第3話

泣き崩れる君塚くんの背中をさすり、困った顔をする小宮山さん。


俺は、バイオリン専攻の同級生に伴奏を頼まれたと思っていたが、その裏には俺への告白も含まれていたことを知り唖然とする。

しかし、ここで引くわけにはいかない。


「君塚くん、君のことはこれまで特別考えてなかった。好きでもないけど、嫌いでもない。

だけど、俺は小宮山さんが好きだ。小宮山さんが俺と付き合うというのであれば、君塚くん、君の伴奏をしよう」


「康平はね、去年からずーっとあなたのことが好きで、あなたのピアノも好きで、ようやく今、言えたのよ?

そんな取引みたいなこと言わないで!」


君塚くんは、横にいる小宮山さんに助けを求めるような目で見つめている。

小宮山さんは、どうやら君塚くんの騎士ナイト気取りだな。


「そうか…君塚くん、君はいつから俺のことが好きだった?」


「去年の6月の学内演奏会から…」


それを聞いて俺はニヤッと笑った。


「俺は入学式の時に小宮山さんに一目惚れだった。

申し訳ないけど、俺の方が片思いは長い。諦めてくれないか?」


順序の問題ではないのは分かっている。

しかし、筋道を決めて話して君塚くんを納得させれば、俺は小宮山さんにとって悪者にならないかもしれない。


これを聞いて、君塚くんはしばらく俯て考えている。


頼むから、突拍子もないこと言って俺を悪者にしないでくれよ。

俺はリスクを取って勝負に出たんだから。


「諦められない…


諦められないけど…


伴奏して欲しい!!!」


君塚くんは急に立ち上がり、小宮山さんの胸ぐらを掴む。


「ちょっ!康平!!どうした?壊れた?!」


「はるかちゃん!僕の想いが届かなくても、音楽を通じて僕の想いを昇華させる!

同性で付き合えるなんて最初から思ってなかった。

だから、せめて叶わない想いでも、音楽だけでも重なりたいんだ!!!」


すごい勢いに圧倒された小宮山さんは、君塚くんの肩をポンポンと叩きながら、落ち着かせようとしている。

見つめ合う2人。


観念したように、小宮山さんが俺を見た。


「私があなたと付き合ったら、本当に康平の伴奏引き受けてくれるのね?」

「約束するよ」


「私、付き合ったことないから、よく分からないわよ?」

「良かった。俺も付き合ったことがないから一緒だよ」


さぁ、俺に落ちてこい。


「分かった。付き合うわ」

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