第11話 ここにいてもいいってことだよね?



 あおは興奮していた。気持ちが高揚しているとでも言うのだろうか。動悸が止まらなかった。


 結局、あれから一時間半かけて、作戦会議をした。現状ではエクセル以外の管理方法は見当たらない。やはり保護ビューモードになっているときは必ず確認。焦らないこと。予約状況については、チラシを作る時だけではなく、毎週のミーティング時にみんなで確認をすることなどの改善策が出された。


 あんなに喧嘩腰だった高田と尾形が率先して意見を出した。最後は和気あいあいと帰途に就くことができたのだ。


 自転車で通勤している蒼は、職員駐車場に向かったみんなとは別れて、一人で自転車置き場にいた。


「叱られなくても、みんなで改善するんだ」


 なんだか蒼にとったら新鮮だった。仕事で失敗をしたら、上司や先輩に怒鳴られるものだろうと勝手に思っていたからだ。


「水野谷課長って、すごいんだな……」


 スムーズで無駄がない。本当に素晴らしいと思った。


 あれこそが管理職。


「憧れちゃうな……」


 どうやったら水野谷みたいな人になれるのだろうか? 


 最初は星音堂せいおんどうに配属させられて、不満や不安があった。しかし本庁を見る限り、あそこは自分の居場所ではないような気がした。星音堂にはとても素晴らしい職員がたくさんいる。


 まだまだ勉強をしなくてはいけないことも多い。音楽のことも行政のことも全てにおいて勉強が必要だ。だがしかし、最初のころのような迷いは消えていた。


 蒼は自転車をこぎながら帰路を急ぐ。雨降り続きの合間の晴れた夜だった。湿度の高さと、気温の上昇でこのまま梅雨に突入するのではないかと思われた。


 じめじめとしている日々が続くけれど、ここでやっていくという覚悟が出てくると、なんだか吹っ切れた気持ちになった。


 ―—いつも居場所なんてないおれだけど。ここにいてもいいってことだよね? きっと。ここにいていいんだ。


「頑張ろう」


 自分も頑張るのだ。ここで、一人前の星音堂職員になれるように。蒼はそう心に言い聞かせながら夜道を自転車で駆け抜けた。




― 第一曲 了 —


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