43.試練④
「ありゃ〝クリスタルゴーレム〟だな」
美しい宝石の輝きを放つ、その大きな人形を見てパメラが言った。
「用意しただけあって、さすがに特殊体だろうけどよ」
「強いの?」
「特殊体だろうが大した敵じゃねーよ。まーちゃちゃっとぶっ壊してくる。お前はここを動くなよ」
「気をつけてね」
「はっ、楽勝だっての」
これまでのパメラの戦闘を見るかぎり止める理由なんて見当たらなかった。
「〝
彼女は左手で大剣を出現させると、一直線に魔法陣の上で佇むゴーレムに向かっていく。相手はまだこちらを敵と認識してないみたいだった。パメラが猛然と突っこんできてるのに、なんの反応も示さない。
沈黙したままのゴーレム。
さらに加速するパメラ。
大剣の刃先が届く距離まで近づいたところで、後者は地面を蹴って高く飛び上がった。
――タタタ、シュタッ!
動きに、淀みはない。
そのままゴーレムの胴体を薙ぎ倒すように、比類なき一撃が放たれていく。
「砕けやがれ!」
剣戟の一閃を見て、私はパメラの勝利を確信する。
もう決着。ほんとに楽勝だったね。
直後、大剣はゴーレムを見事一刀両断に――
――ガギイ”ィィ~~~ンッ!!
一刀両断に――できなかった。
「なっ!?」
驚いたパメラが声を上げる。同時、光彩に振るった大剣を弾かれ、その反動で体勢を崩す彼女。方向転換できない空中でバランスを失い、ほんの一瞬だけ隙が生まれる。
結果、それが悲劇に繋がった。
「あっ!」
完全に死角になった頭上からだった。ゴーレムの大きなこぶしが斜めに打ち下ろされていく。パメラも気配を感じ取ったのか咄嗟に大剣を使って防ごうとする。だけど、ガードは間に合わなかった。
――ドガッ!!
パメラは地面に激しく叩きつけられると、さらに間髪を容れず放たれたゴーレムの蹴りをまともにくらった。
直後、後方に吹き飛ばされ、派手に地面を転がっていく。距離にして約二十フィーメル。その小さな身体は観戦してた私の近くまで蹴り飛ばされて、ようやく止まった。
勝利目前から急遽劣勢へ。すべては一瞬の出来事だった。
「パメラ!?」
青ざめる中、私は彼女の下に駆け寄った。呼びかけるも反応はない。こめかみから血を流して、パメラはぐったりとしてた。
「こ、呼吸は……!」
幸い、ちゃんと息はあった。ただ一時的に気絶してるだけみたい。
「よかったぁー!」
でも、だからといって安心できる状況じゃないことをすぐに思い出す。
――ドォンッ。
――ドォンッ。
「………………」
わずかな揺れを感じて顔を上げると、大きな一歩を踏み出してゴーレムがこっちに向かってきていた。完全に私たちを敵と認識したらしい。
「ひっ!? に、逃げないと!!」
すぐにパメラを抱きかかえるようにして持ち上げると、反転、私は入口の扉に向かって駆け出した。
急げ、急げ!
持ち主が意識を失ってるせいか、光の大剣は見当たらない。もしかしたらゴーレムの傍に落ちてるのかもしれないけど、今は探してる余裕なんてなかった。
転ばないように慎重にそれでもなるべく急いで入口にたどり着くと、一度パメラを地面に寝かせてから、私は鉄扉に向かって威力抑え目のモグラクローを放った。
ボコッという音とともに、人が通れるほどの穴が開く。そこで再びパメラを持ち上げると、私は急いで扉の向こう側へ飛びこんだ。
「た、助かったぁ~!」
少しだけ通路を奥に進んでからパメラを下ろし、私はその場でへたりこむ。
「ううっ、心臓まだバクバクいってる……マ、マジで怖かった……」
でも、ここまでくればもう安心。
基本モンスターはエリア外の階層までは追ってこないし、階段なんかは完全な安全圏だ。てか、ここはこの通路自体が三十二階層と三十三階層を繋ぐ階段部分みたいなもんだし、あのゴーレムだってもう追ってはこないだろう。第一、あの扉を壊して入ってくるなんてありえ――
――バゴオ”オ”オオォンッ!!
「ふぇっ!?」
油断してると、突然すさまじい轟音が鳴り響いた。そして次の瞬間、私の目の前で鉄扉が飴細工のようにひしゃげる。
「えええぇー、なんでええぇぇー!?」
――ギギッ、ギギイィ~!
そのままこじ開けるようにしてゴーレムは通路へと押し入ってきた。
やばい、どうしよう!?
すぐにパメラを抱き上げて、このまま階段まで下がるべきか。いや、それで追ってこられたら今度こそ逃げ場がなくなっちゃう。それにこいつ魔法陣から出てきたし、普通のモンスターとはちょっと違うのかも。ダンジョンの法則に縛られないなら三十二階層に上がってきてもおかしくないし、それならいっそこのまま通路に穴を開けて逃げ――
――ドォン!
「あっ」
なんて考えてたら、もうゴーレムは目前まで迫ってきてた。
そして、気づいた時にはもう遅い。回避はもう何をしたって不可能。私の頭上には、パメラを叩き落としたあの大きなこぶしがあった。
――ブンッ!
迫りくる、眩い輝き。
あれに押し潰されれば命はないだろう。そして私が殺られれば、その次は……。もう躊躇してる暇なんてなかった。
「ぐぬっ!」
元々、その発想はあった。
ゴーレム自体が、土や泥でできた人形だってのは知ってたから。
こいつはその亜種だけど、ガラスも取りこめたなら宝石や水晶だって同じはず。だからもし、モグラの爪で、こいつを
「モグラクロオオオォー!!」
次の瞬間、ゴーレムのこぶしと私の爪が、ぶつかり合う。
――ボコ”ンッ!
同時、私の視界を塞いでた煌めきが消えると、振り下ろした右腕の半分を失ったゴーレムは右膝をつくようにして重心を崩した。
よし、目論見どおり!
でも、まだだ。まだ終わりじゃないよ。
――シュタッ!
私はモグラモドキブーツで地面を強く蹴ると、弾むような動きでゴーレムの側面へと回りこむ。そして、今度はその右脚に狙いを定めて二撃目のモグラクローを打ち出す。
――ボコ”ンッ!!
殴るのではなく、爪で。
パンチではなく、クローで。
隻腕片足になったゴーレム相手に、私は手を――いや、爪を休めることなく怒涛の攻撃を繰り広げた。
――モグラクロー! モグラクロー! モグラクロー!
――ボコ”ンッ!! ボコ”ンッ!! ボコ”ンッ!!
戦法はただ一つ、滅多打ちだ。モグラの爪が振り下ろされるたび、ゴーレムの身体はどんどん小さくなっていった。
「モグラクロー、モグラクロー! はぁ、はぁ……」
気づけばもう相手に反撃する手段は残されてなかった。四肢を失い、胴体を失い、やがて頭だけになったそれを見下ろしながら、私は最後の一撃を加える。
「とどめだー!!」
――ボコ”ンッ!!
振り返れば電光石火の勝利。ゴーレムは跡形もなく消滅した。
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