14.爪の法則
私の、これから――
夜、今の自分にできることを考えてみた。
両手を、見つめながらに。
まず、一撃でコカトリスを倒し、一瞬で階層地面に大穴を開けたという二つの事実。
モグラの爪に秘められた力。
それはひょっとして、ものすごいものなのではなかろうか?
『――決して無茶はしないように』
ふと、ユイの忠告が頭を過ぎる。
それでも、将来のことを考えればこの力を詳しく調べるべきだと思った。この爪との付き合いは永くなる。なぜか私の中にはもう、そんな確信に近い予感すら芽生えはじめていたから。
「さてと」
コロナさんをおもてなしした翌日、さっそく私は一人検証をはじめた。
場所はおなじみダンジョン地下一階。
黄金のモッコモコーを捕まえたとき(実際は捕まえてないけど)の感触を思い出しながら、私は両手で横穴を掘ろうと試みる。
モグラの爪で壁を削る――というよりは、軽く壁を殴るイメージ。
――バコォ!
結果は、実にあっさりと、綺麗に穴が開いた。
「おー!」
出現した空間は前回のものと同じく、縦・横・奥行きがそれぞれ一フィーメルほどで、綺麗な四角の形をしていた。
「中に入るには、ちょっと狭いか……。よし、それなら!」
四角い二つの穴を、上下に繋げるイメージ。
続いて、私は壁の上部を殴った。
次の瞬間、そこは縦幅二フィーメルほどの空間に広がって、狙いどおり、人が立って入れるほどの窪みになった。
「うわっ! すごいよ、これ!!」
奥に進むと、さらに上下の二箇所を殴る。
また奥へと進み、上下を殴る。
それを繰り返すことで、いとも簡単に通路を伸ばすことができた。
「シャベルで掘るよりも断然速い!!」
そのまま調子に乗って、通路の先で巨大な広間を作って遊んでると、迷いこんでやってきた初心者っぽい冒険者にびっくりされた。
「うぉ、なんだここ!?」
「あ、ごめんなさい。穴掘り中です……」
まずいまずい。
自重自重。
んで、そこから調査を二日ほど続けて色々ためしてみたけど、わかったことは大体こんな感じだった。
①掘った土や岩はどこかに消える。
②魔石クズや鉱石も消えてるっぽい。
③モグラの爪で掘った部分も、ダンジョンの〝状態回復作用〟が働く。
④掘り立ての内壁は、まるで時間が止まったように地層が固められている。
①と②については、暗黒土竜が取りこんでるんじゃないかと仮説を立ててみたけど、証明しようもないのでその点については保留。魔石クズや貴重な鉱石だけを消さずに回収できれば、ものすごい効率で稼げるはずなのでこの点はほんとに残念だ。
③については、どれだけ大きな空間を作っても一日経てば元に戻った。この点は通常の穴掘りとルールは変わらない。
④については、一粒さえ土が落ちてこないので驚いた。穴掘り中、崩落の危険性を考えないで済むというのはマジでありがたい。
と、ある程度のことを調べ終えた私は、いよいよ本題に臨むことにした。それはズバリ、ダンジョンの外層についてだ。
モッコモコーがドロップした金塊を入手する際、足元にあった亀裂。検証をはじめてからというもの、それがずっと頭の中で引っかかっていた。
ダンジョンは、神様が創った構造物だと信じられている。
はるか太古に建造されたもので、その外観が変わることはない。
破壊されることなく、朽ちることもなく、ただ、永久にあり続ける。
それが、この世界の
「………………」
だけど、もしかしたらこの爪は、神様が創ったそんな
「なんか、ドキドキしてきた……」
上下二段の掘削方式で、さくっとダンジョンの行き止まりである外層にたどり着いた私は、深呼吸で一度気持ちを沈めた。
「すー、はー……すー、はー……。よっし、やるぞ!!」
たぶん、普通に横穴を作る程度の力じゃダメだ。私は気合を入れて、全身全霊でこぶしに力をこめた。
「おりゃあああぁー!!」
――ブオ”ォン。
次の瞬間、狭い穴の中で響いたのは、不気味な異音。音にびっくりして顔を上げると、目の前には茶色い地層があった。
「え? あ、これって、ダンジョンの外の土……!?」
赤黒い壁――外層が、
「で、できたー!!」
外層の断面を見てみると、厚さは本の背表紙ほどしかなく、信じられないほどに薄かった。これで地上部分の塔が自壊せずに建ってるってのもすごい話だ。
もしかして、この断面見た人って、世界で私が初めてなんじゃ? あ、てかその前に、そもそもこれって、壊していいものだったのかな?
「ははっ。ま、深くは考えないでおこう……」
そのあとも数日かけて調査を続けたけど、外層にも前述した①~④の条件がすべて当てはまった。
爪で破壊した瞬間に外層はどこかに消え、その後、状態回復作用によって一日ほどで復元されるといった感じ。
あと追加の実験で、新しく判明したこともある。
破壊した場所につるはしを突き立てて置いて一日経ってから戻ってみたところ、つるはしの先端が刺さった状態のまま復元していた。
試しにそのつるはしを外層から引き抜いてみると、刺さっていた場所に残った小さな穴は、状態回復作用によって速やかに塞がった。つまりこれは、外層を破壊したあと、そこに何か物を置いておけば壁の修復を防げるってことだ。
てかヤバい、なんか私どんどんモグラの爪について詳しくなってる。ま、ただこの力が具体的に何に使えるのかっていう肝心な部分は、まだ何も思いついちゃいないんだけど……。
「ん? あ、そうだ! 地面を掘って一気に階層を降りちゃうってのは!?」
いや、ダメだ。どこに落ちるかもわからん。
それに無事に下りられたとしてそれがなんになる?
モンスターの餌食になるだけだ。
「うー、なんか良い活用の方法ないかなぁ……」
こうなったらユイに相談を――って、いや、それこそ絶対にダメだ。
今回はすでに釘を刺されてる。アドバイスを求めても反対されるのは目に見えてるし、とても頼れる状況じゃないや。
――グゥ~!
「あ、もうお昼の時間か……」
ダメだ。おなかが減ってたら妙案なんて浮かぶはずもない。
というわけで、私は昼食を取るためダンジョンを後にした。
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