第5話 椿文様の箱5
――もし、ウツギと女性のあやかしが同じ主人をもつ式神だとしたら。
今はトウカという存在が消えかけて、中のあやかしが力を強めている。そして、「トウカはウツギに殺される」というシラバミの言葉。
トウカははっとした。
――ウツギの目的は、私の中にいるあやかしを表に引き出すこと? 式神仲間であるあやかしを私の中から解放したくて、そのために私を消そうとしている。
その考えに行きつくと、トウカはもうそうとしか考えられなくなった。今までのウツギの言葉や表情を思い返しても、行きつく場所はそこしかなかった。
式神たちと主人は、家族のように強い絆があるのだと思う。鎖の少女ヒサゴだって、主人やもう一人の式神のことを大切に思っていた。
――でも、どうして式神が私の中にいるんだろう。
「トウカ」
「うわっ!」
ふいに背後からかけられた声にトウカの体が大きく跳ねた。その拍子に手から風呂敷が滑り落ちる。呼びかけた本人、ウツギも驚いたような顔をした。ちらちらとした灯りに影が揺れる。
「どうした? そんなに驚かなくてもいいだろう」
「ご、ごめん。でも突然声かけてきたから、びっくりして」
「それは悪かった。まだ起きているのかと気になってな」
そこでウツギは周囲に目を向ける。道具箱が開いているのに気づいたようで、瞳に静かな動揺が走った。
「開いたのか」
「う、うん」
「そうか――、懐かしい」
ウツギは膝をつくとまじないの道具たちに触れた。愛おしむようにそっと撫でる。強く触れてしまえば壊れてしまうとでも思っているような触れ方だった。
きっとウツギはトウカのことを殺そうとして、多くを隠している。彼を信用してはいけない。逃げ出した方がいい。トウカの中でそう警告をする自分がいる。
それなのに、ウツギの寂しそうな表情から目が離せなかった。
(第四章 第5話「椿文様の箱」 了)
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