「い つ か」
東雲 唯純
第1話 「1日」
「あー…暑い…」
今年の夏はその一言に尽きる。夏と言ってもまだ7月に入ったばかりであり梅雨の真っ只中である。
思わず気を緩めれば唸り声が漏れてしまう。
汗は身体中にへばりつき余計に気だるさを感じさせていた。
「ん…」校門に向かっている途中、ある「1匹の存在」に目を引かれる。校門を入ってすぐ、昇降口へと向かうその途中に犬が居たのだ。
「どうしたの?こんな所で…。こんな所入ってきちゃダメだよ。」
その犬の傍でしゃがみこみ声をかける。犬はこちらを向き舌を出している。どうやら人懐っこい犬のようだ。首輪をつけているし飼い犬だろうか…?思わず頭を撫でると気持ち良さそうにしている。
「ねえ、見て…あれ。」
「ああ、
「また何かしてるよ。」
周囲からヒソヒソとは小声が聞こえてくる。
「あなたもなの…。」
まただ。こういう事は珍しいことではない。周囲がこの子に全く興味を示していないのも、私がこの子を撫でていることも不思議に思えることはただ1つ。
「この子が他の皆には見えていないから。」であった。
こういうことはよくある。割と見た目ではよく見ないとわからなかったりするものもいる。動物にしても、人間にしても。
「はぁ…」私はいつものことに短く、それでいて静かに溜息をつき昇降口へと向かい自分の教室へと向かった。
私は幼い頃から「この世に生きていないもの」が見えていた。そのおかげで私から身を遠ざける者も多かった。現に4月にこの町、
「よう。西園寺。」
HRも終わり、席に座っていると声をかけられる。
「
彼は陸上部であり、誰にでも明るく接している。その上委員長でもある。いわゆる「クラスの人気者」であった。私に声をかけてくる数少ない人物。彼もそのうちの1人でもあった。
「どうしたの?平野君。」
声をかけてきた彼に目を向ける。
「また朝になんかやったのか?皆が西園寺さんが、西園寺さんが。って話してたぞ?」
私の方に少し近づき抑えた声で話しかけてくる。余計なお世話だ。私だってしたくてしているわけではない。しかしこうして直接言って貰えると気が楽ではある。
「そんなんだと友達離れるぞー?」
冗談交じりに笑いながら言ってくる。時々思うが彼はいちいち一言多い。
「うるさい…そんなんだから彼女出来ないんだよ?」
お返しとばかりにこちらも口にする。
「かもなー…そろそろまずいかも…?」
私の言葉を真に受けて考え込む。
「で、どうかしたの?」
彼が私に声をかけてきたのはこんなことではないはずだ。空気を変えるためにも話を切り出す。
「ああ。この間みんなに配られた生徒会選挙の用紙、あるだろ?あれ、早く出してくれよ。」
「ん、わかった。」
特にたいした用事ではなかったようだ。この間、生徒会選挙があったのだがそのアンケート用紙をクラス委員で回収しているようだった。
私に軽く手を振り離れると他の人の元へと小走りで向かう。流石平野君だ。私だったらあんな簡単に声はかけられない。
そんなことを考えていると1時限目のチャイムが鳴り、一日が始まった。
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