第42話 旅のお供に不良少女?


 「そそ。今さっき空港着いて、これから手続きするところー」


 父の運転で無事空港に着いた私は手続きを済ませる前におっさんに電話していた。出張で二日前から先に東京入りしていたおっさんが空き時間を使って空港まで迎えに来てくれるらしい。おっさん優しい。すこ。駅でもいいよって言ったんだけど、東京初心者が駅で待ち合わせなんてしたら二度と帰ってこなくなるらしいから絶対に空港まで行くと言われた。確かに事前に調べて「なんじゃこりゃー」と思ったけど、そこまでなのか。東京恐ろしい。


 とりあえず予定通り飛行機に乗れそうなのでそれの報告をした。おっさんも仕事で忙しいはずなのに本当に迎えに来てもらっていいのだろうか?ここにきて不安に思った私はおっさんに再度確認した。


 「ところで、本当にいいの?迎えに来てもらって。忙しいでしょ?」

 「構わんよ。親御さんとも約束したし、問題が起きなければ必ず迎えに行く」

 「やだ優しいしゅき」

 「はっはっは。乗るのはトランクでええかの?」

 「ふかふかのベッドあるなら構わんぞ」

 「やめい。キミなら本気でやりそうだわ」

 「ふっふっふ。狭いところは任せろ」

 「はいはい。あー、酔い止めは大丈夫かの?」

 「ん、大丈夫。朝にちゃんと飲んだぜ」

 「そうか。一応袋は持っておくんだぞ」

 「ういうい。何かお土産ほしい?」

 「んー……可愛い女の子かのぅ」

 「俺がいるじゃないか☆」

 「んじゃまた後でのー」


 ぶちんと通話が切られた。悲しいなぁ、そんな事を思いながら直後に届いたLINEのメッセージを見る。


 『おはようー。行くぞ東京!』

 『おはようさん。とりあえず空港着いたら連絡くれ』

 『ういー』

 『何か困った事あったら遠慮なく電話してな』


 おっちゃん優しい。しゅき。とりあえず白い恋人でも買っておくか。

 

 

 「――っしゃー。無事手続きかんりょー。お土産でも買うかぁ」


 他の空港行ったことないからわからないけど、こっちの空港はほんとでかいなぁ。お土産屋さん多いし、温泉もあるし、ホテルもあるし、何よりアニメイトあるのが良い。素晴らしい。せっかくだし何か面白い本ないか探してみるか。おっさんにでもあげよう。確かアニメイトがある方向は~……


 「……こっちが受付で……えーと……クソ、わかんないなぁ……」

 「ふんふふーん……ん?」

 「んぅー…………あぁ?」

 

 アニメイトに向かおうとした時、近くに設置してあった建物内部の構造図を一人の女の子が悩ましそうに見ていた。その様子をチラ見程度で見た私だったが、運がいいのか悪いのか、同じタイミングで女の子と目が合ってしまった。きっと構造図と周りを見比べようとしていたのだろう。ただの女の子なら特に問題なく目を逸したのだが、そこに立っていた女の子は金髪で少し長い髪を結んでいて、深めの帽子から見える鋭い目つきが見る人によっちゃ不良少女みたいな子だった。私はその目つきに魅了された……わけではなく、綺麗に整った顔……でもなく、上着として着ていた黒いパーカーの背中に可愛いクマさんのマスコットがプリントされていた事に目が行った。つかあれリ○ックマじゃん。可愛い。俺も欲しい。


 「……何か用っすか?」

 「ん?あぁごめんなさい。特に用はないです。たまたま目があっただけです」

 「……そうっすか。あー、なんかすみません」

 「いやいや、こっちこそごめんなさいね」

 

 そう言って軽くお辞儀でもして去ろうと思ったんだけど、うーん……どう見ても道に迷ってる感じがするよねこれ。うーん、下手に親切感出そうとして後で問題起きても嫌だしなぁ。男の人とか同い年か年上の女性なら問題ないだろうけど、明らかに年下だしなぁ。最近じゃ声かけただけでも通報されるみたいだし、ここは心を鬼にしてさよならしよう。うん。これで飛行機に遅れたらやばいしね。ごめんよ名もなき少女よ。親切な人に出会える事を願うぞよ。


 「……はぁ。どうしよ……」

 「…………あー、勘違いだったらすみません」

 「……何すか?」

 「んと、何かお店とか探してたりします?

  もしそうだったら大体の場所把握してるので教えれるかなと」

 「……」


 不良少女?っぽい見た目の子がじっと私の目を見てくる。うーむ、なかなかのガン飛ばしである。ちょっと怖い。でもなぁ、なんかほっとけない。まぁ拒否されたらそれでいいや。そのままアニメイトいこー。


 「……」


 2.3分女の子にじっと見つめられてるこの状況は人によってはご褒美になるのかな?と考え始めた頃、ようやく女の子が口を開いた。

 「……お願いしてもいいっすか?」

 「うん、いいですよー。どこに行きたいんです?」

 「……えと、あー……その……」

 「うん?」

 「……こっち、来てもらっていいっすか」

 「ん?」


 小さく手招きする不良少女?に近づいた私は、少女の近くにあった構造図にその少女が小さく指を指した。なぜ口頭じゃなく指を指すんだ?と疑問に思いながら構造図を見た私は理解した。

 「あ、なるほど」

 「……」

 「よかった。丁度僕も行くところだったんだよ。嫌じゃなければ一緒に行きます?」

 「え……あー…………お願いします」

 「うん。えーと、こっちだね」


 どうやら少女はアニメイトに行きたかったらしい。

 少し距離を保ちながら私達は一緒にアニメイトへと向かった。



 「えーと……ありがとうございました」

 「いえいえ。欲しい物は買えました?」

 「え?あぁはい……まぁ……」

 「そかそか。それならよかった。他に行きたい場所とかあります?」

 「他……はないっす。ここだけ来たかったので……助かりました」

 「気にしない気にしない。

  んじゃ僕はこれから飛行機に乗るからここで別れるけど、大丈夫です?」

 「あー、はい。大丈夫っす。

  オレ……あたしも少ししたら飛行機乗るので、ここで大丈夫っす。……です」

 「そかそか。じゃあここでお別れだね。いい旅になるといいね。んじゃね」

 「えと、お兄さんもね。ばいばい。……ふぅ……いい人でよかった……」


 特に問題が起きることもなく不良少女?っぽい子と別れ私は飛行機に乗り込んだ。見た感じあの子も一人でどっか行こうとしてるみたいだったけど、すごいなぁ。若者の行動力は馬鹿にできんね。おじさんなんてこの歳になってようやく一人旅よ。……ふぅ。あの女の子、無事に行けるといいなぁ。楽しい旅になるように、少しだけ祈っておこうかなと考えていたところで、私の座っている席の前で立ち止まる人が居た。あー、同席の人が居るんだっけ。すっかり忘れてた。


 「あっ」

 「……ん?あれ?」

 「……同じ席っすね、お兄さん」

 

 これ間違ってもこの子の前では酔えないなぁ……。

 飲んでてよかった酔い止め薬。


 

 「え?お嬢さん、Vtuber祭に参加するの?」

 「お嬢さんじゃなくクロエね。お兄さんも出んの?」

 「ん?あー、会場には行くかな」

 「はっきりしないね。言いたくない感じ?」

 「んー、仮に僕がVtuberだった場合、簡単に中身を晒す事はできないかなって」

 「……オレ、やばい事した?」

 「大丈夫。クロエちゃんの事は誰にも言わないから」

 「……ほんとに?」

 「うん」

 「…………今後は気をつけよ」

 「まぁ、それは大事だね」

 「あーなんでだろ……なんか今日はやたらダメだなぁ……」

 

 軽く頭を抱えながらうんうん唸ってる不良少女……じゃなく、クロエちゃんはどうやら緊張しているらしい。それもそのはず、彼女も私と同じように初めて東京に行くのだ。しかも一人で。

 

 「クロエちゃんって高校生?一人で大丈夫?」

 「あー、まぁ、一応あっちに親戚がいるんで大丈夫かな」

 「それでも一人で飛行機乗るって不安じゃない?凄いね」

 「そんなことないっすよ。お兄さんは結構乗ってるの?……です?」

 「僕はそもそも飛行機乗るのが初めて。いやぁ、緊張するね」

 「え?マジ?……ですか?」

 「うん。あ、面倒だったら敬語じゃなくてもいいよ。気にしないし」

 「いや……」

 「いいよいいよ。気使ってたら疲れるでしょ」

 「……そっすか。んじゃ、えと、そうするね」

 「ういうい。ところでクロエちゃん、それ地毛?」

 「ん?あーこれっすか」


 帽子を取り結んでいた髪を解いた少女は人差し指で髪をくるくるといじりながら「これは地毛っすね」と答えた。その仕草好き。


 「ほぇー」

 「お兄さん、不良だと思ってたでしょ」

 「ん?まぁ、荒れてるのかなぁとは思った。ごめんね」

 「別にいいっすよ。よく言われるんで。ちなみにこれは母親譲りの髪っす」

 「お?じゃあクロエちゃんってハーフ?」

 「そうそう。まぁ、不良少女と言われても仕方ないんだけどさ。あ、あぐらかいてもいい?」

 「ん?別にいいけど、着陸する前にはちゃんと座るんだぞー」

 「はーい」

 そう言って少女は靴を脱いで椅子の上であぐらをかいた。黒いパーカーにホットパンツ姿の少女は苦笑しながら私に言った。

 「ね。全然女の子っぽくないっしょ、オレ」

 にひひと笑う少女に私は気になってた事を聞いた。

 「オレっていう一人称は元からなの?」

 「ん?あー、んー……Vtuberの影響かな」

 「ほぅ」

 「オレ……あー、あたしのVtuberでのキャラが男っぽい感じでさ。そういう口調をするように気をつけてたらリアルでもこうなっちゃったわけ」

 「そういうことか」

 「ん。だから最近じゃよく先生やパパに「その口調直しなさい!」って怒られてばっかりでさ。ママは気にしてないみたいだけどね。オレ……あたしのダチも皆そっちのほうが似合ってるしかっこいい!って言ってくれるからさ。このままでいいかなって。まぁ、全然男は寄ってこないんだけどね!お兄さんもこんな女の子嫌でしょー」

 

 そう言ってまた苦笑する少女はどこか寂しそうに見えて、彼女も彼女で苦労しているんだなと思い笑えなかった私は通りかかったCAのお姉さんに飲み物を2つ頼みお金を渡し受け取った。そして二本のうち一本を少女に差し出しながら答えた。


 「んー、そういうのは特に気にしないし、クロエちゃんは普通に可愛い女の子だと思うよ。ほい、これあげる」

 「え?あ……あざっす……そ、そっすか……」

 「……あっ」

 「え?ど、どうかした……?」

 「いやぁ……いいか」

 「?」


 言っておいてなんだけど、これセクハラだったのでは?まぁ……いいか。コーラうめぇ。


 「……あっ!お兄さん!ほらこっち!」

 「ん?……おー!すげーー!」


 飛行機の小さな窓から見えた景色。遂にやってきたぞ東京ー!

 着いたらすぐおっさんに連絡するか。



 

 「……で?」

 「ん?見ての通りだが?」

 「……えと、どうもっす……」(この人こわっ……)

 「うん、こんにちは。……いやいやいや……キミ、その女の子は?」

 「空港で出会った」

 「……まさか本当に女の子を連れてくるとは……冗談だったのに……」

 「わっはっは」

 

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