチンピラに絡まれる男を見かけ、正義感の固まりであるこの俺は、チンピラをブッチめて男を助けてやった。


「ま、気にすんな? ただの暇つぶしだよ」


 ニヤけそうになるのを我慢して努めてぶっきらぼうに言う。


 すると男は感激した眼差しを俺に向ける。


 この男にすりゃあそれは大したことなのかもしれない。自分よりも圧倒的に強い奴に絡まれて脅されていたのだ。


 まあ、俺は今まで自分よりも強い奴なんて見たことはねぇからその気持ちはわかんねぇけどな。


 ダメだ、ニヤけそうだ。


 感謝されるのにも飽きた(ポーカーフェイスを維持できなくなった)ので、俺は手をひらひらと振りながら歩き出す。




 ま、あたりまえのことをしただけだ。力ある者はそれを世の中に役立てなきゃな!


 天に二物を与えられた男の使命ってやつだ。


 中学に入った辺りから周りの奴らが俺を避けるようになったが気にはしない。


 俺が助けてやった奴も俺を避けるけど気にはしない。


 影で皆が俺のこと“バカタケシ”って呼んでるけど気には……。


『俺って、……バカなのかな?』


 

 確かに俺はサンスウは意味わからなくて苦手だし、先生が言ってることもよくわからん。


 だから俺は高校には入らず工事現場で働き始めたが、今度は先輩の言ってることが意味わからん。


 だってよ?


「水とセメントは5対5だからな?」


 なんて言ってくっからよ?


「ん? なんすか? 5対5って喧嘩っすか? 僕ぁ5対1でもいけるっすよ?」


 っつったらよ? 先輩殴りかかってくんだよ。

 

 ほんと意味わかんねぇよ。


 ほんと、……意味、わかんねぇ。


 多分それもよ? 俺がバカなんだってことなんだろーけどさ? 俺が何したってんだよ。


 そりゃあそのキレてきた先輩もぶっ飛ばしちまって仕事もクビだしよ? かーちゃんにメーワクかけちまってるとは思うけ……。


 ん? あれは、……やべぇ!


 交差点の真ん中、小さなウサギがいて、トラックに轢かれかかってる。


 すかさず俺はウサギに向かって猛ダッシュ。


 バカって言われても、メーワクばっかかけてても、困ってる奴をほっとくわけにゃあいかねぇ。


『よし!』


 なんとか轢かれる前にウサギを抱き抱える事に成功した。


 ふう、これで今日は善行を二つも……っ?


 横を見ると俺に向かって迫り来るトラック、止まる気配はない。


「……ふっ」


 こいつ、俺を誰だと思ってやがる?


 俺は武藤武! この街最強の男だ。


「この俺にトラック如きが勝てるとでもガフォッ!」


卍次回卍

『埼玉から出たことのない俺は、気がつけば北海道の草原に取り残されていました』

ぜってー読んでくれ!


 



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