第8話 行け! プアール!

 タダノ課長は、プアールに命令した。


「さぁ! 行け! プアール! 配達だ!」


「ラジャ!」

 勢いよくプアールが飛び出した。


 いやぁ、素直な子っていいよね。

 疑うこと知らないから。


「今度は遅れない! 5秒以内に即配達!」

 うおっぉぉぉぉぉ!


 megazon本社の自動ドアが砕け散る。

 プアールのママチャリが突っ込んだのだ。


 ――配達先は?

 プアールは伝票を即座に確認する。

 ――91階大会議室!

 残り時間あと3秒!

 ――ちっ!エレベーターは人が多すぎる。

 その刹那、プアールはママチャリの後輪を滑らせた。

 そして、階段へ レッツゴウ!


 メガゾン本社の階段を怒涛の勢いでママチャリが駆け上る。

「のけのけぇぇぇぇぇぇ!」


 ドカーーーン!

 会議室のドアが勢いよくはじけ飛ぶ。

 次の瞬間、ママチャリが会議室に突っ込んだのだ!

「おまたせしやしたぁぁぁぁあ!」

 ギギギギギギ!

 ドリフトしていくママチャリ。

 スライドするタイヤから煙が立ち上る。

 ドン!

 滑ったママチャリが勢い余って、イヤマ部長にぶつかった。

「いてぇぇぇぇ!」

 椅子から転げ落ちるイヤマ部長。


「ご注文の品お届けに参りました!」

 プアールが大声で叫んだ。

 残り時間0秒!

 ――まにあったぁぁぁぁぁ!


 訳が分からない大会議室には、プアールの声だけが響き渡っていた。

 200を超える視線がプアールへと集まっていた。

 長細い円卓に、もうたくさんの役員がずらりと並ぶ会議室。

 その末席に座っていたイヤマ部長がいきなり吹っ飛んだのである。

 テロか!

 カチコミか!

 いや配達員だ!

 しかも、ウチの配達員だヨ!


 プアールは、イヤマ部長の前に転職雑誌をバサッと置いた。

「それと、これもですね」

 続けざまに、エロ本を5冊ドカッとおいた。

 その反動で、エロ本が机の前にばらばらと落ちた。

 ご丁寧にビニール包装を取ってある。

 エロ本の袋とじ付録まで開帳済み。

 そのおかげで、エロ本の一番いいところが、股を開くかのように会議室の床の上で広がった。


 周りの役員たちが立ち上がって、覗き込む。

「イヤマ部長! これは一体何なんだ!」

 堰を切ったかのように会議室がざわめいた。

 イヤマ部長の顔を覗き込むもの、エロ本を覗き込むもの、エロ本をポケットにしまおうとするもの……あれやこれや、もう大変。

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