第9話 8
あれ?話通じるようになったのはいいけど、みんなが喋ってるのは何語になるんだろう?
世界中を旅してる社長も、奥さん放置で国際交流のウェルさんも疑問に思わないのかな?あっ、咲さんはそういうの気にしない人です。
「わたしは異世界からまいりました」
はいはい、異世界ねー。ってハァ!?
「まぁ、さっきのを見せられたら信じるしかないな」
しゃちょお!?何言ってるの!?
「僕はアイシャさんを信じるよ」
ウェルさんも思考停止ヤメテ!
「ごめん、異世界って何?アイシャちゃんは幽霊ってこと?」
「あー、咲はわからないか」
社長は苦笑いをする。え?社長もしかして異世界転移系ご存じ?咲さんはみんなの顔を見て「えっ?どういうこと?」と困っている。
「それで、アイシャさんの目的は?どうして欲しいの?」
俺の言葉に一同の視線が集まる。
「わたしに衣食住を提供してください!」
まぁそうだよね。匿って欲しいんだもんね。
アイシャさん、だからなぜ俺を見つめるんですか。匿ってもらうなら社長に・・・
「いいじゃん、笠井の家住ませてあげなよ」
「社長!?無理ですって!ほら、俺男だし危ないでしょ!?」
言った瞬間にアイシャさんの表情が曇る。いや、そんな泣きそうな顔をしてもダメだからね!?
「ぐすっ、うっ・・・。ハルくん良かったねぇ。もうさみしくないよ?」
なんで咲さんが泣いてるんですか。
「僕は今日、歴史的な瞬間に立ち会えているんだね」
ウェルさん、俺もその傍観者ポジが良かったです。
「じゃあ明日も仕事あるし、お開きでいい?」
「咲さん待って!!」
俺は席を立とうとする咲さんを座らせると、大きく溜息をついた。
ーーー
アイシャさんの話をまとめると、こうだ。
アイシャさんの元いた異世界で、彼女は王族だった。
それで、十五歳の誕生日を明日に控え、その日に結婚する予定だったけど逃げ出して今ここにいる、という流れだったみたい。
えっ!?アイシャさん十五歳だったの?
「同居するにあたって未成年なんですけれどそれは・・・」
俺は懸念事項をすぐさま伝える。
「その前に戸籍が無いよな」
「僕の国に行けば難民として戸籍がもらえるかも!」
「どうやって日本から出るんだよ」
「それは・・・アイシャさんの魔法でどうにかならない?」
「・・・ぐー」
咲さんもう寝てるよ。限界か。
「会社の奴らには言っとく。とりあえず明日は一緒に出勤して」
「何を言ってるんですかあああ!」
「とりあえず店に直出勤でいいから。後で有休出せよ。咲、ほら行くぞ。ウェル、悪いがここで解散だ。アイシャの件で明日話せないか?」
「そうだねー。十八時以降なら大丈夫」
「よし、明日は笠井のとこに集合で」
「だーりん♡ぎゅーってして」
社長に揺すられ、寝ぼけた咲さんが社長に抱きつく。イチャイチャしてんじゃねーよ。・・・じゃなくて、
「無理!色々無理!!」
俺の叫びも虚しく、ウェルさんが手をヒラヒラさせながらお先に帰りますスタイル。社長は俺を見ながらニヤニヤと口角を釣り上げると咲さんを抱き寄せながら帰って行った。
残ったのはアイシャさんと俺。
・・・・・・
「とりあえず、帰ろうか」
「ハルト様、お気になさらず。いつでも準備はできています」
何の準備だ、何の。
九つ下と判明した彼女は、俺の心中を気遣うことなく無邪気に笑うのだった。
くそっ。頭の中の整理がまだ終わらないこんな時だというのに、彼女の年相応の笑顔にぐっときてしまった。
「和みました?」
「お、おう」
ほんとに十五歳なんだなぁ。
「ではハルト様、まいりましょう」
「あ、あのさぁ」
「どうしました?」
首をかしげてみせるアイシャさん。
「アイシャさんはさ、その、怖くないの?俺のこと」
「怖い?」
「ぶっちゃけて言うとさ、俺アイシャさんみたいな可愛い子と一緒に住むとか我慢できる気がしないんだよね」
「わたしのことはアイシャとお呼びください」
「いいのか?王族なのに」
「親しい人ならば呼び捨てで構いません。社長さんは別に親しくないのですが、年上の功ということにしておきましょう」
いつ親しくなったかはわからないが、本人が望むならそうしよう。
「わかった。アイシャと呼ぶね」
じゃなくてさっきの俺の質問に答えて欲しいなぁ。
「実はわたし、ひとつハルト様に隠し事をしてるんです」
「そ、そうなんだ」
「実は・・・ハルト様と会った時からハルト様の心の声は全部わたしに聞こえてます」
「ええええええ!?」
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