第3話 白い瞳2

「どうかされたか? ウツギ殿は留守だろうか?」

「――あ」


 動けないでいたトウカの頬をポチが舐めた。はっとして、あやかしの言葉に小さく頷く。声はやはり出なかった。


「なるほど。近くに来たから挨拶を、と思ったが残念だ」


 あやかしはそう言いながら、「おや」とトウカに顔を近づけた。とっさに後ろに手をついて身を引いたが、あやかしはトウカの目を興味深そうにのぞきこむ。


「不思議な瞳をしておいでで」


 トウカはとっさにうつむいた。それまではなんとか耐えていたのに、心を不安の雲が覆う。体が小刻みに震えだすのを止めることができなかった。必死に地面についた手で体を支えようとするが、その手すら震えるのだからどうしようもない。逃げ出したいのに、立ち上がることもできない。


 ――どうしよう。


 ぎゅっと強く目をつぶった。

 そんなとき、「トウカ」と静かな声がした。


「ああ、ウツギ殿。お帰りか」


 あやかしの声がしてトウカが顔をあげると、ウツギがいた。眉を寄せて歩み寄ってきたウツギは、青鈍色の羽織を脱ぐとトウカの肩にかける。


「大丈夫か?」


 トウカがわずかに頷くと、


「マガミ、せっかく来てもらったところ悪いが、こいつの具合が悪いらしい。すまないが、今日は相手ができそうにない」


 とあやかしに向かって言った。


「そうか、それもそうだな。女子おなごよ、なにか気に障ることを言ってしまったなら申し訳ない。では、今日のところは失礼しよう」


 あやかしは慇懃な態度で会釈をして去っていった。

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