朕(ぼく)は魔法使い皇帝の生まれ変わり~記憶が戻る前にやらかしたせいで引き籠りのぼっちの虐められっ子だったので、みんなを見返すためにまたやらかします~
サワダヒロシシ
第1話
『乱暴者のマサ君なんて、大嫌い!』
――そう幼馴染に言われたのは、確か中学2年のとき。
『あんたが弟だってだけで恥だわ』
――そう姉に吐き捨てられたのも、確か中学2年のとき。
『
――味方だって言いながらも、全然
幼馴染の
中学に入ってからは、思春期特有の気持ちの変化があり。クラスも別になって、少しばかり疎遠となっていた。
2年に上がってしばらくしたある日。確か寒い冬の、雪がちらつく日だった。
下校時間。
そんな折り。家のすぐ近くの、やや大きめな交差点に入ったときだ。
相変わらず携帯電話をいじっている澪に目掛けて、軽自動車が迫っていた。
横断歩道の信号は青。もちろん車の信号は赤だった。
原因は、後になってもよく分からなかったけど、とにかく車が突っ込んできていた。
それを見た
自分のことなのに、
結論から言って、澪も
あれだけ勢いよく突っ込んできた車は、寸前で
良かった。二人とも無事だった。まあ、咄嗟に澪を突き飛ばしてしまったから、もしかして脚を擦りむいたかもしれない。そこは謝っておくとして、大怪我をしなくて良かった――なんて、甘い考えだった。
『――ちょっとあなた! いきなり女の子を突き飛ばすなんて、なに考えているのよ!』
『え?』
慌てたように車から降りてきた若い女性は、凄い剣幕で怒鳴った。
なに言ってるんだろう、このひと。それが率直な感想だった。
『はあ! なに言ってるのよあなた、責任転嫁なの!? 実際に私の車はぶつかっていないじゃない!』
こちらの言い訳は、運転手に届かなかった。
それはそうかもしれない。実際に事故なんて起きなかったのだから。
『――乱暴者のマサ君なんて、大嫌い!』
そして。澪にもまた、
彼女はただ怒りで顔を真っ赤にさせて、涙目になって、こちらを睨み付けていた。
そのときの表情は、数年が経てど忘れることがない。
疎遠になり始めた
そのまま澪は、運転手の車で病院に連れていかれたらしい。
血相を変えた父が帰宅してきて――思いきりぼくをひっぱたいた。
『なんてことをしてくれた!』なんて叫んでいた。
すぐ後を追うように母も帰宅し。泣きながら
どうやら、澪から話を聞いた向こうの両親が、うちに連絡を入れてきたらしかった。
すぐに手土産を持って、澪の家に謝りに行った。
ここで
でも。謝れなかった。
事実をありのままに話した。澪は車に轢かれそうになって、それを助けようとしたのだ、と。
その真実は受け入れられなかった。
あの運転手からなにを吹き込まれたのか、澪は怒り以外の感情をこちらに向けていなかった。
もはや完全な敵意である。
翌日。
いつも通りに学校に行ったら、
女子にいきなり乱暴するバカ野郎。暴行犯。
しかも自分の過ちを認めずに言い訳ばかりする、非道いやつ。
中にはもっととんでもない荒唐無稽な話もあったけど――噂には尾ヒレが付く。
それから
そりゃそうだ。こうなっては、真実がどうあれ、
悪いやつは、懲らしめられなければならない。
ひとつひとつを思い出すだけで悪寒がするような虐めを、受けた。
机の落書き。持ち物の紛失。陰口。暴力。無視。
およそ中学生が考え付くような虐めは、ほとんど全て受けたと思う。
そんな、日に日に憔悴していく
『あんたが弟だってだけで恥だわ』
同じ中学校に通っているのだから、話が姉に届くのは当然だろう。
そして、
それから
一日のほとんどを部屋に引き込もって、昼は勉強ばかりしていた。
夜には疲れて眠るまで、ずっと筋トレ。
中学の3年間は、もう半分を過ぎていたのだ。1年と少しを我慢すれば、高校入試がある。
学区外の高校にさえ受かれば。事情を知る生徒さえいなければ。
高校でやり直せるかもしれない。
姉の教科書とノートを借りて、必死に勉強した。
勉強だけでは心許ない。スポーツも出来たほうが選択肢が広がるに違いない、と考えて、誰にも見つからないよう早朝にジョギングをした。夜には腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットを千回ずつ、四時間かけて行った。
その様子を見た両親は、度々、
『
と繰り返し言った。
でも、結局は味方でいてくれるしかない。
高校の学費なんて、自分で払えるわけがないのだから。
努力の甲斐があってか。
中学2年のときの
両親の意向――主に経済的な理由――で、引越や独り暮らし、寮生活は許可されなかったから、家から毎日二時間かけて通うことになった。
それは良い。助かる。うちの中学から、そんなところを受験する生徒はそうそういるまい。いたとしてほんの数人だろう。
確かに
東大入学者は数年にひとりくらいしか出ないし、プロスポーツ選手を輩出したこともない。
その地元では、少しばかり名の知られた進学校、というのが、新しい学び舎だった。
中学までの暗い、虐められ続けた記憶は、リセットして。
また1から、新しい人生をスタートさせるのだ!
――そう思っていたのに。
なんで。
なんで、なんで。
なんで、なんでなんでなんでなんで!
赤城澪が、同じ教室にいるのだろう?
ぼくは高校に着いて、教室に入った瞬間に、かつての幼馴染の顔を見つけてしまった。
もう1年以上見ていなかった彼女の顔は、綺麗になっていた。
新入学で気合を入れたような化粧――かつては化粧なんて一度もしたことがなかったのに。
やや茶に染められた、でも艶のあるストレートヘア――以前は癖っ毛のある黒髪だったのに。
でも根本的な顔形は変わっていない。名前も変わるはずがない――酷い目に遭った
呆然と澪の顔を見ていると。
彼女もまたこちらを向いた。そして、
にやりと。嗤ったように見えた。
それからはよく覚えていない。
ただ、絶望していた。
新しい学校で再スタートできるかと思っていたのに。
また彼女から噂を広められて、また
そうして、絶望のあまりに。
駅の前のビルの屋上から、飛び降りることにした。
この高さなら、一発で、苦しまずに死ねる。
そのビルの屋上はそんなところだった。
立入禁止の札を無視し、フェンスをよじ登り――何人かの大人たちが、挙動のおかしい
そんな迷惑な人々を掻い潜って、
『――ああ。つまらない人生だったなあ』
悔恨の念に
次の人生は、どうか素晴らしいものであれ、と願った。
そのときだった。
【――困るなあ。
そんな自分の声が、聴こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます