第1話 

夏休みは、実家に帰ることになっていて、はるかちゃんと会えない日々が続いていた。


時々PHSピッチに電話しても、素っ気ない返答ばかり。

しかも、8月の初め頃は繋がらない期間もあったりと、なんだか謎だらけだ。


でも、8月の下旬にあるバイオリンコンクールに康平が出ることになっていて、その伴奏を引き受けることを条件に、コンクールの前々日にある花火大会デートをなんとか取り付けた。


その日までに寮に戻り、康平と演奏の最終詰めをして…


とにかく花火大会デートだ。


しかも、浴衣を着てくることも条件に加えていた。

俺も気合いを入れて、浴衣を実家から持ってきている。


あれからも、はるかちゃんは相変わらずの感じで、カバンも持たせてくれないし、付き合ってるような素振りも見せてくれない。

だけど、それは俺だから、という訳ではないだろうと思ってる。


彼女は、人を好きになったことがないのかもしれない。

特別な人、という感情がすっぽ抜けているような。

俺だからダメ、ということでなければ、チャンスは必ず来ると信じている。


花火大会に行くために、寮を出て、はるかちゃんの最寄駅まで電車に乗る。


はるかちゃんは毎日、この電車に乗ってるんだよなぁ。

地方から進学している俺は、寮生活だ。

徒歩で学校で通える環境は恵まれているとはいえ、一緒に電車に乗って通えたらどんなに楽しいだろう。


6駅ほど過ぎて、待ち合わせの駅のホームまで辿りつく。

はるかちゃんの家の最寄り駅だ。


電車がホームに入っていくと、流れる窓ガラスに、浴衣姿のはるかちゃんが見える。


可愛い!!


なんという破壊力だ。

早く側にいかないと、あらぬ男性どもが寄っていきそうだ。


「はるかちゃん!!」

俺は、電車を降りて、はるかちゃんの元へ猛ダッシュ。


「圭吾くん…気合い入ってるね」

俺の浴衣姿を見て、呆れ気味に言うはるかちゃん。


「はるかちゃん、浴衣似合ってるね。可愛いよ」

「浴衣着る約束だったからね」

「うん。でも想像してた以上に可愛い」


「次の普通列車に乗り換える?」

「その方がいい?」


俺がいくら可愛いと言っても、興味無さそうなはるかちゃん。

どの電車に乗っていった方がいいかは、ずっと東京に住んでいるはるかちゃんの方が詳しい。


「急行で次の駅で乗り換えてもいいけど、この時間混むから」

「そっか。任せるよ」

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