10.封印されし暗黒土竜


「良いニュースと悪いニュース、どっちから先に聞きたい?」


 依頼を受けた翌日、私は勧められたとおり朝一でギルドに向かった。もちろん、何よりも頼りになるのは黒髪の幼なじみだ。

 というわけで、ユイに昨日のできごとを粗方話した上、彼女にもろもろを調べてもらっていた。


「良いほうでお願いします、先生!」

「そうやって問題を先送りにするタイプだから、家賃も滞納するのよ」

「す、すみましぇん……」


 良いニュースというのはコカトリスからドロップしたアイテムの件だった。正式名称は〝凶鳥の羽根〟というらしい。


「高い魔力が秘められていて、調合薬や防具などの素材になるわ。この大きさだったら三十万以上の価値がつくはずよ」

「三十万――!?」


 手っ取り早く現金にしておきたかったのと、私自身にその手の商人のコネがなかったこともあり、ギルドに直接買い上げてもらう方向で頼んだ。コロナさんの依頼報酬と合わせれば、これで滞納した家賃の七割は確保した計算になる。


「さて、次は悪いニュースね」

「帰ってもいい?」

「あなたがそれでいいなら、別にいいわよ。あとでどうなっても知らないけど」

「うぅ……」


 悪いニュースというのは……ま、当然、私の両手の件だった。


「武器に防具、あらゆるアイテム鑑定のスキルを使ったけど、結果は全部鑑定不能アンノウンだったわ」

「呪われてるから鑑定もできないとかじゃなくて?」

「カースアイテムでも鑑定は可能よ。その場合、正式名称の頭に、〝呪われた〟とか〝呪いの〟って言葉がつく。たとえば、〝呪われたモグラの爪〟とかね」

「ほえー」

「だから、この爪はアイテムではない――という仮定で話を進めるべきだと思う」

「でも、アイテムじゃなかったらなんなのさ?」

「それを確かめるには、またあなたの身体を解析する必要があるわね」

「えー、昨日今日で、そんな大して変わらないと思うけどなぁ……」


 とりあえず、また生物解析アナライズで基本能力値を測ることになった。それに加えて、今回はさらにスキルチェックも行なうとのこと。

 まずわかりやすいように、ユイが前回使った用紙に追加する形で、私の現在の基本能力値の念写ソートグラフィーをはじめた。

 ま、でも昨日はあれだけの冒険をしたんだ。少しは上がってくれてるとうれしいなぁ、とかなんとか思ってたら、結果はすぐに出た。




―――――――――――――――――――――――――

※分析結果(一昨日のもの)


 腕力 :F(15)

 体力 :F(10)

 魔力 :F( 3)

 気力 :A(97)

 知性 :E(20)

 俊敏性:F(18)

 幸運 :D(49)


     ↑これが




         ↓こうなった


 腕力 :F  ⇒S(115)△UP  変動100

 体力 :F  ⇒F( 10)

 魔力 :F  ⇒F(  3)

 気力 :A  ⇒A( 99)△UP  変動2

 知性 :E  ⇒F( 19)▼DOWN 変動1

 俊敏性:F  ⇒F( 18)

 幸運 :D  ⇒G( -1)▼DOWN 変動50


―――――――――――――――――――――――――




「は?」

「……」

「な、何これっ!?」

「エミカ、まずは落ち着いて。冷静になりましょう……」

「私の知性Fに下がっちゃってる!」

「一番最初に驚くとこがそこなの!?」

「え?」


 あ、ほんとだ。

 よく見たら、幸運もめちゃくちゃ下がってた。いや、マイナスって!?

 それに比べて腕力は、異常なほど上がっちょる。

 えっと、ひーふーみーで、Fが四個だね。んで、S・A・Gが一個ずつ、か。なんだ、この気持ち悪いステータス……。


「気力と知性の変動は微差だから、ごく自然的なものでしょうね。だけど、腕力の上昇と幸運の減少はあきらかに違う。何かしらの外的要因を受けたものと考えるべきだわ……」


 続いてスキルチェックの結果をユイは書き出してくれた。




―――――――――――――――――――――――――

※保有スキル


 ・穴掘りディッグ<Lv.∞>

 ・鉱石鑑定アナライズ・オーレ<Lv.2>

 ・投石スロー・ストーン<Lv.1>

 ・料理クッキング<Lv.1>

 ・禁魔法ドグラ・モグラ<Lv.1>


―――――――――――――――――――――――――




「禁魔法なんて、いつのまに習得したの!?」

「禁〝魔術〟ではなく、禁〝魔法〟ってのも問題よね……。しかも、穴掘りレベルも意味のわからないことになっているし」

「これも、この爪を装備した影響なのかな?」

「でしょうね。でもそれ、さっきも言ったけど、アイテムではなく……」


 これまでの分析の結果から、すでにユイは一つの結論にたどり着いていた。


「もう一度、解析系のスキルを使えば、はっきりすると思う。エミカ、ちょっとまた両腕を前に出してくれるかしら」

「ん、これでいい?」


 指示を受けてモグラの爪を広げると、ユイは予告したとおり解析のスキルを使った。なんでも、モンスターをより細かく調べる際に使うものらしい。

 え、モンスター……?




―――――――――――――――――――――――――

※分析結果(対象:エミカ・キングモールの両手)


 個体識別名:封印されし暗黒土竜

 形態   :唯一体

 属性   :土


 能力値  :すべて不明(算出不可)


 使役条件 :基礎気力95以上

       穴掘りスキルLv.7以上


―――――――――――――――――――――――――




「やっぱり……」

「あ、暗黒土竜……?」

「エミカ、これから私の結論を言うわ。ちょっと長くなるけど、聞いて」

「うん」

「通常、能力付与効果のある武器や防具を装備した人物を生物解析アナライズしても、基本能力値やスキルレベルの変動が数値として表れることはない。だけど、変身魔術でモンスターに化けた人物を生物解析アナライズした場合、その基本能力値やスキルは変化したモンスターに準じて変動するの。これら二つの法則的条件を踏まえて考えると……エミカ、あなたの能力の異常変化は、あなたと同調しているために起こっているものだと推測できるわ」

「ど、同調……?」


 うー、まどろっこしくてわかりにくいなぁ。

 こちらから顔を背けて、なんだかとっても暗い顔をしてるユイに、私はより簡潔な説明を求めた。すると、今度は一切の遠慮なく、幼なじみは明け透けに言い放った。


「あなたの手、なんかわけわかんないモンスターに寄生されてる」

「………………」


 え?

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