第26話 闇

街に星魔導師達が侵攻してきてから数ヶ月が経っていた。

結局あれから数日後フォロラド王国という国から使者がやってきて、その使者が星魔導師の言っていた国交の同盟の話を持ってきた者だった。

互いに不可侵、王国との交易、そして何かあった時の後ろ盾になるという提案で、こちらにはあまりリスクがない形となっている。

正直願ってもない話だ。だが相手からすれば利益になるわけでもないし、むしろ魔王と手を組んだように見えて周りの人間の国からはあまりいい目で見られなさそうだが…。

やはり少し怪しい。怪しいが王国との戦争も困るので提案に乗るしかない。

そう思いネルと王国まで出向いて同盟を結んだ。

人間の国に行くことに幹部達には大反対されたが特に何かあったわけでもなく帰って来られた。1つ気になったのは、聖女に会おうと思っていたのだが誰に聞いても場所を知らないと言っていたことだ。魔王を聖女に会わせたくなかったのか、本当に知らないのか。嘘はついていなそうだったがネルの性別の件もあり、それだけで信じることは出来ないと思っている。結局聖女には会えずに街に帰ったのだが、王国から帰る道すがら、街の近くの森にとんでもなく巨大な樹が生えている事に気付いた。今まであのようなものはなかったため、俺が王国に行っている間何かあったのかと急いで街に戻ったが、アルス以外は誰にもあの樹が見えないらしく、幻想魔法でもかけられているのかと自分を疑った。


それからそのまま数ヶ月が過ぎ今に至る。

今でもあの樹が見えるので、逆にこれまで幻想魔法で見えないように隠していたのではないかと考えた。とにかく気になるし、行ってみようかと思う。


「ラース、俺はちょっと森まで出かけてくる。俺の不在中、魔王殿まおうでんと街のことは任せる。」

「了解しました、レイン様。ですがどなたか同行させた方がよろしいかと思われます。」

「…それもそうだな。どうせ暇だろうしネルを連れて行くよ。」

「はい、ではお気を付けて。」


俺は館の廊下でラースを捕まえ、森に探索に行く旨を伝えた。

その後ネルが滞在している部屋に行き、声をかけてみる。


「ネル、ちょっといいか?」

「レ、レイン?!ちょっと待って!」


俺が扉越しに声をかけると、ネルは驚いたような声で応答した。そして数秒ガタガタ騒がしくした後、扉が開いた。


「お、おまたせー。それで何かな?」


抑えているがネルの呼吸が荒い。さっきの騒がしい音は部屋の片付けをしていたものだろう。

…まあそんなことは別にいい。


「ちょっと森の探索に行こうと思ってな、あの樹がどうにも気になって仕方がない。」

「あ、あー…あれなんだろうね、ボクも気になる。」


そう、ネルには見えていたらしい。実は勇者に覚醒したあの日から見えていたそうだが誰もその話をしないために黙っていたようだ。

俺は王国からの帰り道でやっと見えるようになったのだが、そこに何か共通点はあるのだろうか。

…いや、その謎を解明するためにも探索に行くのだ。今考えても仕方がない。


「じゃあ準備するから待ってて!」

「ああ、終わったら声をかけてくれ。」


俺はネルの準備が終わるのを部屋の前で待っていた。が、そこで異変が起こったのだ。

日常動作、ほんの一瞬の、瞬きをした時だった。

目を開けるとそこは完全な闇の中で、自分以外の何も見えなかった。

ただ広がる闇。何が起こって今どうなっているのか、全く分からなかった。

だが不思議と落ち着いていた。その冷静さに反比例するように、血が、魂が何か騒ぐ。

どうなっているんだ…?

《イエス、マスター。これは何かの結界かと思われます。マスターは何者かの結界に閉じ込められてしまったと推測するべきです…が、これは非常に危険かもしれません。》

危険…?普通の結界と何か違うのか?

《…完全なる闇を生み出す結界はこの世、というか森羅万象の概念の中で、2つしかありません。1つは世界を絶望と闇に陥れた邪神の権能。もう1つは神話でも最強格と謳われる竜の権能です…。私がアーカイブしている知識の中では邪神は既に神々によって滅ぼされたとありますので、もしこれが本物の結界なら、おそらく後者の権能による結界かと思われます…。》

権能…?!これは神の権能なのか…?!

だったら本当にまずいぞ、ラティルが結界を破る手段を知らなければ一生出られない可能性もありえる。

今にも方向感覚が狂いそうな、この1色の闇の中で、どうにか結界を破る手段を考えないと…!

…そうだ、この結界の中に結界を生み出したその竜?はいるのか?

《不明です、それも踏まえて私の知識の中のこの結界の情報をお伝えします。》

…ああ、わかった。頼む。

《まずこの結界が後者の神話の竜の結界であると仮定します。その竜は「夜堕神ヤタノカミ」と呼ばれる、夜と暗闇を司る竜です。権能を複数保有しており、その1つがこの結界であると予測されます。この竜は全天神(神の中で最も偉い神)により神域を守護するように命じられているようです。神域とは神々の住まう世界とは違う、この世界、地上にある神話の産物を含む空間のことです。

この竜は非常に強力な竜で、神の中でも2番目の地位を持つ、光と生命の神である緋天神と対等な勝負をした過去があります。その勝負の末に、昼と夜ができたと語られる神竜です。

そのような竜なので、もしこの結界が本当にその竜の権能だったら、まず勝ち目はありません。

私がアーカイブしている知識では、この結界の中では全ての魔法が無効となり、発動しようとすると魔力が消失する、となっています。結界なので当然亜空間、別の次元と考えるべきでしょうし、出口もありません。本当に、結界を出る手段はありません。

…ですが、1つだけならば可能性があります。

マスターが所有している権能は緋天神に仕えた神竜の権能。矛盾する、神を砕く神の力です。神を砕く力、ならばもちろん神の権能も斬れます。ですがこれはあくまでも結界です。空間そのものを斬ることはさすがのマスターでも難しいかと思います。思いますがここを突破するにはその力しかありません。…私からは以上です。》

…なんてこった、想像以上にやばい結界だったか。魔法完全無効化空間に加え1度入ったら破壊しない限り2度と出られない常闇の結界、それに神の権能なのでそもそも破壊できるものじゃないと。

詰みじゃないか、完全に。

…そう、この権能がなかったら。

権能アドミン熾天絶剣テンサクイシ」。

聞き流してたけど、この権能は神の中でも2番目にすごい神に仕えた竜の権能らしい。それはまたとんでもない権能で…。


要はこの結界を、空間を破る手段を持ち合わせていたらいいんだよな。だったらちょうどいいのがあるじゃないか。

ラティル、スキルの同時使用は可能だよな?

《…!イエス、可能です!》

なら大丈夫だ。可能性はまだある。

どうやらラティルも、俺が何をしようとしているかわかったらしい。


…では突破不可の結界を破らせてもらおう。

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