第14話 時間整備局は出し抜かれない


 つまり、時間管理部更新世ベース基地への直接のテロは絶対に無理。

 次は、ハッキングだけど、それも無理じゃないかなぁ。


「時間整備局」では、外部ネットにも繋がるオープンのシステムと、完全に閉鎖された独立システムと二重に構築されている。更新世ベース基地の特大規模のデータベースサーバーと、それに繋がる端末は独立システムの方だ。

 ここにアクセスするのは極めて難しいというか、そもそも物理的に無理。電源以外のどんな線も外部と繋がっていないし、無線LAN機能も取り外されている。


 時間跳躍のネットワークラインもあるけど、コレは線で繋がっていないという意味では無線だけど、原理的に傍受すらも絶対に無理。僕もよくわかっていないけれど、情報を時を超えて運ぶには、電気的二進法のデータでは不可能らしい。なので、リアルタイムで相変化情報物質をやり取りしている。

 この物質は脆く、情報読みとりでレーザをを当てると、そのまま初期化されてしまう。つまり、傍受イコールこの物質の喪失もしくは損壊なので、絶対にわかるそうだ。


 そして、端末自体は仕事に使うために僕たちの事務室にもあるけど、昼間は衆人環視状態だし、夜間と休日は普通に防犯監視カメラでモニターされている。

 しれっと事務所に置かれていて、どこかの個室に閉じ込められてはいないけれど、この方が安全なんだよ。

 でもって、来客は普通に事務所に入ってきているけど、たくさんある端末のうち、どれが時間跳躍のネットワークライン専用端末なのかもわからないだろう。


 で、夜は夜で、時間整備局の建物自体からして21時には防犯システムの立ち上げがあるから、まず入ることはできない。まぁ残業に次ぐ残業で、実質的に24時間営業状態だから、常に誰かしらがいる。つまり、一番アナログかつ確実な、人の目が切れること自体が少ない。

 ま、通りかかりの住民から、「電気代がもったいない。それも税金だ」なんて苦情もくるけど、仕方ないじゃん。暗闇じゃ仕事できないんだから。

 また、運良く職員全員が21時までに帰っていたとしても、窓ガラスなんか割って入ろうもんなら、即時に防犯システムが反応して大騒ぎだ。


 まぁ、僕は経験ないけど、職員が忘れ物をして防犯システムを中断して中に入ろうなんて時は、解錠して30秒以内にパスコードを入力して、場合によれば遠隔警備の人からの誰何に答えて、って手順を踏む必要がある。そこでしくじると、すぐに警察の人たちと警備の人たちが駆けつけてくる。


 とはいえ、普通はこんな面倒なことはしない。

 常に誰かが残業しているわけだから、その誰かに電話を掛けて、内側から開けてもらえば済む話なんだ。外から入るのは難しいけど、中から出るのはフリーだからね。だから、中から扉を開けてもらって入るのであれば、ややこしいことはなにもない。


 ま、お話の上でなら、変装すればとか、中に入る職員を脅してなんて案も出るだろうけど、実際には難しい。こういう時、小さい組織は強いよ。家族的アットホームなんてキレイゴトは言わないけれど、いつもと違う態度だとすぐにわかっちゃうし、その上で「どの端末が……」なんて話になったら、すぐに対応できちゃうからね。


 こういうのって、珍しくもない防犯システムだけど、抜くのは案外難しいんじゃないだろうか。



 それに問題の本質は、これだけじゃないんだ。

 僕たち公務員の事務所って、案外複雑なんだよ。

 ちなみに、ウチじゃないけど、見せしめ的に事務所全員が人事異動の対象になるなんて乱暴なことも、公務員職場ではたまにあることだ。

 僕もね、つくづくと愚痴られたことがあるんだよ。そういう目にあった別組織の同期からね。


 こうなるとね、もう仕事以前に生活ができないそうだ。

 ゴミの捨場がわからない。

 給湯器の使い方も、空調の使い方もわからない。

 朝来て解錠方法がわからず、帰るときには施錠の方法がわからない。防犯システムと連動しているから、鍵を回せば終わりじゃないからだ。

 仕事の端末は各机の上にあるからまだいいとして、そのデータサーバーがどこにあるかわからない。

 仕事の引継書から落ちちゃいがちなんだよ、当たり前すぎる情報は。


 文房具の在庫がわからず、ようやく見つけても管理簿が見つからない。

 今となっては少ないけど、紙ベースの仕事も皆無ではないから、切手が見つからないなんてのも地味に痛い。

 で、極め付きは公印は二重に施錠された金庫に入っているというのに、二重の片方の解錠方法がわからない。事務長が毎朝自分で解錠していて、防犯のために文書にもその方法を残していなくて、その事務長の異動先が遠隔地。

 3日後に事務引継で来てもらうまで、仕事は全てストップ。

 もう目も当てられなかったんだとさ。


 正規職員ですら情報がなければこの状態になっちゃうというのに、どっかの大泥棒の三代目だって、事前調査無しで初めてのオフィスに忍び込んで、目的のものを発見して盗むのはほぼ無理だと思うな。


 つまり、ずいぶんと遠回りな説明だったけど、要するにハッキング以前の問題が多すぎて、部外者がサーバー端末機の前に座るだけのことすら、かなり難しいことなんだ。



 ここまで是田と話して、結局、生宝氏がなにを考えているのかがさっぱり推測できなかった。「ギブアップが結論?」ってことになっちゃうけど、もう、それしか結論が出せなかった。

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