第37話 成長中、だもん……
――
むにゅむにゅ
――
ボクは、自分に自信が持てない。
臆病で、人見知りで、言いたいことも、ハッキリと言えない。
いつも周りに流されて、影響されて、自分の意志で、ちゃんと動けない。Vtuberを始めたのも、最初は姉さんに言われたから。
部屋で1人ゲームをしていたら、姉さんが勝手に入ってきて。
「ゲームが上手いんだからこういうのやってみなさいよ」と言って。
姉さんが手に持っていたスマホの画面を、ボクに見せてきた。
画面には、【Vtuberを始めよう!】という文字と。
オーディションに応募する際の詳細が書かれていた。
この時のボクは既にVtuberというジャンルを知っていて。
何度か見たことはあったけど、自分には、到底無理なモノだと思っていた。それでも姉さんはいつものようにガミガミと滅茶苦茶な事を言ってきた。言いたい事を言って、そして最後に、こう言った。
「自信を持ちたいなら使えるものは全部使いなさい。本当に変わりたいなら、自分で行動しないとダメよ」
わかってる。そんな事、姉さんに言われなくたって……。
……ただ、応募するだけだ。必ず受かるわけじゃないんだ。
ダメだったら、いつも通りにゲームをしてればいいんだ。
「お肉お肉~……あっ、そろそろ時間っスねー」
「そうだね……、それじゃあ、今日はこれで、終わりますか……?」
「でスねぇ。よーし、それじゃ、今日の作業はこれで終わりにするっス!」
「次回は、森の向こう側を探検しようね……?」
「はいっス!!ではでは、皆さん、お疲れさまでスー!」
「お疲れ様、です……っ!」
:おつかれー。
:おつおつ。
:お疲れ様です!!
:次回も楽しみにしてるぞはやて丸ぅぅぅぅ!!
:待ってるからな、はやて丸ぅぅぅぅ!!
:はやて丸ー!またなー!!
:アカネちゃん、はやて丸ちゃん、今日もお疲れ様でした!!
:次回も楽しみにしてるね!
:アカネちゃぁぁぁぁん!!
:アカネちゃん、おやすみ!!
:二人共おやすみー!
:暖かくして寝るんだぞはやて丸ぅぅぅぅ!!アカネちゃん!!
:おつかれ!!
はーちゃんと2人で始めたマインク○フト。
今日は、3回目の配信だった。
はーちゃんが復帰してから少し経って、ボク達はコラボ配信を積極的に行った。勿論最初はマネージャーさんに止められた。
それでもどうにか出来ませんか?と話し合った結果、メンバー限定で荒れそうなコメントはブロックする事を条件に許してくれた。
しばらく様子を見て、大丈夫そうなら二ヶ月後には通常配信に戻してもいいと言われた。事務所は今イベントに向けて大忙しだから、問題を起こされたら困るんだと思う。ボクもそれは十分理解しているし、それでもコラボを許してくれたのは感謝しかない。
ちなみに初回の配信では、雹夜さんがゲストに来てくれた。
多分、いろいろ心配して来てくれたんだと思う。
ゲームには参加せず、声だけ参加して雑談をいっぱいしてくれた。
雹夜さんもこのゲームの経験者で、ゲームに関する知識や失敗談を話してくれた。とても面白くて、楽しくて、配信前に抱いていた不安はすっかり無くなっていた。配信が終わって、雹夜さんは「何かあったら相談してね」と言って先に帰っていった。はーちゃんはもっと話したかったと残念そうに言った。ボクも、もう少し話したかったな。
どうすれば、そんなにカッコよくて強くなれるのか、聞きたかった。
「今日も順調に進んだねー!」
「うん……っ!今日も、楽しかった……っ!」
「ねっ!次も楽しみだなぁ」
「次は、森探検だから、装備を整えないと、ね?」
「うんうん。バッチリ準備して、今度こそオオカミを仲間にするっスよー!」
「名前は、もう決めてるの……?」
「もっちろん!はわわ丸にするんだ~♪」
「そ、それは……いいの、かな?」
「だって、皆ばっかりはわわ丸言っててずるい!わたしも言いたい!」
「あ、あはは……そうだね、はわわ丸、捕まえようね……?」
「うん!」
「えへへ……あっ、お風呂入りから一回落ちる、ね?」
「はーい!あーちゃん、またね!」
「うん、また、ね!」
3回目のコラボ配信を終えて、反省会を少しして通話を切る。
通話を終えて、少し背伸びをしてから、部屋を出る。
お風呂に入る準備をしようとして、廊下で姉さんに会った。
「あっ……えと、姉さんもお風呂?」
「んー?さっき上がったところよ。入るの?」
「う、うん……」
「そう。……ふーん」
「な、なに、かな?」
「この前はギャンギャン泣いてたのに、今日は楽しそうね」
「え……そ、そうかな……?」
「感情豊かなのは良いけど、あんまり母さん達に心配させないでよ?」
「わ、わかってるもん……そ、そんなに嬉しそうな顔してるかな……?」
「してるわよ。ほら」
そう言って姉さんはボクのほっぺをムニムニ触ってきた。
「あぅ……やめてぇぇぇ……」
「なんでこんなにもちもちなのよ。腹立つわね」
「しらにゃいよぉぉ……あぅあぅ……」
「くっそー……まぁ、いいわ。早く入っちゃいなさい」
「……姉さんがいじめてきたんじゃ」
「何か言ったかしら?」
「な、なんでもない……!」
これ以上は何されるわからないので、ボクは急いでお風呂場に向かった。
「……まぁ、元気ならいいわ。
さてと、友達にオススメされた動画でも見て寝ようかしら。
えーと……名前は……うーん?
ひょうや……でいいのかな?ポチッと」
「はふぅ……」
湯船に浸かって、疲れた身体を休ませる。
それから、姉さんに弄られたほっぺをムニムニと触る。
「うぅ……まだちょっと痛い…………ん……?」
「……むむぅ……」
むにゅ。むにゅ。
「むむむ……」
むにゅむにゅ。
「……大丈夫。まだ、成長途中だもん……」
「……」
むにゅ。むにゅ。
「上がった……ぜ……っ!
…………い、いまの、無し……」
お風呂が気持ちよくて、ついつい変なノリをしてしまった。
恥ずかしい……ひ、1人でよかった……。
流石にこれははーちゃんには聞かせられない。
もし聞かれてたら……聞かれてたら、どうなんだろう……?
【わぁー……か、可愛い!!あーちゃん、可愛いよ!!】
……はーちゃんなら、言いそう。
最近は何かある毎にはーちゃんに可愛いと連呼される事が多い。
そんな事無いのにね……ボクよりも、はーちゃんの方が絶対可愛いのに。恥ずかしくて、なかなか返答に困ったりしてる……うぅ。
……雹夜さんは、どうだろう……?
【ぶははははwwww】
……や、やっぱり、笑われるかな……?
雹夜さん、そういうのに容赦ないから……はーちゃんみたいに、可愛いとは言わないはず。まぁ、笑ってくれたほうが、まだいいよね…………も、もし、雹夜さんが……
【へぇー……アカネも、可愛いところあるんだね】
……な、ないない。雹夜さんはやっぱり、笑うはず。
あははは……テンション上がってるからか、変に想像しちゃった。
一回落ち着こうかな……あっ、はーちゃんとの通話の時間だ。
今日もいっぱい雑談しよう……♪
「――えぇ!?あ、あーちゃん、あのイベントに出るの!?」
「う、うん。まだ返事はしてないけど、一応出るつもり、だよ」
マネージャーさんにはまだ言ってないけど、ボクは出ようと思っている。今回を逃したら、次何時サキさんに会えるかわからないから。
少しでも、成長した姿を、サキさんに見せたい……!
「ふぇー……す、凄いよ!!だって……ふぇー……」
「だ、大丈夫?はーちゃん」
「……はわわっ!?だ、大丈夫!」
あっ……それ、キャラじゃなくて素なんだね……ちょっと、可愛い。
「でもそっかぁ……すごいなぁ……」
「まだまだ先だけど、凄く、緊張してる」
「そうだよね……なんだかわたしまで緊張してきちゃった……」
「ご、ごめんね……?」
「あ、大丈夫だよ!!気にしないで!……でも、すごいなぁ……」
「えへへ……実は、ね?」
「うん?」
「ボクの憧れの人も、出るんだよね」
「憧れの人?……あぁ!サキさんだ!」
「うん……っ!会えたら、嬉しいなって」
事務所の中でも一番人気のサキさんだから、忙しくて会えないかもしれないけど、少しでも会話が出来たら嬉しい。最悪、挨拶だけでもしたい。
「サキさんかぁー、カッコいいよね!」
「うん!憧れてるんだぁ……」
「意外と優しいんだよね!」
「そうそう……!」
「あと、プライベートだと結構喋ってくれたり!」
「うんうん……うん……?」
「あと意外とドジっ子なんだよね!」
「……はーちゃん?」
「あとはー……うん?どうしたのあーちゃん?」
「えと……プライベートだとよく喋ったりするの……?」
「え?うん……あっ……」
「な、なんで、はーちゃんがそれを知ってるの……?」
サキさんのプライベートを知る人はボクが知る限りほとんど居ないはず。 最近はコラボ後も絡むことがあるみたいだけど、それでも、サキさんが凄く喋るなんて聞いたことがない。 それにドジっ子だって?あの完璧なサキさんが?……信じられない。
もしそうだとしても、それを知り得るなんて余程の仲じゃないと……
ま、まさか……はーちゃん……
「はーちゃん……サキさんと、知り合いなの……?」
「えーと……ちょっとだけ……」
「……」
「えと、あの……あ、あーちゃん?」
「は」
「は……?」
「はーちゃんのうらぎりものー!」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
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