実は学校一の美少女と幼馴染です
シュンジュウ
第1章 美少女と幼馴染
第1話 幼馴染と二人の時間
「なあ、
席に座って談笑していた俺、
「いきなりどうしたんだ?」
颯心が優しい口調で尋ねる。
「ラブコメ鈍感主人公はみんなみんな顔じゃない、内面が好きだとかほざいていやがる。
だが、おかしくないか? だって結局どこの主人公も相手は美少女じゃないか!?
何が顔じゃないだ!!! 苦し紛れの言い訳はやめろ! 絶対顔だろぉが、ラブコメ漫画の主人公どもが!!
その癖、主人公は大抵イケメンじゃないのに美少女から好かれるんだぜ? おかしいよな?
現実をみろ、現実を!! 顔が悪くても美少女から好かれるかもなんて夢見てんだろ?
あーあ、可哀想に!! そもそも世の中顔じゃないって思ってるやつが、美少女に好かれたいって思う時点で矛盾してんだ!
どうして、主人公は皆イケメンでもない陰キャの癖に、ハイスペックでモテモテとか! 女は男のスペックに引かれてんのかァ? あァん?
優しさに引かれた? 本気で優しさに引かれるとでも思ってんのか?
見てみろ俺の友、光の有り様を。クラスの女子が選ぶ、ずっと友達でいたい男子ランキング堂々の一位だぞ、一位!!」
「すごいなそれ。喜ぶべきか悲しむべきか分からないランキングだな。ははっ……」
颯心が爽やかに微笑む。
「笑うなよ、結構傷つく」
「ごめんごめん」
イケメンで爽やかな笑みだろうと笑われれば傷つくものは傷つく。
「こんなにも人に優しい光が恋人は愚か、友達以上恋人未満の領域に入ることもなく、イコール友達止まりだぞ?
結局優しさなんかで人は選ばないってこった!
あーやだやだ、胡散臭いラブコメ主人公どもが!! 皆さん聞いてくださーい、優しくてもモテませーん。イケメンじゃなくてもモテるかもなんて思っている人、すみませーん、希望は捨ててください。
結局イケメンじゃなきゃモテませんってよ、はっはっは…………このラブコメのクソ野郎ーーー!!!」
「何で今日こんな情緒不安定なの?」
「なんか
「こいつもモテるかもなんて希望を抱いていたんだろうな……」
俺がそう言うと凌平が鬼の形相でこちらを睨み付けてきた。
「そもそも凌平、桜河さんと接点あったっけ?」
「ない…………一目惚れした」
「お前もやっぱり顔じゃねぇーか」
「はは……やっぱり桜河さんは高嶺の花なんだろうね……」
桜河心春。
入学当初からその美少女っぷりで人目を引いてきた。あどけない顔立ちだが上品な笑顔に、肩辺りまである透き通るような茶褐色の髪の毛。この少女はクラス一の美少女、人によっては学校一の美少女と称する生徒も少なからず存在している。
そんな素晴らしい容姿だけに留まらず、その真面目な性格から定期テストで毎回トップ10に入るほどの学力を持ち、周りからの推薦でクラスの学級委員長までも務めている。
一方で誰に対しても気さくに話しかける明るく優しい性格で、男女問わず学校の多くの生徒たちからの人望を勝ち得ている。
「はいはい、よく言うよ颯心くん。君だって女子からしたら高嶺の花のくせによォ! 全くイケメンは羨ましいぜ、本当に!!
学校中噂になってるぞ……お前も桜河さんのことが好きなんだろ!?」
凌平が強い口調のまま颯心に指を突きつけた。それに対して颯心は迷惑そうな顔をした。
「いや別に……何でそんな噂が立ってるの?」
「颯心が女子からの告白全部断るからじゃないか?」
「その通りだ、光。こいつはどの女子からの告白も断るんだ。羨ましいやつめ! お前に告白したことのない女子で、お前のお眼鏡に叶う女子はもう桜河さんしかいないって専らの噂だぞ! 学校一の美男美女カップルだって恋愛厨どもがキャーキャー騒ぎ立ててやがるんだ。
だが、俺は認めんぞ!! お前と桜河さんが付き合うような日が来たなら、その時はお前の首より下を地面に埋めてやる!」
「だから好きじゃないってば。可愛いのは認めるけどみんながみんな桜河さんに惚れるわけじゃないんだよ」
「俺もそう思う。俺も別に好きとかじゃないし……」
「それはダウト。光、授業中よく桜河さんのことチラチラ見てるでしょ? 俺知ってるぞ」
「おい、今の話は本当か?」
凌平がどす黒い声で俺にギラリと鋭い視線を向けた。
「いや見てないから! 凌平俺に殺意を向けるの止めて!」
「ん? 勘違い……確かに言われてみれば、光って色んな女子と仲良いけど、桜河さんとは全く喋ってるところ見たことないよね……」
「ああ、特に接点もないからな」
「不思議だよね、桜河さんはクラスのほとんどの人と会話をするのに、光とは真っ平話さない。なんか嫌われるようなことでもしたの?」
「してないよ。そもそも関わることがないんだってば」
「女子から恋愛の対象扱いもされず、美少女からも嫌われる…………ふっ、可哀想な光。お前の気持ち、よく分かるぞ」
「
そう凌平に言ってから俺は席から立ち上がった。
桜河心春の周りには相変わらず数人の女子たちが集まっていて話をしていた。俺は無言でそのグループの横を通過する。その一瞬、桜河心春と目があった。だか、やはりそこに会話は生まれてこなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
授業が終わり帰宅した俺はベットにごろりと寝っ転がって、小説を広げていた。
プルルル。机に置いておいた携帯が振動する。俺はベットから起き上がって携帯電話を手に取る。
この時間に電話を掛けてくる相手は一人しかいない。きっとあいつだ。画面を見て、それを確信する。
桜河心春。画面にはその名前が浮かび上がっていた。その名前を見て思わず頬が緩んだ。
「もしもし」
『もしもし、ひかる? お久しぶり』
「お久しぶり? 何だそれ?」
俺はクスッと笑みを漏らす。
『だって、学校では一切話さないから。何だか久しぶりな気がして』
「でも毎日こうやって話してるだろ?」
『まあ、そうなんだけど、そうじゃないんだよ。分からないかなー?』
「全く分からない。それじゃあ学校でも話すか?」
『それはダメ。恥ずかしいよ』
入学当時、その頃から仲が良かった俺たちだったが、思春期の男女が、家が隣で今もまだ仲良しの幼馴染であるバレてしまえば根も葉もない噂を立てられるに決まってるし、注目を浴びるに違いない。それだけはお互いに避けたかった。何たって心春一人でも目立っているのに。
そんな気恥ずかしさから俺たちは幼馴染であることを隠すことに決めた。しかし、その取り決めのおかげで「隠す」ということを強く意識するようになり、学校では全く会話をしない方向へと捻れていってしまった。
『ねえ光、外出て来てよ。今日は凄く月が綺麗だよ?』
「あのな……それわざとやってんのか?」
『さあ? どっちでしょう?』
電話の奥で心春がふふっと笑った。
「あんまりからかうなよ」
ため息をついて電話を切った俺は、閉じきったカーテンを開けて、窓を開ける。ひゅーと九月にしては冷たい夜風が部屋に流れ込んできた。
窓の向こう側には既に窓を開けてこちらを見ていた心春の姿があった。
俺が姿を現すと微笑んで手を振ってくる。俺も控え目に手を振り返す。
学校では話さない。その代わりとして俺たちは毎晩こうやって互いの部屋から話をしている。今でも相変わらず仲の良い幼馴染だ。
「あっ、そういえば今日の昼休み、光たち絶対私たちのこと話してたよね? 凄いこっち見てたから。まさか私たちが幼馴染だってことバラしたんじゃ……」
「バラしてない。ただ凌平が心春にコクった話をしていただけだよ。断ったんだろ?」
「あー、その話ね。うん、丁重にお断りしました」
「凌平のやつ可哀想に。だいぶショックだったみたいだぞ。なんかすごく情緒不安定になってて、発狂してた」
「可哀想なんて言われても、そもそもまともに話したこともないからさ……なんで私のこと好きになったんだろ?」
「そんなの決まってるだろ……」
「えっ、なに?」
俺は言葉をつまらせた。喉元につまったその言葉を吐き出してしまうこともできた。躊躇ったものの勇気を振り絞って言ってみる。
「…………心春が可愛いからだろ……」
「えっ?」
顔が熱くなるのを感じた。俺は急いで言葉を付け加える。
「ほら、みんな言ってる。クラス中、学校中のみんなが。心春はこの学校一の美少女だ、って」
「ふーん…………」
心春は何かガッカリしたように声を漏らした。彼女の目は夜空を捉えているようだ。
しばらくの余韻を経て、心春が俺の方を振り向く。何か決意を固めたような目をしていた。
「ねえ」
心春の目は真っ直ぐ俺を捉えていた。
「光はどう思う?」
「どう思うって?」
「だ、だから、クラスの人とかじゃなくて光はどう思うかってこと!」
心春は恥ずかしそうな素振りを見せながらも語気を強める。
「いや……その…………」
心春がじっと俺の顔を見つめる。耳が熱くなっていくのを感じて、俺は顔を下に伏せて答えた。
「俺もその……可愛いと……思い……ます……よ?」
「そ、そう? ありがとう……」
俺たちは互いに顔を背けた。
「でも、結局は顔ってことか……なんかショックだなぁ……だってそれってこの顔なら中身は誰でもいいってことでしょ? モーツァルトでも信長でも」
「さすがに中身が信長だったら凌平でも惚れてないと思う。それで惚れるのはよっぽどのMだけだよ。
それに顔だけじゃなくてもきっと雰囲気とかも入るんじゃないか? 顔だけって訳じゃないんだよ、きっと」
「でも結局外見だよね。まあ、可愛いって言われるのは嬉しいんだけどさ……」
「たとえ外見だとしても、素晴らしいものを持っているなら、それで別に良いじゃないか? 俺なんて何もないぞ? 空っぽ、すっからかん」
「そんなことないよ! 光は優しいじゃない」
「みんなそう言うのな。まあでも仮に俺が優しいとしても、優しさは恋愛の起因にはならないらしい。
女子の裏投票の結果、ずっと友達でいたい男子ランキング、栄光の一位に輝いたようです。結局は友達止まり、恋愛対象外。そんな悲しい男ですよ、俺は」
「えぇー、かわいそー」
「可哀想とか言わないで。そう言われるのが一番惨め」
「ごめんごめん。そんなランキングあったんだね、知らなかった」
「一部の女子の間で作られたらしい……結局俺はみんなにとって都合の良い友達に過ぎないのかもな」
「そんなことはないと思うけどなー」
「じゃあ、もし本当に顔や優しさじゃないなら、人は一体なんで恋に落ちるんだろうね?」
「うーん、なんだろーね……」
うーんと腕を組んで考える心春。その顔をじっと見つめながらふと思う。
俺はいつ、なんで好きになったんだろう? 好きだという確かな実感を抱いたのはいつだったのか、思い出せない。そもそもそんな瞬間が訪れていたのか、それも分からない。
「心春はさ、彼氏作りたいとかは思わないの?」
考え込んでいた心春は組んでいた腕を崩して俺の方に振り返る。
「彼氏を作りたいかというより…………彼氏になって欲しい人ならいるよ?」
心春は顔を逸らして小さな声でそう呟いた。暗くてよく見えないが、月光が微かに照らす心春の横顔は心なしか赤みがかっているように見えた。
そのしぐさに俺はドキッとした。これは俺が自意識過剰なだけなのか?
「……へえ、そうなのか」
何とか声を絞り出してそう答えるのが精一杯だった。誰なのかと聞く勇気はなかった。
コンコン。
扉を叩く音が背後から鳴る。
「光、入るわよ?」
「まずい、母さんだ!」
俺は素早くカーテンを閉める。
ガチャリ。
扉がゆっくりと開いた。
「か、母さん、どうした?」
「下の机にこれ置きっぱなしだったわよ。宿題なんしょ? ちゃんとしまっておきなさい。」
「あ、ああ、ありがとう」
「ところで、何でそんなに窓際にいるの? 何か挙動もおかしいし……まさか、心春ちゃんの部屋を覗き見してたんじゃないでしょうね?」
「いや、覗きなんてしてないよ! そんな不名誉なこと二度と言わないで」
実際覗きをしてた訳じゃないけど、妙に勘が鋭いから困る。
「あら、そう。それはごめんなさいね」
そう言って母は部屋をあとにした。
「ふぅー」
母が部屋を出て俺は思わず安堵のため息を吐いた。そして、カーテンを開ける。
「危なかった」
「光、覗きはダメだよ?」
「いや、してないから! そういうことがないようにいつもカーテンを閉めてるんだろ?」
「焦りすぎだよ。それじゃ本当にやってるみたいだよ」
これは俺と心春で決めたルール。互いのプライバシーを守るために基本はカーテンを閉めておくこと。自分の部屋のカーテンを開けるか閉めるかは自由だ。ただ、着替えの時とか、見られたら困るときには必ずカーテンを閉めること、閉めなければ自己責任。
そういう取り決めをあらかじめしていたから覗きを疑われるなんて心外だ。
「英語の宿題やってたんだね」
「うん……心春は終わった?」
「何とか……時間が凄くかかって大変だよ」
「どうせ、宿題以外にも勉強してたんだろ?」
「うん、そうじゃなきゃトップテンになんて入れないよ」
ふぅーと息を吐いた心春が、自分の頭を窓の外に出す。
心春の両親はどちらも教師で共働きだ。だから彼女は自立することを余儀なくされた。二人が教師ということもあって彼女の家は厳しい。勉学に関しては特にそうだ。
彼女のもともとの真面目な性格も相まって、心春が勉強に励むのは当然のことだった。しかし、心春はもともと勉強が不得手である上に、不器用な奴だった。そんな彼女が親を含め、周りの期待から答えるためには、膨大な量の努力が必要だった。
「真面目」「容姿端麗」。その二つから他人が勝手に作り上げた彼女の投影を彼女は必死に追いかけた。
追いかけないこともできた。ありのままでいることも。だが、周りは勝手に彼女に期待し、勝手に落胆する。それで傷つけられたのは彼女の無垢な心だった。
学級委員長=真面目なやつ、頭の良いやつ。そうやって適当な理由で押し付けられた学級委員長の仕事も完璧にこなそうと彼女は努力をした。
小さい頃は人見知りで、いつも俺の後ろに隠れていたのに、いつの間にかクラスの様々な人とコミュニケーションをとって、クラスの中心になっていった。
料理なんて不器用でとても出来なかったのに、特訓をして自分のご飯は自分で作れるようにまで成長した。特訓していた時期には、気付けば手に新しい傷を負っていたのをよく覚えている。
それは全部、心春が、周りからの勝手な期待、大人からの重いプレッシャー、そして何より自分自身を裏切りたくなくて、一層の努力をしてきたからだ。
「桜河心春はいとも簡単に何でも完璧にこなす完璧美少女」
周りからすればそう見えるかもしれない。でもそれは違う。簡単なんかじゃない。
桜河心春の人気は容姿を除いて、全て彼女の努力の結晶だ。そしてそれを俺は知っている。
「大変だよ。授業を受けてるだけじゃ全然理解しきれないし、学級委員長をやってても何かと仕事を押し付けられるだけだし、話し合いではみんな全然協力的じゃなくて進まないしさ……一部の女子からは理由もなく嫌われてる……」
心春は夜空を見上げて、苦笑いをする。
「いろいろ、困っちゃうよね…………」
「…………」
俺はただ黙って彼女を見つめる。
「ごめんね、愚痴みたいになっちゃって……」
「いいよ、人間誰しも愚痴りたいときはあるよ。いつも気を張ってんだろ? 俺の前くらい力抜いて無理しないでいろよ。困ったときはせめて俺にだけは頼ってくれ。愚痴ならいつでも付き合うからさ」
「……うん、ありがと」
先ほどまでの苦笑いから優しい笑みを浮かべた心春は窓の外に出していた頭を引っ込める。
「じゃあ、そろそろ時間も遅いし」
「ああ」
心春は手を振り、窓を閉じようとする。
「そういえば」
心春が閉じかけた窓の隙間からひょこりと顔を覗かせてこちらを見る。
「さっきの恋に落ちる原因について、私なりの答えなんだけど……」
「ああ」
「時間…………じゃないかな? 一緒に過ごした時間、楽しいことを共有した時間、居心地の良い時間……そういう時間の積み重ねが恋になるんじゃないかな? もちろん一目惚れなら違うけど。
それじゃあ、おやすみ」
それだけ言い残すと、心春はそそくさに窓を閉じてカーテンを素早く引いた。俺の喉元から「おやすみ」という言葉が飛び出る前に、会話は物理的に断たれてしまった。
一人夜空に取り残された俺はしばらく窓を開けたままでいた。体が熱い。冷たい夜風がそれを緩和してくれる気がした。
『一緒に過ごした時間、楽しいことを共有した時間、居心地の良い時間……そういう時間の積み重ね』
だとしたら俺にとってそれは心春との時間だ。俺と心春は幼い頃から今日まで、ちょっとやそっとのことじゃ断ち切れないほど長い時間を共に過ごしてきた。
そしてそれは心春にとっても…………
思わせ振りな発言しやがって……俺のことが好きなんじゃないか、って勘違いしそうになるだろうが……
体が冷えるのにはもう少し時間がかかりそうだ。
面白かったらコメントや高評価、フォローをお願いします。作者の励みとなります。
最新話は2、3日おきに更新する予定です。
最後に読んでいただきありがとうございます。
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