氷雪の王

第6話

 話し終えた私は、カップに残っていた白湯を一気飲みする。

 ぬるくなっていたが、全てを話し終えて、肩の力を抜いた身体を落ち着かせるには充分であった。

 傍らにカップを置くと、目を見開いてじっと私を見つめるポランに気づいたのだった。


「嘘じゃなかったんだな……」

「信じてもらえますか?」

「にわかには信じ難い。だが、お前が嘘をついていなかったのは今の話でよくわかった。その上で謝罪させてくれ」


 ポランは立ち上がると、先程見たのと同じ高そうな靴の踵を鳴らして、ソファーに座る私の目の前に膝をつく。

 そうして、「すまなかった」と白藍色の髪が床に落ちるまで深く頭を下げたのだった。


「や、やめて下さい! 王様なんですよね!」

「王様だが、この国を治めるどころか、無実の罪で人を凍死させようとした不出来な王だ。……本当は私が治めない方が、この国は豊かになるのかもしれん」

「そんな事は……」


 その時、部屋の扉が控え目にノックされた。

 ポランは立ち上がると、視線を向けたのだった。


「誰だ?」

「私です。ポラン様」

「フュフスか。入れ」


「失礼します」と言って入って来たのは、ブロンド色の髪をうなじまで伸ばした若い男であった。

 男の顔には見覚えがあった。いつもスープを運んできた男だった。

 ポランも整った顔立ちをしているが、よくよく見ると、この男も整った顔立ちをしていた。


「お嬢さんのお部屋の用意が整いました。一緒に食事と湯浴みの用意もしております」

「助かる。おれが取り上げた荷物と服は?」

「お部屋に運んでおります」


 やや明るい声からこの若い男が、あの時、ポランと話していた者だと気づいた。

 じっと二人を見つめていると、視線に気づいた若い男がニコリと微笑んだのだった。


「お嬢さんの正体は判明したのですか?」

「どうやら、本当にこの城に迷い込んだだけらしい。何も怪しいところは無かった」

「そうでしたか……」


 若い男は私の前に膝をつくと、ポランと同じ灰色の目を細めたのだった。


「この度は辛い思いをさせて、申し訳ありません。わたしはフュフスと言います。ポラン様の執事と執政官を兼任しております」

「とんでもありません! 私は真白と言います」

「真白様ですね。これからどうぞよろしくお願いします」

「真白、フュフスはおれの乳兄弟だ。この城の事は全てフュフスがやっている」

「全てではないですけどね。使わない部屋は鍵を掛けて掃除の手間を省いて、雪掻きは国民にも手伝ってもらっています」


 二人は顔を見合わせて微笑を浮かべると、再び私に視線を向けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る