第47話 背に腹は代えられない
洞穴の前で待機していた俺の元に、見張りに出ていた筈の面子が駆け寄ってきた。
なにやら石板のような物を手にしている彼らは、手にしている武器を構えながら、俺の左右に陣取り始める。
「状況は?」
石板を手にしたまま俺の右隣りに立ったドワイトが、短く問いかけてくる。
「俺達と師匠以外は、全員洞穴の中に避難済み。あとは、師匠がどれだけ食い止めてくれるかだけど……」
西に目を向けた俺は、森の中に動く影が無いか、目を凝らす。
同じく森に目を向けているドワイトは、小さく息を吐くと、俺の肩をポンと叩いた。
「大丈夫だ。俺たちなら、勝てるはずだ」
力強く言ってのけるドワイトの言葉には、人を勇気づける力でもあるのだろうか。
俺は腹の奥に感じていた得体の知れない不安が、少し溶けたように感じた。
「そうだな……ドワイト達は、俺が撃ち漏らした奴らを頼むよ」
会話を続けながらも森に注視している俺とドワイトは、ほぼ同時に、怪しげな影を目にする。
「来たぞ!」
ドワイトの掛け声を聞いた見張り班の面々は、各々の武器を構えだす。
その様子を横目に、俺は一歩を踏み出した。
森の中を駆けて来る影は、大きく分けて二つのグループに分かれていた。
どちらのグループも木立の隙間を縫うように、飛び回りながら接近している。
「全部で、10人? 師匠、突破されすぎじゃね?」
「ニッシュ、そんなこと言ってる場合じゃないわよ! 右側、気を付けて!」
俺の頭上にプカプカと浮かんでいたシエルが、向かって右側に見えるグループを指差しながら告げる。
促されるまま、右側のグループに注視した俺は、不自然に腕を前に伸ばしている一人の刺客に気が付く。
「魔法か!?」
咄嗟にズボンのポケットに手を突っ込んだ俺は、小石を取り出すと、その刺客に思い切り投げつけた。
当然ながら、俺は手を離れた石に対して、魔法をかける。
俺のイメージしたジップラインと重なったその石は、複雑な軌跡を描きながらも加速し続け、狙い通り、その刺客の眼前に到達した。
しかし、俺の狙いを把握していたかのように、石は呆気なく弾かれてしまう。
腕を伸ばしている敵のすぐ隣を走っていた別の刺客が、手にしていた短刀で防いでしまったのだ。
とは言え俺も、その様子をただ眺めていたわけでは無い。
石が弾かれる直前、俺は向かって右のグループ目掛けて突進を仕掛けていた。
左手に持っているこん棒を振りかざし、森の中に突っ込んだ俺は、一瞬で刺客達の眼前に躍り出る。
当然ながら、俺の襲撃を待ち構えていた5人の刺客とそのバディ達は、見事な連携で俺を取り囲む。
だが、それは俺にとっても想定内だ。
低い体勢で動きを止めている俺に向けて、眼前の三人と犬型のバディが飛び掛かってくる。
恐らく、死角にいる奴らも、同時に飛び掛かって来るであろうと予測していた俺は、思わずにやけてしまった。
途端、俺を囲んでいた刺客達は、盛大に体勢を崩しながら、空へと打ち上げられてゆく。
まるで、竜巻にでも巻き込まれたかのように。
仕組みは簡単だ。
俺を中心に竜巻のように上昇してゆくジップラインをイメージするだけ。
自分の身体が巻き込まれないように、注意が必要な技だけど、死角を作らずに攻撃が出来るのがポイントだ。
「イメージは竜巻だから、技の名前はトルネード・ジップってところか。良い名前だろ?」
「もう! 技の名前とか後で良いから、今は集中しなさいよ!」
「すまん」
俺はシエルの言葉に返事をしながら、打ち上げられている刺客達を見上げる。
回転と上昇に巻き込まれている彼らには、抵抗する術は無いだろう。
「そろそろ降りて来いよ」
声を掛けると同時に右腕を上に伸ばした俺は、新たなジップラインを思い描く。
五本の指から伸びて行くラインは、それぞれ五人の刺客とバディの胸元に到達すると、反転して地面へと軌跡を描く。
瞬く間に地面に降り注いできた刺客達は、悲鳴を上げることもできないままに、動かなくなった。
一応手加減はしているはずなので、死んではいないはず。保証は出来ないけど……。
「悪いな。けど、俺達も必死なんだよ」
それだけ言い残し、俺はドワイト達の方へと目を向ける。
手製の槍やナイフで何とか応戦しているドワイト達だが、刺客の一人が何やら魔法を発動しようとしている。
「ヤバいな!」
ドワイト達も一応魔法を使えるはずだが、戦闘のために訓練したことは無い筈だ。単純に考えて、分が悪いだろう。
先程と同じようにポケットから石を取り出した俺は、魔法を発動するために下がっている一人に向けて投げつけた。
投げっぱなしでドワイトの元に走った俺は、ある程度距離を詰めたところで、跳躍する。
跳躍の途中で、先程投げた石が刺客の横腹に命中したことを確かめた俺は、改めて眼前に意識を集中させた。
俺の左膝からドワイトと鍔ぜり合っている刺客の側頭部目掛けて、ジップラインを伸ばす。
加速を始めた俺を止める者は無く、俺の膝蹴りは見事に刺客の側頭部に直撃した。
短い悲鳴を上げながら吹っ飛んで行く刺客。
その悲鳴を聞いた俺は、間髪入れずに次のラインを描くと、すぐさま左足を伸ばす。
伸ばした左足は、ラインに沿って大きな弧を描き、上に持ち上げられてゆく。
その動きに沿うように、俺は空中でバク転をして見せると、両足で地面に着地した。
「みんな無事か!?」
「あぁ、なんとかな」
唖然としているドワイトは、俺の言葉に気を取り直したのか、短く答えると、改めて残りの刺客にナイフの切っ先を向けた。
「よしっ! それじゃあ、後半戦だな!」
乱入してきた俺を目にして、数歩後ずさった刺客達。
彼らには悪いが、逃がすわけにはいかない。何より、貴重な資源を奪う必要がある。
「悪いけど、逃げるなら身ぐるみ全部置いて行ってくれよ」
「ニッシュ……見損なったわ」
「仕方ないだろ? 背に腹は代えられないしよ!」
呆れながら告げるシエルに、俺は思わず言い返してしまったのだった。
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