インテンス・クラフト

赤坂 蓮

序章

インテンス・クラフト 〜始動〜

深夜二時…

星も見える透き通った空の下で、その事件は起こった。

深夜にも関わらず、とてつもない音と光を瞬時に放ちながら、夜の風景を一瞬にして反転させた。


「まだそこら辺にいるだろう!手分けして探せ!」


烈火の炎に包まれた水上都市『新東京0区』は真っ暗だった景色を赤く染める。


大きな爆発音とともに噴き出た炎はゴウゴウと音を立て、次々と隣の工場を飲み込んでいった。

夜風は新たな火種を運び、炎の海は勢力を上げながらも陣地を広げていく。



「犯人の姿を見た奴はいるか!?」


燃え盛る炎をバックにリーダー格のような男が仲間に状況を聞く。


「いえ、我々がきた時にはもう…」


「この炎の発生場所はどこだ!」


海の潮を運んでくるやたらと強い夜風に負けないように大声でのレスポンスが続く。


「特殊管理室です!奴の狙いはおそらくCORE-α-05だと思われます!現在のCOREは盗まれて行方不明、扉を開けるために使われた爆弾から工場の燃料に誘爆してここまでの火災になったと考えられます!」


リーダーは「チッ」と大きな舌打ちをして目の前に広がる燃え盛る新東京0区を、ただ何も出来ずに唖然と見つめるだけだった。

炎は時間と共に威力を増し、パチパチと工場内の木材を焼き払っていく。


消防隊も駆けつけ消化活動を行うが、工場の燃料が火の火力をさらに強め、なかなか消せない状態にまでの大火事に膨れ上がっていた。


「早く探せ!一般人にこのことがバレると厄介どころか今までの努力全てが無駄になるぞ!」



「「はい!」」


たくさんの足音を響かせて、赤く染まった新東京0区は普段の静けさを失い、騒がしい夜を迎えた。













「こりゃあ盛大にやっちまったなぁ…」


爆発現場から少し離れた貨物輸送ガレージの上からあぐらをかいて遠目に燃え盛る工場を見る


完璧なまでに綺麗なブロンズ色をした髪を夜風に靡かせながら、その男はため息をついた。


「まさか燃料が誘爆するなんて思ってなかったからなぁ。犯行がバレバレじゃねぇか。」



ブロンズ髪の男はゆっくりと立ち上がってポケットの中からルービックキューブほどの大きさのブロックを取り出す。


取り出されたブロックは内側で青白く光り、ブロックの隙間から微かに淡い光を放っている。


「まぁでも、お目当ての品は手に入れることができたからこれでチャラだ。さーて、ちゃっちゃと帰りましょうか。」


ブロックをポケットに入れようとしたとき、後ろから銃声音が鳴り響いた。

それは実に乾き切った空を悪い意味で彩らせたかのような激しい一発の発砲音だった。



「…もうバレちまったか。」


今いる場所も事故現場からそう遠くなかったので見つかるのは時間の問題だったが、予想よりも早くバレてしまった。

大きな一発の発砲音は空気を振動させ、波のように音を伝える。



「手を上げろ、今のは威嚇射撃だ。上からはお前を殺さずに捕らえろという指令だ。不意をつかれなくてよかったな。お前が持ってるそのブロック…素直に渡してくれれば見逃しておいてやろう。」


後ろから聞こえる声は屈強で、力強い声をしている。

ガレージがたくさん置かれているこの場所で、勇ましい声だけが反射して立体の音を作り上げる。


狙いはブロンズ髪の男よりも、ブロックの方だということぐらい、ブロンズ髪の男はわかっていた。

「もし渡さないと言ったら?」


「ここで死ぬんだな。」

即答で返された。



ブロックを持ちながら両手を上げ、ゆっくりと振り向く


ガレージの下には高身長で外国人のような顔立ちをした人が銃を構えていた。

戦闘に備えたガッツリとした装備をして、いかにも捉える気満々だ。


「おいおいおい、完全にやる気じゃねぇか。上からの指令はどうしたんだ?まぁ狙いは俺よりもこのブロックだから別に殺したところで『仕方ない』で済ませることができるってわけか…」


話を展開して相手を油断させようとしたが、そう簡単にいくような相手じゃなさそうだ。

相手の銃口は一向にブロンズ髪の男から離れない。



(見逃してやろうだかなんだかほざいていたが、アイツは目が死んでやがる…どうせ大人しく言う通りに従ったって捕まえられてお陀仏だろうな。まぁ、元から渡すつもりはないけどな、、)



ブロンズ髪の男は今一度大きなため息をついて呟いた。



「これは帰るのも一筋縄じゃいかねぇみたいだな。」








しきりに燃える新東京0区を夜景のバックに置いて、二人の駆け引きが始まった。




外国人のような男は様子を伺いながら話しかける。

「そのブロックをこちらに投げろ。」


ブロンズ髪の男は冷静に対処しようとする外国人のような男を見て少し探りを兼ねて煽ってみる


「お前さん、応援を呼ばなくても大丈夫なのかい?1人で俺を捕まえようなんて俺もみくびられたもんだな。」


外国人のような顔立ちをした男は若干ながら眉をひそめる、

その眉から顔全体を怒りの感情へと切り替えたが、瞬時にその感情はまた穏やかなものへと変わっていく。


「無駄な気遣いありがたく思うよ。だが、俺は周囲と合わせて行動するのが苦手でね。1人の方が、行動しやすいんだ。」


相手の反応を見て、もう一度煽りを入れてみる。

今度は喧嘩を買うように———


「おぉそうかい。で?こんな僕に何か用かい?」


しらばっくれてみると外国人のような男は思い通りに怒ってくれた。



ある程度探ってみて、アイツは自分のペースを乱されるとすぐに機嫌が悪くなることをなんとなく察していた。

今回は見事それが見事に命中した。


外国人のような男は命令するように大きな声で叫ぶ


「わかっているだろ!早くそのブロックをよこせ!」


ブロンズ髪の男は手に持っているブロックに目をやった。

そのブロックは割れ目から絶えず綺麗な青白い色の光をかすかに放っている


「これは、」


ブロックを投げようと持っている手を後ろに下げたが、投げる素振りをしてすかさずポケットに入れる。

「残念ながら渡せねぇなぁ。俺のモンだ」


精一杯の侮辱と嫌味の籠った声で、ブロンズ髪の男は言った。


「貴様ァ!」



今の発言で外国人のような顔立ちをした男に相当喧嘩を売ってしまったようだ。

相手は持っていた拳銃をこちらに向け、引き金に人差し指をかける。


(デザートイーグルの類の銃だな。威力の高い武器を選びやがって…殺す気満々かよ。)


最悪引き金を引かれたとしても対処はできるのでこのまま冷静に話を続けてみる


「これは俺の実力で奪えたもんだ。あんたらが奪われてほしくないように、こちらも1度手に入れた物を簡単に渡す事はできねぇな。」


相手が怒り狂ってしまえはこちらのペースに持ち込むことが容易くなる。



「てめぇにそのブロックを持つ権利はねぇ!」


相手が引き金を引こうとした時、横方向から飛んでくる何かが手に当たり、その衝撃と痛みによって銃が手から離れる。

銃を持っている手を何かに弾かれたように銃はその暗い夜空の宙を舞った。


「ぐっ!何だ!?」


外国人のような男の横方向からトストスと足音を立てながら出てきたのは茶髪で髪の毛を一つ縛りでまとめた女だった。

鋭い眼光から生まれる冷ややかな目つきは、外国人のような男からガレージ上の男の方へと向けられた。


「リーダーのところに持って帰ったかと思ったら、まだこんなところにいたのね。」


美しい美声だが、それとは裏腹にその声に乗せる言葉の重みは心に響くような重さだ。


「お、助けに来てくれたのか。こっちはちょっと厄介者に出くわしただけだ。特に問題はねぇ。そいつから新しい情報収集の材料になってもらえば…プラマイゼロだろ?」


出てきた女はどうやらブロンズ髪の男の仲間だ。態度こそはお互いにいがみ合っているものの、決してブロンズ髪の男を捕まえようとする仲間ではなかった。


外国人のような男は手に直撃した何かを二人が動くのを警戒しながら拾い上げる。


(ガレージ上のブロンズ髪の男はいまだに動く気配がなくそれと言った武器も持ち合わせていない。そうなると最優先で警戒しなくても良さそうだが問題は的確に銃を持っている手に何かを当てたあの女の方だ。)



拾い上げたものは光を固形物にしたような物で形成されたチョークのような形をしたものだった。

見たことのない物質で形成されているその物体は、適度な強度と物質本体の色を見せないかのように眩い光を放っている。



「それ、インテンスで作ってるから危ないよ。もう少し警戒した方がいいんじゃない?」


女は外国人のような男が手に持っているチョークのようなものをもう一つ、新たに足のポーチから取り出して警告する。


「インテンス!?まさかお前ら、受機者《アドミスト》か!?」


外国人のような男は何かに気づいたように大声で二人に問いかけ、すぐに戦える姿勢を作り右腰あたりにあるもう一つの拳銃に手を添える。


「残念だが、ちょっと惜しいなぁ。まぁインテンスを知ってるあたり、そこらへんの雑用係じゃなさそうだ。」


「…で?こいつはどうするの。情報係になってもらうの?」


冷たい態度を取る女にブロンズ髪の男は挑発を兼ねた適当な返事をする。


「あぁ。まだ聞きたいことはあるからな。出来るならお前がそいつ捕まえてもいいんだぜ?」


女はブロンズ髪の男の挑発を聞くなり「おーけー。」と気怠げそうにつぶやいて外国人のような男に容赦なく向かっていく。



「お前らは何者だ!なぜインテンスを知っている!」


外国人のような男は状況を把握しきれていなかったが、とりあえず自分の身に危険が迫っていることぐらいはわかっていた。

すかさず右腰にある拳銃を手に取って構え、向かってくる女に銃口を向けて胴体めがけて二、三発撃つ。


腰から拳銃を構え、そこから的確に相手を撃つ一連の動作を慣れたように素早く行う。


(高火力の銃を扱える上に手慣れた動作…こいつ相当な手練れだな。これは面白い戦いになりそうだ。)


ブロンズ髪の男は闘いに参戦することなく、ガレージにあぐらをかいて座り直した。



まるでスタジアムで決闘を観戦するかのように…

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