第3話 石花2
ヨシノとカグノはすがるようにトウカを見上げてくる。そうなるとトウカも無視することはできなかった。
「あなたたちを呼んでいるっていうのは、この石が?」
「石の中の子なの」
「もともと一つだったのに、別れちゃったの。だから一つに戻りたいって言ってる」
少女たちの話だけではさっぱりだ。だが、店主はなにか思い当たったように首を掻いた。そしてため息をつく。
「その石にはな、
トウカはヨシノがもつ石を見つめた。たしかに不思議な色合いで、なにか言葉にできない神秘の色を内包している。こんな美しい石をトウカは見たことがなかった。
「あなたたちはその石花の声が聞こえるの?」
トウカの問いに二人はこくこくと頷いた。店主は「石花の声が聞こえるなんて珍しい」と感心したように言うが、困った表情は変わらない。
ヨシノとカグノは代わる代わるに、
「この石はもともと一つだったの」
「でも、ある時二つに割れちゃったの」
「だから中にいる石花も二つに引き裂かれた」
「だから一つに戻りたいって言ってる」
と口にする。店主はやれやれと肩をすくめた。
「って言ってもなあ、これはうちの商品なんだ。もう買い手もついているし、どうしてもほしいってんなら、その買い手より金を出してもらわないと」
「いくらなんですか?」
店主はトウカの耳元で値段を囁いた。それを聞くとぎょっとして目を丸くする。
もともとトウカはあやかしの世のお金は持っていない。ウツギから多少のお金は持たされているが、そんなお小遣いではとうてい買えない値段だった。おそらくウツギが聞いても「そんなもの買えるか」と一蹴する値段だ。
「言っただろう。石花が入っている石は特別美しい。それ相応の値段がつくってことだ。この石を狙う野蛮者もいるから、寝るときもそばにないと心配なくらいでね。もうずっと、朝昼晩と俺のそばに置いているほどだ」
「あなたたちそんなお金は――、持ってないんだよね」
少女たちはぷくりと頬を膨らませた。
「――ケチ」
ヨシノがそう言うと、ぼんっと音とともに彼女の周りに煙が立ってその姿が見えなくなった。
「あ、待ってよヨシノ!」
カグノも叫ぶと、同じように音と煙が立つ。煙が晴れた頃にはもう二人の姿はなかった。トウカが呆気にとられていると、店主はやれやれと店の中に入ってしまった。
(第四章 第3話「石花」 了)
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