第1話 夜長の市3
鎖の少女ヒサゴがいなくなってから、トウカは外に出ることが減った。帰り道の楽しみだったヒサゴとの時間がなくなり、どれだけ鳥居階段に通えども人の世へ帰る手がかりも見つからない。とても外に出る気にはなれなかった。
ウツギはそんなトウカのことを心配していたのだろう。おそらく、こうして街に連れ出してくれたのもトウカの気を紛らわせるためだ。その証拠に、今もトウカが気になった店に立ち寄るぐらいで、自分からどこかの店に入ろうとはしなかった。
嫌われているのか、好かれているのか、よく分からない。
――でも多分、今は心配してくれているんだ。私、気を遣わせてばっかりだな。
ため息をついたとき、串焼きを二本手にしたウツギが帰ってきた。ほら、と一本を渡されると香ばしい肉とタレの香りが鼻をくすぐって、トウカの腹の音が鳴った。あ、とトウカが言うと、ウツギは吹き出す。トウカの頬が提灯のように赤く染まった。
「そんなに腹が減っているなら、二本とも食うか?」
「一本でじゅうぶんだよ」
いただきます、と投げやりになって串焼きにかぶりついた。肉は熱くてはふっと白い息がもれる。柔らかくてタレの味が濃い。
ウツギも串焼きをかじっていると、その香りに眠気が覚めたらしいポチが尻尾を振って彼の周りを駆け回った。そんなポチに肉をわけてあげるウツギをみながら、トウカは目を伏せた。
「ウツギ」
「うん?」
「あの、ありがとう」
ウツギは不思議そうにしてから、「ああ」とわずかに笑った。
(第四章 第1話「夜長の市」 了)
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