第3話 音読を始めた結果、コメントが止まった。
音読配信当日。
登録していた童話サイトを開いて、良いのがないか探してみる。当日じゃなくて予め用意しとけよ!って言われそうだけど、いや多分言われるんだけど、ごめんなさい。すっかり忘れてました。いやぁ、気分転換に昔見てたアニメの名シーンを見返したら全話見たくなって気づいたら夜になってた。すみませんでした。ちなみにおっさんに「久々にがっつりアニメ見たわ」と伝えたら「そうか、キミも遂に心がぴょんぴょんするときが来たかぁ。ロリはいいぞぉ!」と興奮しながら言ってきた。おっさん仕事で疲れてるからか、ああいう日常作品にすごいハマっている。日常作品は私も好きだ。でもあの作品は正直合わなかったので一話だけ見て放置した。おっさんには悪いけど「違うぞ」と伝えたらすごい悲しそうな声で「そうか」と答えた。なんかごめん。
「お、これいいかも」
次へ。を何度もクリックし、ようやく気に入ったものを見つける。どれもいいお話だったけど、自分の中でピンと来たのはこれかな。さっそく投稿者にメッセージを送ってみる。サイトのルール上、自由に使っても構わないが一応投稿者に報告してね。という決まりがある。
「初めましてこんにちは。YouTubeで音読をしようと思い作品を探していたところ、とても素敵な童話をこちらで見つけたのでお借りさせていただきます。」
……多分これで大丈夫だろう。大丈夫だよね?まぁ、何か言われたら配信のアーカイブ消して謝っておこう。何も問題はありませんようにと祈りつつ配信の時間まで軽く音読しておいた。ちなみに一応メッセージが返ってくるか待っていたが、特に反応はなかった。
配信開始。
「こんばんは。今日も配信を始めていきます」
:こんばんはー。
:配信ヤッター! 待ってました。
:いろんなVtuberさん見てるけど、最近では雹さんの配信が一番の楽しみになってる。
:俺もいろんなVtuber見てるけど最近は雹さんのが楽しみかなぁ。
:僕は初めて見たVtuberが雹さんでした!
:仕事終わって家に返ってきたら丁度配信始まった。やったぜ。
「本日も宜しくおねがいします。そうそう、今日は音読をしてみようと思います。雑談だけだとつまらないだろうし、作業してる人も多いと聞いたのでBGM程度に聞いてくれればいいかなと」
:面白そう。
:いいですね、音読。
:自分作業してますが、雹さんの声が聞けるならなんでもいいです!
:ん?今なんでも
:ん?
:ん?
:童話とか小学生の時以来だなぁ。
「では読んでいきたいと思います。タイトルは……」
「……おしまい。うん、良いお話でしたね。皆さんはどうでした?」
コメントを見てみる。しかし、音読を始める前まで流れてたコメントが一斉に止まった。最後に更新されたであろうコメントが「気のせいか急激に眠気が」だった。なんだ、皆一斉に眠ったのかな?まぁもう深夜だし、皆仕事とか学校とかで疲れて寝ちゃったのかな。仕方ないので今日はこのへんで終わっておこう。挨拶をして配信を止め、PCの電源を落として自分ものそのそとベッドに潜り込んだ。皆ゆっくり休んでくれたらいいなぁ。すやぁ。
音読配信二日目。
「……はい、今回は◯◯という作品でした。なかなか考えさせられる作品でしたね」
いつもの通りマイクに向けて喋る。画面には20人の視聴者が居る。居るはずなんだけど……うーん、今日もコメントが急に止まってしまった。なんだろうか?皆そんなに忙しいのだろうか?おっさんや兄の話を聞くと今はそんなに忙しい時期じゃないとは言ってたけど、やっぱり仕事によって違うのだろうか。それにしても、20人全員が忙しいって大変だなぁ。音読配信、続けても大丈夫なのだろうか?邪魔になってないかなぁ?うーん……とりあえず寝るか。すやぁ。
音読配信三日目。
「……おしまい。今日は◯◯という作品でした……えーと……」
コメントを見る。うん、止まってる。流石におかしい。3日連続だよ?そんなになのか?そんなに皆疲れてるのか??わからない、実は何か起きてて皆寝ているのではないだろうか?あ、もしかして私の音読が下手で聞くに堪えずヘッドホン外してるとか……?裏で別配信聞いてるとか……?あぁなるほど理解した。よし、今日は泣いていい日にしよう。
「えっと……皆さん、聞こえてますか?居ますか?」
……反応なし。あーこれはもう駄目ですね。なるほどなるほど、私が勝手に盛り上がってただけで皆無理して付き合ってくれてたんだな。皆ごめんなぁ。全然気づかなかった。仕方ない、明日からは音読配信をやめて雑談配信に戻ろう。結構気に入ってたんだけどなぁ。まぁ、雑談配信で皆コメントしてくれるならいいか。明日からまた雑談配信頑張るぞー。すやぁ。
雑談配信。
「今日はコメントありますね。よかった」
:雹さんすみません。何故か寝てました。
:自分も寝てた。いや、眠気なんて全然なかったんだけど。
:俺もだわ。音読聞いてたら急激に眠気がきた。
:よかった、俺だけじゃなかったのか寝てたのは。
:いやでも、せっかく雹さんが音読してくれてるのに寝てしまって申し訳ない。
:なんでだろう、毎回内容が記憶に残らない……。
コメント欄では皆謝ってる。ははーん、そういう作戦ですな?私を傷つけないように言葉を選んでくれてるわけですね。くそぅ、申し訳ないなぁ。やっぱやるべきじゃなかったかなぁ、音読配信。皆に無理させてしまったなぁ。今後は気をつけよう。
「いえいえ。皆さんお疲れの様子でしたから気にしないでください。そうそう、音読は一応辞めることにしました」
:え、やめるんですか?
:マジか。実は結構楽しみにしてた。
:俺も。なんというか、すごい落ち着くんだよなぁ。
:わかる。なんかこう、雹くんの声に引き込まれるんだよな。
:うんうん。あとドキドキするよね。
:する……のか?
:いやしないでしょ流石にw
:……ごめん、俺はちょっとした。
:え
なんか皆残念がってくれてる。そんなにヨイショしたってなんにも出ないぞ。
「あはは、ありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいですよ」
:可能なら今後も聞きたいです、音読。
:あんま無理させたくないけど、できれば音読は続けてほしい。
:音読聞きたいです。
:音読俺も聞きたい。けど朗読でもいいんですぜ。できれば罵倒するようなやつで。
:雹さんに任せますー!ちなみに自分も続けてほしい派です。
:おいなんかやべーやついるぞ。
おいなんだこいつ……じゃなかった。まさかここまで皆言ってくれるとは。もしかして無理に付き合ってなかった?いやでもどうだろ?うーん……
「……わかりました。それじゃ、しばらく続けてみましょうか」
:やったぜ。
:ありがてぇ……ありがてぇ……
:音読また楽しみにしてます!
:今度は寝ないようにするぜ。
:俺も。
:俺も寝ないように頑張るわ。
というわけで、結局音読は続けてみることにしてみた。続けることにはしたんだけど……
音読配信四日目。
「……おしまい。今回は◯◯という作品でした。なかなか怖かったね」
……うん。流れないね、コメント。なんなんだろうか。もしかしていじめか?私をいじめて楽しんでるのか?くそぉ、そういう性癖の人達だったのか。確かに数人やべーやつ居たけど。くそぅ。もういいもんね!もう絶対音読しないもんね!知るもんか!私は私のやりたいことをやるぞジョジョー!すやぁ。
次の日。
:あのー、一つ思ったこと、いやわかったことがあるんですけど。
今日は音読しないぞ!と皆に言おうとした時、そんなコメントが流れた。
「ん?どうしました?」
:なんだなんだ?
:多分、音読についてじゃない?
:あー、それ俺も思ったことあった。
:自分も。もしかして同じ考えかな?
:とりあえず黙って聞いてみようぜ。
:なんだろうか?
:えっと、音読始まってから急に眠くなる人います?
:俺だわ。
:俺もそうだわ。
:自分も音読聞いたら眠くなります。
:俺も。雹さんの配信まで仮眠取ることあるけどすごい眠くなるわ。
:自分夜型なんだけど、雹くんの音読聞いたらめっちゃ眠くなって寝ちゃう。
「……うん?」
:もしかしてですけど、雹さんの声と音読が合わさって眠くなるとかありませんかね?
:あっ(察し)
:んなばかな。
:あー、やっぱそう思う?
:自分もなんとなくそんな感じしました。だっておかしいですもん。
:音読って基本ゆっくり喋るから、雹くんの低音ボイスといい感じに合わさって眠気を誘いにきてるのかもね。
:そんなオカルトありえません!
:原村さんは麻雀やっててください。
「いやぁ…流石にそんなことはな……」
あっ。
あったわ。そういえば。昔おっさんとやってたゲームのギルドの女の子とボイスチャットした時に、「雹夜さんってなんか眠くなる声してますよね」と言われた事があった。何いってんだコイツと思ってその後は遊ばなくなったけど。……そういえば他にも同じような事言ってる人が居たな。……え、マジ?
「……まぁ、そういう事も、あるかもしれないです……ね。うん。えっと、どうしましょうか?このまま音読、続けたほうがいいのでしょうかね?」
:正直声が聞けなくなるのはアレだけど、続けるのはいいと思う。結構好きだし。
:疲れてる人にはいいかもしれないね。ぐっすり寝れそう。
:自分語りで申し訳ないけど、実は最近全然寝れなくてすごい助かってた。
:いっそのこと寝落ち配信枠でやってみては?
:あー、いいね寝落ち配信枠。意外と人気出そう。
:人気は出てほしくないけど、寝落ち枠にするのはいいと思います。
:催眠ボイスとはたまげたなぁ……閃いた。
:何を閃いたのかはわからんが、どう頑張っても催眠食らうのは俺達だぞ。
:催眠ボイス、深夜、男同士、何も起きないわけがなく……
「……わかりました。それじゃ、今度は寝落ち枠という感じでやっていこうと思います。もちろん雑談配信の時もあるので楽しみにしててください」
ということで、寝落ち枠という新しいものが出来た。やったねたえちゃん!……いやしかし、まさか私の声にそんな効果があったとは。恐ろしいな……一応考えてやらないと駄目かもしれないなぁ。なんか変なこと起きたら困るし。とりあえずおっさんに「寝落ち枠出来ました。あと俺はどうやら天然催眠ボイスを持っているらしい」とメッセージを送ってお風呂に入った。入浴剤は木の香りが好きです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます