少年と先生

みこ

少年と先生

 チキンレースが流行っていた。8歳。

 オレは、小学3年生。

 過激なことをすれば、面白いと言われ、すごいと言われてみんながついてきた。


 勉強なんて、大人の言うことをなんでもほいほい聞くような馬鹿のやることだと思っていた。

 担任も、スーツなんか着ちゃって、眼鏡なんかかけちゃって、あんな金太郎飴みたいな人間になるくらいなら、勉強なんてするほうが負けだと思っていた。

 椅子に座って机に向かって、大人しくするなんて、奴隷か何か製造機なんじゃないかと、本気でそう思っていた。


 ある日、クラスのみんなで、授業をボイコットしようという提案があった。

「それってさぁ、授業中にやったら面白いんじゃね?」

 決行は算数の授業中。授業開始から10分後がスタートだ。

 ゴールは正門。一番にくぐったやつが勝者だ。

 5……4……3……2……1……。

 時間になってから、先生が後ろを向いた瞬間、まずヨウが椅子から床にすっと降りた。

 これはやばい。

 名誉にかけて、オレが1番にならないといけないんだ。

 ヨウが教室を出て、ダッシュした瞬間、廊下がバタバタと音を立てたので、先生が気づいて教室の前側のドアを開けた。

「あっ!コラ!」

 脱走に気づいて教科書を教卓の上に投げるように置き、廊下へ向かった。

 その隙をついて、後ろのドアからヨウとは逆方向へ走り出す。

 教室からは、「ヨウがんばれー!」だの「サクタ行けー!」だのといった歓声が聞こえる。

 担任は、ヨウを追いかけると思ったが、予想外にオレの方へ走ってきた。

「はっはーーーー!」

 担任を煽るような言葉を吐いて、全力で駆け出した。階段を駆け下りる。

 後ろから走ってくる音が響いた。けど、いくら大人でもあんなスーツで、あんな眼鏡で、オレに追いつけるわけない。

「負けるかあああああああああ」

 叫びながら走り、あと1歩で校舎を出る、と思ったところで、ヒョイ、と腹をつかまれ持ち上げられてしまった。

 見ると、担任だ。

「え…………」

 息が上がっている。気がつけば、自分も息が上がっていた。

「は……はぁ……はぁ……」

「……はっ……はぁ……ヨウは田中先生が捕まえた。観念するんだな」

「…………」

 つかんでいる腕が気になって、顔が熱くなる。

「う…………あ…………」

 持ち上げられているのが恥ずかしくなって、腕を離させようともがいた。

「観念しろって」

 言われて、腕が余計に強くしめられるのを感じた。

「わ、わかったから!教室帰るから!」

 暴れてなんとか離してもらって、先生の後ろをついて歩いた。

 目の前には、階段をのぼるワイシャツ姿の背中があった。広い背中だ。

 熱くなった顔は、一向に熱が下がらなかった。

「せ、先生のぶぁーーーーーーか!!」

 なんか悔しくなって、つい言ってしまう。

 担任が振り向いた。

「はぁ!?何言ってんだ……!?」

 顔が熱いのを隠すように、教室まで走って戻った。

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少年と先生 みこ @mikoto_chan

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