第4話:ヌードデッサン・ラブ
「おい俊輔、美術部に一年の天野しずくが入部したってホントか?」
天野さんと今でも信じられないヌードデッサンをやった次の日、登校するやいなや友人の
矢上とは幼い頃からの腐れ縁で、小学生の時は一緒にサッカーをやっていた仲だ。
絶妙なパスと気の利いたポジショニングには周りから一目置かれるような奴で、日常生活でもサッカーと同じように仲間の面倒見がいい。
だから小学校時代のサッカー友達と袂を分けた今でも気軽に俺へ話しかけてくる奴は、正直こいつぐらいなもんだった。
「ああ。昨日入部したけど……なんだ、天野さんって有名人なのか?」
「おいおい、知らねぇのかよ? 天野しずくは一年生にして早くも
なんだよ、おっぱい神セブンって。
「これは是が非でも我がサッカー部のマネージャーにしたいと、昨日の放課後に勧誘するつもりだったんだ。それが忽然と姿を消して、必死に探してたんだけど……まさかお前んとこにいたとはなぁ」
矢上が頭に手をやると大袈裟に天を仰いだ。
あー、なんだ、有望な新人選手を差し置いてまずマネージャーを勧誘しようってのは間違ってるぞ、矢上。そんなんだからここの中学のサッカー部はなかなか強くなれねぇんだよ。
「で、お前、部活紹介で『美術部は部員同士のヌードデッサンをやる』とか言ってたよな? まさか昨日の放課後、天野さんと秘密のヌードデッサンをやった、とか?」
「アホか! お前も知ってるだろ、アレは美術部毎年恒例のギャグなんだよ。まぁダダ滑りだったけど」
「ああ、そう言えばお前、あの言葉に騙されて美術部に入ったんだっけか」
「うっせぇよ。とにかくそう言うことだから、ヌードデッサンなんてやるわけないだろ!」
まぁホントはやったんだけどな。
やっちまったんだけどな。
「なんだよー。男なら有言実行だろ。天野さんだってその気だったかもしんねぇし、お前が強気に出ればもしかしたらあの神おっぱいがポロンと」
「アホか、マジでそんなことしてるのを見つかったら大騒ぎだろうが」
「いいじゃねぇか。大騒ぎになっても。何があっても俺はお前の味方だぜ、俊輔」
「……矢上」
「照れるなよ、俊輔。昔から俺たちってそういう仲だったじゃねぇか」
「いや、そうじゃなくて。そんな臭いセリフ、言っててよく恥ずかしくねぇな、って」
「そっちかよ!」
と、その時だった。
「おい、大変だ! さっき三組の小森が一年の天野しずくに告白したってよ!」
扉を開けるやいなや乱れた息を整えようともせずいきなり叫んだクラスメイトAの報告に、教室が俄かに色めいた。
「マジかよっ!?」
「小森君のロリコン疑惑ってホントだったんだ」
「天野しずくってあのおっぱいがでかい一年生のことだよな!?」
そう、そして
それにしても天野さん、やっぱり結構な有名人だったんだな。
「で、結果はいかに?」
「それが無念にも小森殿の討ち死にでござる」
「おお。いとあはれ。死して屍拾う者なし」
いや女子よ、誰か拾ってやってくれ。
「でもな、諦めきれない小森が『誰か好きな奴がいるのか?』って訊いたんだよ。そしたら天野さん、誰の名前をあげたと思う?」
ん?
「お前ら、その名前を聞いたら驚くぞ!」
んん?
「なんと、うちのクラスの奴でさ」
お、おい、まさか……。
「はい、答えは北中の
クラスメイト全員の視線が一斉に俺へ集中した。
ちなみに俺自ら一匹狼を気取ったつもりはない。
ただ学校では友人らしい友人が矢上くらいしかいなくて、基本的にボッチだからついたあだ名だ。
「天野さん、なんでよりによってチビの中林なんかに……」
「目つきの悪いチビが好きなのかしら」
「まぁ、中林君って不良っぽいところがちょっとカッコいいよね。チビだけど」
あちらこちらから俺へのやっかみやら、辛辣なご批評やらが聞こえてくる。
てか、チビチビ言うな! 蹴っ飛ばすぞ。
「俊輔ぇ!」
居心地悪く佇む俺に、矢上がいきなり抱きしめてくる。
おお、矢上、お前だけだよ、祝福してくれるのは。
「お前、天野さんに何をしたっ!? か弱き一年生を脅して交際を迫るとか、天が許しても俺は許さんッ!」
そして本気で首を絞めてきやがった。
おい、お前だけは俺の味方なんじゃなかったのか!? さっきの臭いセリフは一体なんだったんだ!?
☆ 一ヵ月後 ☆
「『時は来た、それだけだ』ってゴッホも言ってますよ、先輩!」
「それ言ったのゴッホじゃなくて破壊王だから! てかどうして天野さんがそんなセリフを知ってるの!?」
キターーーーとばかりにアホ毛をビンビン立たせる天野さんの言葉に、思わずツッコミを入れた。
何故に破壊王とゴッホを同一で語ったし? そもそも天野さんはおろか俺だって、その台詞を吐かれた時にはまだ生まれてもいなかったぞ。
まったく、ネットで色んな知識が手に入るのはいいけれど、おかげで会話がカオス気味になってしまうのは現代社会が生み出した歪みだと思う。よくは知らんけど。
さて。
なんだかんだで天野さんが入学してきて一ヵ月が経っていた。
その間、ホント気が休まらなかった。
天野さんのあの発言でやたらと俺たちは注目を集め、特に新聞部の奴らから執拗に付け回されたからだ。休み時間は勿論のこと、放課後の旧美術室にまで押しかけられた。
で、こっちは普通に天野さんの絵の指導をしただけなのに、翌日には「噂のふたりが急接近!? ふたりきりの部室でラブラブレッスン!」と誤報も甚だしい壁新聞が張り出される。
この国の報道機関はこんな年齢からして腐っていやがるのかと痛感した。
おまけにこんなストレスが溜まる状況下でも、天野さんが「ヌードデッサンしたいです!」なんて鼻息荒く追い打ちをかけてくるんだからたまったもんじゃない。
どれだけ俺の裸を見たいのか。それともやっぱり天野さんには露出狂の気があるのか。どちらなのかは知らないが、とにかく天野さんはことあるごとにヌードデッサンを要求し、その度に俺が拒否したもんだから、さすがに良い子ちゃんな彼女もへそを曲げ……たりはせず、より積極的な行動に出てきた。
「先輩……だったらその……私の家でやりませんか?」
ヤりませんかって一体何を!?!?
って、ヌードデッサンに決まっているが、それはそれでやっぱり問題がある。
天野さんの家ってことは、彼女の部屋でやるんだろ?
女の子の部屋なんて入ったことないけど、天野さんが日頃から生活している空間なんだ。勿論だけど天野さんの匂い、天野さんのぬくもり、天野さんのこれまでの全てが詰まっている。そんなところで天野さんの生まれたままの姿を目の当りにしたら……ダメだ、今度こそ俺は自制出来る自信がない!
おっぱいに触るどころか、下手したらもっとすごいことまでやりたくなってしまってもおかしくない。だって俺、背は低くても正常な中学三年生だもん。
「ダメ! 絶対にダメ!」
てことで拒否。この若さで社会からレッドカードを食らいたくない。
「なんでですかっ!?」
「俺にそれを言わせるかっ!? とにかくダメったらダメだ」
「ううっ。したいー! やりたいー!」
「女の子が『したい』とか『やりたい』とか言うのもダメ!」
勿論ヌードデッサンをしたい、やりたいって意味なのは分かってるけどな。
それでも執拗にヌードデッサンを要求してくるものだから、本当に大変だった。よくぞ欲望に打ち勝ったな、俺。感動した。
そして、そんな状況が変わったのは一週間ほど前のことだ。
水泳部のイケメンと、去年の学園祭でミス北中に選ばれた女の子がGW中に急接近、めでたく付き合い始めたことが発覚した。
しかもそのミス北中が交際を機に水泳部へ移籍したから、新聞部は勿論、他のやじ馬たちまでプールへ殺到。かくしていつまで経っても手ひとつ握らない俺たちへの関心は急速に薄れ、本日、とうとう旧美術室はおろか旧校舎にいるのは俺たちふたりだけになった。
え? 本当にそうなのか? どこかに誰か隠れているんじゃないかって?
ナメんなよ、この一カ月で人の気配にはとことん敏感になったんだ。今の俺は半径100メートルならアリンコ一匹でも探知出来る(ような気がする)!
「盗聴、盗撮の危険性もありませんよ、先輩」
天野さんがネット通販で買ったとか言う探知機を手に振りながら笑顔で答える。
ホント、生き生きしてるなぁ、天野さん。アホ毛が頭のてっぺんでウキウキと揺れてる。
ちなみに遠くからの盗撮を阻止すべく、キャンバスを置いたイーゼルを何台も並べてつい立てを作ったのも彼女だ。
なんというか、これだけ嬉々とした姿を見せられると、逆にこっちはライオンの檻へ入れられたような気分になる。
ああ、もう逃げられない……。
「じゃあ脱ぎますね」
天野さんが何の躊躇もなく、手早く制服のブラウスを脱ぎ、上半身ブラジャーだけの姿になった。
たわわに実ったおっぱいがブラジャーからはち切れんばかりになっている。
先日の身体測定で天野さんのおっぱいは見事な成長を遂げ、『おっぱい神セブン』から『北中おっぱい四天王』へと昇進したと矢上から聞いていたけれど、どうやら本当のことのようだ。
ぽよんっ。
ブラジャーから解放された天野さんのおっぱいが、出来立てのプリンのように揺れた。
「では、その、お、お願いします」
そしてパンツも脱ぎ去って生まれたままの姿になった天野さんが、恥ずかしそうにポーズを取る。
俺たちの第二回ヌードデッサンが始まった。
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