第21話 ボーイッシュ=ペッタンコ これ真理ね。

 はわわ丸……じゃなくてはやて丸さんから助けてほしいというメッセージが来た。

 この様子だと只事じゃないなと思ったけど、ごめん、通知気付いたの朝なのだわさ。私が寝た後にメッセージが来てたみたいです。ごめんなさい、普通に寝てました。とりあえずメッセージを送ったんだけど返事が無いので流石に焦り始めてます。

 あれ?もしかしてかなりヤバい?




 

 

 【ごめん、今起きた】


 【はやて丸さん?大丈夫?】


 【おーい】


 【すみませんせんぱい!寝てたっス!!】


 【お、おぅ……それはそれでよかった?】



 人の事言えないけど君も寝てたんかーい。

 まぁこの様子だと、そこまでヤバくはない感じか。

 とりあえずはやて丸さんに話を聞くことにしよう。

 あれかな、先輩方が何かやらかした感じかなぁ。





 

 「えーと……」


 「…………」


 「あ、あははー……こういう状況っス」


 

 こういう状況と言われても「え?何が?」となるじゃない?

 今正にそういう感じなのですよ。

 

 「おさらいしていい?」

 

 「どうぞっス」


 「えーと、はやて丸さんが次にインタビューしたい人を見つけたと」


 「でス」


 「で、インタビュー配信のお誘いしたら快く受け入れてくれたと」


 「でスでス」


 「それで配信当日に向けて2人で話してた?」


 「そうっス!」


 「そこで問題が起きたと」


 「……はいっス」


 「うーん……」


 「どうしたらいいっスか……?」


 「どうと言っても……ねぇ?」



 ここまで私とはやて丸さんだけの会話。

 うん、察しのいい人なら大体わかると思うんだけど……お相手さんがものっすごい無口なのですよ。挨拶はしてくれたけどそれ以上は何も言わないからすっごい気まずい。はやて丸さんはこの状況を2日続けて過ごしたと。すごいよね。

 

……さて、どうしたものか。



 ゲーマーVtuber アカネさん

 

 あのサキさんと同じ事務所に所属していて、いわゆる企業勢。

 事務所の中では三番目に人気があるらしい。

 ゲームがものすごく上手いらしいんだけど、問題は配信のスタイル。

 事前にはやて丸さんに見せてもらったけど……挨拶とゲームで必要な報告、スパチャ読み上げ以外は全く喋らないのよね。

 いやほんとに、全く喋らない。敵にやられても無言で次の試合始めるし、急に「今日はこれで終わります」と言って配信終わるし。

 正直私には面白さがわからなかったけど、需要がある理由はなんとなくわかる。

 

 まずイラスト。ボーイッシュで、男っぽい見た目で女の子というギャップに惹かれる人が多い。そしてゲームプレイ。メインの配信にしてるだけあって、めちゃくちゃ上手い。3歩先を先読みしてるみたいで無駄な動きが全く無い。こりゃマスターなのも納得だわ。つかもうプレデターになるじゃないか……すごいなぁ。

 

 話が逸れちゃったね。最後に、まぁここは私とよく似てるんだけども。

 個人的な一番の特徴はやっぱり声かなぁ。たまに聞ける声がめちゃくちゃカッコいい。これがイケボか……と思えるほどの良い声。羨ましい。でも少しだけ女性特有の可愛さが残ってるのも彼女の魅力なのだろうね。コメントでもちらほらと見たけど、たまに聞ける声を聴くために来てる人もいるとか。



 まぁ気持ちはよくわかる。正直結構好みの声だ。

 あとボーイッシュなのが良い。ポイント高いですよ!

 しかしなぁ、重要な声が全然聞けないのは唯一の欠点だよなぁ。

 「たまに聞けるからそれが良い」というコメントもわからなくはない。

 けど、せっかくだからもっと喋ってほしいよね。

 可愛いし。勿体ない。イケボだし。羨ましい。

 

 私も最初こそカッコいいと言われてたけど今じゃ「絶対眠らせるマン」とか「声の低いアンデ○セン」とか「リアルちん○ん亭」とか言われたりしてるし。

 最後のはおっさんが勝手に言い始めてるけど。

 あと「ママ」とかいう謎のワードも出てきたし。誰がママじゃい!


 いっその事ホラー方面に持ってって「第二の稲○淳二」とか言われるように頑張ろうかな。そうと決まれば早速怖い本の朗読と師匠の動画を片っ端から見ないと!!



 「ということでちょっと稲○淳二さんの動画見てくるね」


 「いやいや!全然言ってる意味がわからないっスよ!?」


 「くそぅ、騙されなかったか」


 「そんなんじゃ騙されないっスよ!」

 

 「はっはっは。可愛いなぁはわわ丸は」


 「え、そうっスか!?えへへー……じゃないっスよ!!遊ばないでほしいっス!」


 「ごめんごめん」


 「…………」


 

 やべー、めっちゃ気まずい。

 アドリブで茶番劇やったけど、全然笑わないなぁ。

 まるで感情が無いみたいだなぁ……なんて、そんなファンタジーな事あるかいな。

 多少の感情は隠せても、絶対に無くす事は出来ない。……っておっさんが言ってたっけ。しかし、本当にどうしようか。



 「……あの、インタビュー……やめましょうか?」


 「え!?それは嫌っス!!あ、いや……アカネさんが嫌だったら断れないっスけど……」


 「……ボク、こんなですし……お二人にご迷惑かけてるから……」


 「そんな事ないっスよ!!」


 「僕も迷惑ではないけど……でもどうしようか」


 「……すみません」


 

 うーん、なんだろう、なんか引っかかる。

 何て言うんだろうか……本気で嫌がってる感じはしないんだよね。

 感情が無いわけじゃなさそうだし、インタビューも快く受けたと言ってたし。

 ……事務所側が無理やり受けたとか?んー……それも違うかなぁ。

 なんだっけなぁ……昔居たんだよな、こういう人。

 


 「んー……ちょっと試したいことあるんだけど、いい?」


 「せんぱい?どうしたんスか?」


 「僕とアカネさんだけで一度話していい?はやて丸さんは一度通話落ちてもらう感じで」


 「え?……いいっスけど……」


 「アカネさんもそれで大丈夫?」


 「……えと、はい」


 「んじゃはやて丸さん、終わったらメッセージ送るから」


 「はいっス。すみませんが、宜しくお願いするっス!」



 ブツリと通話が切れる音がして、はやて丸の声が無くなる。

 さて、ここまでは難なくいけた。

 問題はここから先ですよ。

 とりあえずサキさんにメッセージは送ったけど、今すぐ返ってくる事は多分ない。

 何故なら今あの人は配信してるから。しかもコラボしてるし。

 仕事とプライベートはしっかりしてるから、まぁ返事を待つのはダメだろうなぁ。


 

 「うーん……アカネさんは、話すの苦手?」


 「……どちらかと言えば、好きです」


 「うん?好きだけど、話せない?」


 「……すみません」


 「いや、怒ってないから謝らなくてもいいんだけど……んー……」



 頭の中で「ここだよー!!」って何かが叫んでるのはわかる。

 わかるんだけど、引っかかってて頭に上手く伝わらない。

 もどかしいなぁ……何だっけなぁ……うーん……。





 「あっ」


 「……どうしました?」


 「あのさ、間違ってたらごめんね?」


 「……えと……」


 「もしかして……緊張してる?」


 「…………」


 「それか……人見知り?」


 「…………」


 「当たりだったら、机か何かを2回ノックしてもらっていい?」


 「…………」



 コンコン。



 あ、当たりだった。

 いや、確かにそういう人居たわ。極度の人見知り。

 マジかぁ……よくVtuberできたというか……嫌味ではないけどね?

 まぁ女の子だし、カッコいい声だし、ボーイッシュだし、需要は十分あるよなぁ。

 

 「なるほどねぇ……」


 「……ごめんなさい」


 「いやいや。理由がわかってよかったよ。でもこればっかりは僕達じゃどうしようもないよなぁ」


 「……やっぱり、辞めます」


 「んー……まぁ、アカネさんが嫌ならそれでいいと思うよ。はやて丸さんも無理に言わないだろうし」


 「……ごめんなさい」


 「気にしない気にしない。あ、それよりさ、アカネさんってあのゲームやってるんですよね?」


 「……えと、はい」


 「僕もやってるんですよ。面白いですよねぇ」


 「……そうですね」


 「実はさっきアカネさんの動画を初めて見まして。いやぁ、めちゃくちゃ上手かったです」


 「……そんな事は、ないです」


 「ソロでやってるんですよね?僕もずっとソロでやってて、最近やっとマスターの半分行ったんですよ」


 「……え?そうなんですか……?」


 「うんうん。いやぁ、ソロでやるにはなかなか難しいゲームだけど、ボッチだからさ」


 「……わかります。ボクも、ずっと1人でやってるので」


 「ボイチャも付けてないから一瞬でも連携ミスったらヤバいけど、たまにめちゃくちゃ連携出来ることあってその時が本当に楽しい」


 「……上手い人と当たった時の連携力は凄いですよね」


 「PTプレイも嫌いじゃないんだけど、もう1人でやるのが癖になっててね」


 「わかります。ボクもいろんな人から声かけてもらってますが、1人が楽で……」


 「でもたまーに、誰かとやりたくならない?」


 「ですです。でも実際にやってくれる友達も居ないんですよね……」


 「声かけてくれる人とやらないの?」


 「……やっぱり恥ずかしいですし……ボクなんかでいいのかなって」


 「あーわかります。人とやらなさすぎで誘い方もわからないし、もう1人でいいんじゃないかなって振り出しに戻ったりね」


 「はい。だから今も1人でコツコツやってます」


 「なるほどねぇ……あ、よかったら今度一緒にやってみる?」


 「え?いいんですか?」


 「僕は全然いいよ。足引っ張ったらごめんだけど」


 「そんなの気にしません。むしろ、ボクが足引っ張ったらすみません」


 「僕も全然気にしないから大丈夫だよ。んじゃ今度、都合の合う時一緒にやりましょうか」


 「お願いします……!!」


 「おっけー」





 「あれ?」


 「どうしました?」


 「いや……普通に喋ってるよね?」


 「え?……えと、あの……」


 「緊張解けた?」


 「……今だけは、大丈夫みたいです」


 「ほぇー……」


 「……あの、雹夜さん、でしたよね?」


 「うん。どうかした?」


 「……お願いがあります」










 「皆さんこんばんはっス!!皆の後輩、はやて丸っスよ!!」


 「今回は久々にインタビュー配信っス!!待ち望んだ先輩も多いと思うっス!」



 :はやて丸ぅぅぅぅぅぅぅ!!

 :インタビュー配信きたああああああああ!!

 :前々回は伝説になりましたね……

 :視聴者もやばかったしコメントもやばかったな。

 :結果オーライになったし問題ない。

 :前回のインタビューも面白かったな。

 :面白かったけど、やっぱり雹夜と比べるとなぁ。

 :今後ハードルが高くなりますね……これは雹夜にケジメ案件?

 :あれはもう外伝レベルでいいと思う。本来の配信は前回みたいのだし。

 :主に雹夜が悪い。

 :まーだ雹夜のアンチいるんすね。

 :しゃーない。切り替えていこう。

 :今日のゲストってあのアカネでしょ?大丈夫なの?

 :はやて丸のインタビューする相手がどんどんやべー方向に……

 :それでも付いていくぞはやて丸ぅぅぅぅぅぅぅ!!



 「皆さんも待ち望んでたみたいっスから、早速今日のゲストを紹介するっス!!」


 「今回のゲストはこちら! ゲーマーとしての腕は超一流!女の子だけど見た目も声もカッコよく、男性よりも同性からの人気が高いこの方!」


 「ゲーマーVtuber アカネさんっス!!」


 「……えと、皆さん、こんばんは」



 :アカネちゃんや!!

 :アカネさーーーん!!

 :今日もカッコいい!!

 :喋ってる!アカネさん喋ってるぅぅぅぅぅぅぅ!!

 :もっと声聞かせてほしい!!

 :めっちゃコメント増えてきた。

 :声かっけー。

 :これで女の子なのか。

 :男だったらホモになってた。

 :女性人気なのか。

 :女子校でありそうな雰囲気

 :イラストかっこいいなぁ。

 :これでちん○ついてないのかマジかよ

 :今日はちゃんと喋るんだろうか。

 :本人の配信じゃ全然話さないから、はやて丸の腕の見せ所だな。

 :大丈夫かな?



 「……さて!実は皆さんにここでお知らせがありまス」


 「ぶっちゃけるとわたしとアカネさんだけじゃ話が続かない事がわかったっス」


 

 :そこぶっちゃけちゃダメだろはやて丸ぅぅぅぅぅぅぅ!!

 :これははわわ丸。

 :何やってんだよはわわ丸!!

 :いや、草

 :予想はしてたけどここで言うのかww

 :え、それ大丈夫なのか?

 :放送事故起きる?

 :既に放送事故というかなんというか。

 :アカネちゃん全然喋らんしな、予想は出来た。

 :どうすんの?これ。

 :はわわ丸……



 「なので!今回は特別に!もう1人ゲストをお呼びしたっス!!」


 「皆さんもご存知のこの方っス!!ではせんぱい!宜しくお願いしまっス!!」




 「えーと……皆さん、こんばんは。そしてお久しぶりです。睡眠ボイスでお馴染みの、紅雹夜です」



 :何やってんだよひょうやぁぁぁぁぁぁぁ!!

 :お前が来るのか……

 :何してんねん雹夜ww

 :いつからせんぱい呼びになってんだ雹夜!!

 :逆に放送事故の予感。

 :おいこれまたはわわ丸寝るだろ。

 :これだけは言える。おやすみ。

 :まだ寝るな。

 :やべーやつにやべーやつを追加したじゃねぇか。

 :はわわ丸、それ引き算ちゃう。足し算や。

 :いや、あの雹夜だぞ?やってくれるかもしれん

 :伝説再び

 :よくきたなぁ雹夜ぁぁ!!

 :ちゃんとサポートしろよ!!


 


 「ということで!今回はこの三人でお送りするっス!!」


 「……宜しくお願いします」


 「えーと、宜しくお願いしますね」



 まぁわかってたよ。うん。そりゃ呼ばれるよね。




 

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