第28話 大樹の精霊

俺達は一息ついた後、さっそく謎の巨大樹の探索を始めた。

1周見て回ってみたが、特に何の変哲もない樹だった。1周するのに数十分かかったこと以外は。

ただの大きな樹?突然変異とかそういう感じか?謎は増えるばかり。

と、俺達が1周したところで、樹の根元から人型の何かが現れた。あれは…ドライアド?


「初めまして。魔王様、勇者様。世界樹へようこそ。我らが主がお待ちですので、こちらへどうぞ。」


そう言ってドライアドは転移門のようなものを開く。

あれはどこへ繋がっているんだ…?

それに世界樹とか我らが主って何のことなんだ?

謎が謎を呼ぶ展開だが、解明のためにも俺とネルは罠を警戒しつつ転移門をくぐった。


そこは、巨大な図書館のようになっていた。壁一面が本棚で埋め尽くされ、螺旋階段が上まで続いているが、高すぎてどこまで続いているのか分からない。所々から木の根や枝のようなものが生えており、窓から差す陽光で幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「ここ…どこ…?」


俺は圧巻の眺めにしばらく見入ってしまっていたが、その横でネルが突如声を漏らす。

そうだ、転移門と繋がっていたわけだが、結局ここはどこなんだ?

すると魔力感知に奇妙な魔力が引っかかった。そしてその魔力はどうやらこちらに向かっているようだ。この魔力は…精霊か?

《イエス、この魔力は精霊のものです…が、少し異質です。先程のドライアドにやや似ていますが、全く別物と思われます。私もここに何が向かってきているのかわかりません。》

ラティルが分からないなら本当に分からないぞ。誰も見たことの無い新種の生命体とかか?

警戒しつつ目を見張っていると、無限に続いているように見える本棚の列の奥から、何か近付いてくるのが見えた。…あれが謎の魔力か。

ネルも謎の存在に気付いたようで警戒の姿勢をとる。


「ネル、警戒は怠るなよ。何が出てくるか俺にも分からん。」

「…うん、ボクもさっきから何か感じる。気をつけないと…」


しだいにはっきりと形が見えてくる。それは人型の何かで、二足歩行で歩いている。

やがて完全に姿が見え、それに伴い俺達も警戒を引き締める。謎の魔力を纏った者は人のような容姿、或いは俺達と同じような容姿の精霊らしき生命体だった。


直進してくるのは茶髪というには明るめの髪色をした、背の低い精霊?だった。

その精霊?は変わらないペースで歩き続け、遂に俺達の目の前で立ち止まった。

歩く度に後ろ髪が揺れていたが、どうやら細いツインテールでまとめているらしい。整った幼顔、綺麗な色の瞳は仏頂面のせいでやや魅力が半減しているが、かえって何か似合っているようにも思える。

精霊?は軽く俺を見てからネルを見ると、そのままネルを睨みつけてから目を逸らす。

突然見知らぬ相手に睨まれたネルは少し困っていた。

だがそんなやり取りもつかの間。

精霊?が俺を見ながら話しかけてきた。


「…あなた達が、災厄?」


災厄、というワードは以前も聞いた。確か人類悪の別称だ。…ということはこの精霊?は俺達が世界の破滅を目論んでいると思っているのか?


「災厄…?!ちがっ…!ボク達は世界を平和にしようと思ってるんだ!」

「平和…?その過程で世界を破滅させようと?…だいたい、人間が平和を語るなんて。バカバカしい、やはりあなた達は世界の敵のようです。」


落ち着いた声音だが、そこには少し怒気を孕んでいるように思えた。さっきからネルを嫌っているような感じだがなぜだろう。…いや、精霊?も魔物だからか。街の住民達がやたら普通に接しているから忘れかけていた。だとすると、人間、という所に何か鍵がありそうだ。

しかしこうなってしまうと弁明は難しいだろう。誤解をどうにか解く必要がありそうだな。俺があれこれ考えているうちにどんどん話は進んでいく。


「ネヴィルス様、頼みます。」


精霊?はそう告げると戦闘態勢に入ったのか後ろに跳躍する。

すると先程まで精霊?がいた場所にどこからともなく黒いもやが現れ、それは徐々に纏まり出して巨大な球体が出来上がる。

目の前で何が起きているのか分からずに俺達はただ立ち尽くしていた。

球体はどんどん膨れ上がり、最後には黒い霧となって霧散する。ハラハラと消えゆく霧の中に、俺は何か大きな力が潜んでいることに気がついた。

膨大な魔力、この量は竜帝よりも多いかもしれない…!

半分ほど霧が晴れたところで、俺とネルはまたしても驚くことになる。

その霧散する球体の中には、竜帝を想起させるような巨大な竜が待ち構えていた。

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