第16話 己の正義を信じて②
バレルバントの王……今回の神奪戦争のマスターの1人。
ハレとの対談でハレはその己の王に対し銃を突きつけていた。
「言ったはずだぜ……あたしに指図すんじゃねーーー」
今回、ハレが聖都側では無く、魔王に手を貸した事で、
聖都側から重大なる警告を受ける事となった。
アスとは違い、警告でありその権利を剥奪された訳では無かったが、
これ以上の勝手をされてはと、その忠告を呼びかけたが、
彼女と解り合う事など不可能な話だった。
「てめーらとの契約を今更解除するとかそう言うつもりはねー、あんたらはただ置物のようにそこにあればいいのさ、あたしのやり方に茶々を入れるな、そんだけの話だ」
拳銃を強く突きつけそう言い聞かす。
信用できるわけが無い。
神に平気で喧嘩を売る女。
自分の息子を平気で殺した女。
それらを我慢している自分が異常なくらいだ。
だが、このイカれている女を刺激することは、
オーガニストの国と同じ末路を味わう事になる。
国を治める者として……その怒りを抑えなければならない。
対談を強制的に終わらせ、ハレがその場を離れるが、
しばらく、その場で口を開く者は居なかった。
与えられた部屋に戻るハレは、用意されたベッドに大の字で倒れこみ。
真っ暗な部屋の天井を見上げる。
「あの日……あの時の坊ちゃんが悪だと言うのなら……」
「あの日……勝者となった者が正義だったとするなら……」
何かを思い返しながら独り言を呟く。
「神を抗ってでも……あたしが勝者となれば……私が正義……」
「この世界で最後まで立ち上がっていられるものが正義……」
そう……言い聞かせるよう呟く。
「物語は……終わりません……あたしが終わらせなどしません……」
「あたしが……立って、立ち上がって……何度でもその物語を思い返して見せます」
大事そうに一冊のノートを大事そうに抱きそのまま眠りについた。
似合わぬメイド服に身を包む女性……昔のあたし。
殺しの専門とした傭兵をしていたあたしが、その時住んでいた、
国の偉大な偉人を手にかけ、指名手配者として追い詰められていた頃、
逃げ込んだお屋敷……それが、坊ちゃんの住むお屋敷だった。
そんな侵入者に気がつき殺意を剥き出しのあたしにあの人は優しく微笑み、
この出会いは神の導きで、全てが運命の物語であると言った。
そして、あの人は自らの危険を顧みず、そんな危険なあたしを匿うように、
メイドとしてこのお屋敷に招き入れた。
あたしは坊ちゃんの専属のメイドとして働く事になった。
殺し以外のなんの取り得も無いあたし。
家事なんて一切できない。
できるとすれば力仕事くらいのことだ。
なのに、あの人は、愛想を尽かす事無く、
一緒に居ることをただ喜んだ。
身寄りの無い私を……1人の家族のように受け入れた。
別に坊ちゃんを自分の目上の人間として見た事はない。
不器用なあたしは何時だって辛口を聞いていた。
それでも、笑って……家族のように接する彼に……
あたしにも、その恩を返したいって気持ちくらいは芽生える。
だから……坊ちゃんの望むことだけは叶えたいと思った。
坊ちゃんが話した物語の通り……世界を動かそうと思った。
だから……あの日、神から坊ちゃんが見捨てられたあの日……
坊ちゃんが書いた最後の1ページ。
全てに絶望した坊ちゃんが書いた1ページ。
必ず叶えて見せますからね……
それがあたしの恩返し。
寝息を立てるハレから落ちたノートがペラペラとめくられ広がるページ。
神が死に……楽しそうに笑う、男の子とメイド。
この物語はあたしが完成させますから……。
△△△
「本当に良いのだな?」
フーカは再度確認するようにナヒトにそう告げる。
「構わない……こうなる覚悟はしていた」
目の前の状況に戸惑う事無く……こうなる事を予想していたようにナヒトは答える。
「ふむ……我の知る限り、子の親、家族という者は、出来が悪かろうが、悪事を働こうが、子を想う気持ちを持ち合わせて居る者かと思ったが……」
自らの家族の命を奪おうと送られた刺客……
その多くの傭兵に囲まれていた。
反撃に出れば、その事実を受け止めざる終えないだろう。
後戻りが出来なくなる。
「僕は……ミクニという名でこの歴史に名を刻むんじゃない……フーカ、お前の名前と共にナヒトである僕の名をこの歴史に刻むんだっ」
そう強く言い放つ。
「……なるほど、我もその言葉で契約を結んでしまったのだからな……ならば答えてやらねばなるまい」
フーカは一歩前に出ると、自ら標的の的になるようその姿を晒す。
「……命の要らぬ者からかかって来い……悪いが、加減は得意ではないのでな」
無防備に立ち往生しながらそう周囲に言い放つ。
一斉に襲い掛かる傭兵達に臆する事無く、右手を前方へかざす。
黒い文字が彼女の周辺に集まると、その文字は重なり合うように漆黒の槍へと姿を変えた。
「……歴史に名を刻むには少々役不足な相手だの……出直して来いッ」
漆黒の槍が一直線に飛ぶと、その半数以上の傭兵達を貫いた。
残った傭兵達が怯まずに突っ込んでくる。
「たくっ……全くつまらんの」
そう言って軽くあしらおうとした、フーカの横に一本の槍が飛んでいく。
その槍の柄の部分には鎖が巻かれており、傭兵の一人を捕らえると、
シュルシュルとその槍を投打した持ち主に回収される。
「何時の間にそんな、面白い武器を創っていたのやら……」
槍の持ち主にそうフーカは告げる。
「言っただろ……僕はお前の背を見て育つと……」
フーカの漆黒の槍を真似るように、ナヒトは魔装である槍と魔力の通った鎖を組み合わせ、筋力も魔力も持たぬ自分でもその鎖の長さ分を投打し、自分の元まで回収できる魔装具を作り上げた。
「主は、そういった所は器用だと少し関心できるがな」
魔力を持たぬナヒトはフーカへの魔力供給のために、魔具を媒体にフーカの魔力回復にあてたりとそういった事を器用にこなしていた事には素直に感心していた。
「にしても、何も同属を手にかけるような真似をしなくていいであろうに……」
実の家族……そんな者に命を狙われ、そして命のやり取りをしている。
「僕はお前に汚れ役を押し付けるために、ここに居るんじゃない」
「お前と共に、この歴史に名を刻むためにここに居るんだ」
そう自分の意思を再度、フーカに伝える。
「……たく、へなちょこの癖に、可愛い事を抜かすの貴様は」
嬉しそうに笑いながら再びフーカは漆黒の槍を作り上げ、残りの傭兵達を一掃する。
初めて、人を殺めた……しかも同属の人間を……
震える手を必死で誤魔化す。
「上出来だ」
ぽんっとフーカがナヒトの頭に手を置く。
「一気に強がろうとなどするな……恐れよ……戸惑え……我を誰だと思っておる、そんなものは我がいくらでも庇ってやる、補ってやろう」
乱暴な言葉で優しくフーカは言う。
身体が震える……後……僕はどれだけの時を生きていられるのだろうか。
フーカの実力を疑っている訳ではない。
100%の実力の彼女なら、きっとこの戦いを勝ち抜けるそう信じてさえいる。
それでも……彼女は僕というハンデを背負っているのだ。
魔力の供給すら魔具を通してしかおこなえない。
そんな僕に召喚され、そのハンデの中……神に選ばれた強者の相手をしなければならない……
覚悟をしたつもりでも……やはりそんな不安な気持ちが現れてしまう。
「……また、くだらぬ事を考えておるのか?」
ナヒトの表情を見て、得意のネガティブな思考をめぐらせているのかと、フーカはからかうように笑いながら言う。
「我の背を見よ、我が貴様の勇気となろう……どんな逆境にも立ち向かえるよう、我が貴様の自信となろう……」
フーカは強気に笑いながら、
「振り返れぬ過去など捨てよ……訪れる未来を誇れ」
幼い子を慰めるようにフーカは自分の胸にナヒトの頭を預けさせ、
「我を誰だと思っておる……」
口癖のようにフーカはその言葉を繰り返す。
△△△
オーガニストの街……
何時の間にか、空き地の一角に多くの墓場が作られていた。
多分、そのほとんどの墓に眠る者は俺が手にかけた者達だろう……
アスはそう思いながら……その墓場を行き来する者たちを黙って見ていた。
見渡していた場所に見知った女性を1人発見する。
恐怖で足が震えたが自然とそこに足が向かった。
墓に花を添える女性……
その女性に向かい、黙って深く頭を下げる。
「……何のつもりですか?」
全く気づかぬそぶりで作業をしていた女性。
頭を上げる事ができず深く頭を下げたまま……
アスはその女性の言葉を受け止める。
「残酷ですよね……神様は……」
そう女性は少年を見る事無く話しはじめる。
「あの日、職務に向かう旦那は凄く……深刻な顔をしていました」
女性は続ける。
「……何時も職務先の凶悪な少年に会うのが楽しみだというように、この家を出て行っていたのに……あの日は違っていた」
「止めるべきだったのでしょうね……守るべき人を間違えないで下さいと……そう泣いてすがってでも止めるべきだったのだと思っています」
「自分を……この子をどうか優先してくださいと……この人に乞うべきだったと思います」
そう旦那の墓に向かい話す女性。
「……俺は……その……すいま……」
「謝らないで下さい」
アスの言葉を女性は遮る。
「……多分、貴方は悪くないのでしょう……」
女性は冷たくそう言って、
「……でも、貴方を怨む事ができなくなったら、貴方を許せるようになってしまったら……私はこの悲しみを何処にぶつければいいのでしょうか?」
女性は立ち上がり、何時の間にか流れる涙を隠しもせず、アスの方を向いた。
「俺の事……怨んでください……その資格は貴方にあります……その罪は俺にあります……だから、俺の事はこれから先も怨んでくれて構いません……許して欲しいなんてそんなおこがましい事言うつもりはありません」
頭を下げそう告げる。
「……まるで、私が悪者ですね……」
少し嫌味のように女性は告げる。
頭を下げたまま頭を揺すり否定する。
「全部……俺のせいです……全部俺が……この力をきちんと向き合えるだけの人間だったら……」
何か……変えられていたのだろうか?
「あの人の言っていた通り……ちっともその力でこんな私を黙らせようとなど、少しも思わないんですね……」
女性は少しだけ笑いながら言う。
「俺の罪を許して欲しいとは言いません……ただ……ただ一つだけお願いしたいことがあります……貴方を……キノを……俺に守らせてもらう権利……どうかそれだけを許して下さいっ」
さらに深く頭を下げる。
「……いっそ、貴方が悪魔のような人なら……良かった……本当に魔王のような存在なら……良かった……ミレーナ……私の名前です」
そう、突然女性は自分の名前を名乗った。
「……怨める訳……ないじゃない……本当に聞いていた通り真っ直ぐで……誰よりも思いやりのある子……そんな人を、実際目の辺りにして……」
突然、敬語をやめて話しかけるミレーナと名乗った女性。
「……アス、顔をあげて」
怯えるように顔を下げ続けるアスに優しく顔をふれ、自分の向き合わせる。
「……あの人から聞いてなかったかしら……貴方はうちの家族なんだから……守る権利なんて生意気なこと言わずに……貴方はこれから、私達家族で支えあって暮らすの……そう約束してもらえる?」
「あ…うっ……」
言葉がでてこなかった。
ただ、その場に崩れるように座り込み……地に頭をつけ涙を流す。
「……やくぅ……そぉくぅしまぁす」
涙でぐしゃぐしゃの声でそうミレーナへ伝える。
約束する……
おっさんが生きろと言った命、もう無駄にはしない。
おっさんが託した家族……絶対に守ってみせる。
だから……こんな幸せな俺を許してくれ……おっさん。
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