33.イメージ

「モグラリリース! モグラリリース! モグラリリース!」


 穴を塞ぐ作業と並行に、新たなる能力モグラリリースについて重点的に調査を進めた結果、さらに色々とわかってきた。

 まず一度に放出できる量は、大きさにして『一フィーメル×一フィーメル×一フィーメル』のブロックが限界であること。

 ちょうど『モグラクロー一発分』で掘れる量と同じだ。

 それ以上の大きさのブロックを一度に出現させることはどう力んでも無理だった。

 それでも、放出に関しても割と連射が利く。ブロックとして保つことを考えなければ、爪の先からドバドバと土を放出して穴に流していくなんて芸当もできた。

 次に、出現させたブロックの固定化についてだけど、これは床面に限らず壁や天井でも問題なしだった。爪が届く範囲なら、上下左右関係なく直接設置することができるって感じ。床からブロックを積んでいかないと、最初のときのように落下して崩れちゃうかもと予想してた分これはちょっと嬉しい誤算だった。

 ただ、さすがに何もない空中や、モグラの爪で掘ってない場所(スキルの干渉を受けていない表面)にブロックを固定化するのは無理だったけど。

 便利だけど、必ずしも万能じゃない。

 それを含めて大体の法則がわかったので大満足。

 掘った地下通路を半分以上埋めると、私は一旦休憩のため地上に戻った。


「エミカ様、よろしければこれで洗浄を」


 革の水筒に入れてきた紅茶をグビグビ飲んでると、ティシャさんが隣にやってきて魔術で水を出してくれた。そこで今さらながら彼女の両手の甲にある〝魔術印〟に気づく。

 おー、すごい! 冒険者でもないのに水の魔術が使えるんだ。さすがはお城で働くメイドさんだよ。


「ありがとー」


 実際爪で直接掘ってるわけでもないから汚れてはないけど、せっかくなので使わせてもらう。両手を洗い、ついでにバシャバシャと顔も洗う。さっぱりしたところでティシャさんはハンドタオルも差し出してくれた。タイミングも完璧だし、ほんと気が利いてる。

 いいな、メイドさん。我が家にもいてくれたらなぁ……。


「エミカ様、どうかなさいましたか?」

「あっ……な、なんでもないです!」


 邪な気持ちがだだ漏れだったっぽい。

 てか、ダメだよね。人を物のように見ちゃ。ごめんなさい、と心の中で深く謝罪。そんな感じで反省を挟みつつ休憩を終えた。


「さてと」


 調査を続ける前に、ここまでの成果を反芻しておこう。


 ①地下で短縮できる距離が増えた。

 ②掘った物は放出できる。また、条件を満たせば放出物の設置が可能。


 うん。現状でも十分な成果だ。でも、レベルが上昇して能力が上がってるなら、他にも向上してる部分がまだあるかも。

 あとこれはモグラリリースを使ってわかったことだけど、イメージはかなり大事っぽい。強力な魔術ほど強いイメージが必要になるって聞いたことあるし、これはスキル全般に通じる話なんだろうね。

 なので次はその点を考慮してみて、モグラクローの威力――ずばり、一度に掘れる最大量についての調査をしてみようと思う。

 私は地下道に戻ると、階段掘りをしてそこからさらに深い場所へと下りた。


「イメージ、イメージするんだ……」


 通常よりも大きく穴を掘る意識。心を研ぎ澄ませながら、ゆっくりと息を吐く。


「よっし!」


 準備完了。

 目の前の土壁に向かい、イメージをこめたモグラクローを放つ。

 ――ボゴオォン!

 次の瞬間、通常とは違う音に驚いて顔を上げると、イメージどおりに大きく壁が抉れていた。


「おおっ、できたー!!」


 穴を観察してみると、高さと横幅だけじゃなく、奥行きも通常より深くなってた。目算だけどこれまでのモグラクローに比べると、『縦・横・奥』がそれぞれ三倍ぐらいになってる感じ。

 従来が『1×1×1』だから、『3×3×3』だね。つまり『高さ三フィーメル・横幅三フィーメル・奥行き三フィーメル』の穴が一発で掘れたことになる。今までのモグラクロー換算ならなんと二十七発分の威力だ。


「よし、次は全力でいくぞ!」


 今開けた『3×3×3』の穴に入って、さらなる検証を続ける。


「おりゃあああぁー!」


 目の前の土壁をダンジョンの外層だと思いこんで、今度は全身全霊のモグラクローを繰り出す。

 ――ボッゴオオオオォォン!!

 結果、壁の先には巨大な地下空間が生まれた。


「うわ、深い……」


 空洞の中に顔を出して覗くと、底は二フィーメル以上下にあった。


「よっと」


 怪我をしないよう慎重に下りつつ空洞の大きさを調べる。

 うーん……また目算だけど『5×5×5』ぐらいの広さはあるっぽい。となると通常のモグラクロー換算で百二十五発分か。いや百二十五って……ここまでいっちゃうと、なんかもう言葉の響き的にもヤバい感じがするよ。

 とりあえず掘れる量を飛躍的に増やせることもわかったので、さっそく能力の命名に移る。

 今までの通常モグラクローを(弱)として、威力が上がる順にモグラクロー(中)、モグラクロー(強)と命名しておこう。

 ま、別に叫びながら技を放つわけじゃないし、必要ないっちゃないんだけどさ、なんか技名つけて区別したほうがイメージしやすいんだよね。だから、それを考えるとけっこう重要かもだ。

 モグラリリースでドバドバと地下空間を完全に埋めたあとで、私は再度地上に帰還。ティシャさんがまた水を出してくれたので同じように手と顔を洗う。


「どのような試みかは存じませんが、案配はいかがでしょう?」

「うーん、ひとまず今の私にできることは大体わかった感じです。だから、そろそろ本格的な作業に入ろうかと」

「もしお疲れになられましたら仰って下さい。そちらの魔術の嗜みもありますので」

「え、ティシャさん回復魔術も使えるんですか!? すごいですねー!」

「いえ、エミカ様に比べましたら私の技術など初歩の初歩でしょう。正直、これほどまでに強力な土の魔術は生まれて初めて見ました」

「……強力?」


 ふと、その称賛に疑問符が浮かぶ。

 たしかにダンジョンの外層を破壊するモグラの爪の力はすごいと思うけど、普通の土の魔術だって使い手によってはすごいことができるんじゃないの? たとえば巨大な土壁を出したり、大きな落とし穴を作ったり、あるいは忠実に働く土の人形を造ったり。


「とんでもありません」


 と、そんな感じの疑問を口にしたら、きっぱりと否定されてしまった。


「ご存知だと思いますが、同じ人類でも異種間では得意な魔術属性と不得意な魔術属性が存在します。エミカ様ほどの土の魔術の使い手は、世界を余すところなく探したとしてもまず見つからないことでしょう」

「えっ……」


 知らなかった。

 どうやらティシャさんの話を聞く限り、私たちみたいなノーマル人種だと火や光の属性、エルフ族だと風の属性、人魚族なら水の属性、獣人族だと身体強化を中心とした無の属性などなど、それぞれ得意分野も違ってくるそうだ。そして、その上で土の属性を持つ人類は非常に稀らしい。


「でも、ドワーフなんかは土属性なんじゃ……?」

「彼らは強力な魔術を扱えるほど、魔力に長けた種族ではありませんので」

「な、なるほど……」


 それじゃ、やっぱこの力は人類全体で見ても珍しいもので、希少価値が高いわけか。おー、なんかちょっと自信でてきたかも。


「よっし、いっちょがんばるぞー!」


 地図スコープを下ろして公園の大きさを確認する。今度はしっかり計画を立てて、穴を掘っていこう。


「あ、ティシャさん。終わるまで少し時間がかかると思うので、先にお城に帰っちゃって下さい」

「お気遣い感謝いたします。しかし、大事なお客様を一人にするわけにはいきません。それに、本心を言いますと、私も少し興味がございます」

「興味?」

「はい。なのでもしご迷惑でなければですが、どうかエミカ様の魔術を間近で見学させていただきたく」


 んー。穴を掘るだけだし、別に見てて面白いもんじゃないと思うけどなぁ。ま、私のためにわざわざ時間を割いてここにいてくれてるわけだし、無下にもできないか。


「かまわないですよー」

「わがままを聞いて下さりありがとうございます」


 そんなこんなでティシャさんと一緒に地下に潜って、私は本格的な作業に取りかかった。

 爪の能力が向上した分、計画もはかどりお昼前にはテスト用の施設が完成。すぐにギルドに出向いて、多忙のベルファストさんを急遽公園まで呼び出した。


「なっ!? なんだこれは!!」


 文句を言いながらついてきた王都のギルド会長様は、公園の地下に広がる空間を見るなり驚きの声を荒らげる。

 直線にして約五十フィーメルほどの地下通路。モグラクロー(大)で掘り進めたので横幅も高さも十分。

 これなら大きな馬車だろうと問題なく通れるはずだった。


「これが、お前さんの言ってたか……?」

「はい。こうやって地下に道路を張りめぐらせれば、王都の交通問題を解消できるんじゃないかと思って、試しに造ってみました」

「張り巡らせるって、これを王都の地下全体にか? そんなこと不可能だろ!?」


 初めは否定的な見解のベルファストさんだったけど、この地下空間を造るのにかかった所要時間と、地上ではこの距離が四倍に膨れることを説明すると、計画について真剣に考えてくれた。


「大規模地下交通網の建設か……。たしかに二つの問題を同時に解決する良案だが、流通基盤の話となれば俺の管轄外だ。しかし、国家運輸局に勤める役人になら知り合いがいる。この件はそいつに相談してみることにしよう」

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