ジゴクからの成り上がり ~転生特典:閻魔の呪い~
内村一樹
第1章 呪いの始まり
第1話 死と生誕
目が覚めた時、俺は地獄に居た。
なんでそんなことが分かるのかと聞かれれば、俺は眼下に広がっている光景を説明するしかないだろう。
轟々と燃え盛る山や真っ赤に染まった池、見たことの無いほど大きな刃物を持って暴れ回っている鬼たち。
そして、響き渡る無数の悲鳴。
その光景を目にして、地獄では無いと誰が言えるんだ?
思わず息を呑んでしまった俺は、ふと、自分の足元に視線を落とした。
裸足のつま先から、ほんの数センチ前にあるのは、底の見えない谷。
余りに恐ろしい場所に自分が立っていることに気が付いた俺は、すぐに後ずさろうとするが、既に遅かった。
突然、背中を強く押し出されたかと思うと、気が付けば崖下に落下を始めていたのだ。
「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
風が耳を掠め、薄暗い谷底が、ぐんぐんと近づいて来る。
恐怖のあまり、涙が溢れ出て来るが、不思議なことに、目を閉じることが出来なかった。
叫んでいる口から大量の熱い空気が流れ込んできて、呼吸をすることもできない。
もう少しで地面に激突してしまう。
そんな考えが頭の中を過ったのと同時に、俺は何かが潰れるような鈍い音を耳にする。
かと思えば、つい先ほど立っていた崖の上で、再び目を醒ました。
「な……なにが?」
呟くと同時に、今しがたの記憶が頭の中で鮮明に繰り返される。
潰れた音。
あれは紛れもなく、俺が潰れた音だった。
「待てよ……待ってくれ、俺は何でこんなところにいるんだ!?」
そう言いながらも、俺は一つの疑問を抱いていた。
これは何度目なんだ?
胸の内側で膨らんでゆく疑問に耐え切れず、俺はその場に尻餅をついてしまう。
と、思ったのも束の間、両手で体を支えようと思っていた俺は、自身の身体がゆっくりと後ろに倒れ込んでゆくことに気が付く。
「なっ!?」
咄嗟に背後を見やった俺は、先ほどまであったはずの地面がごっそりなくなっていることに気が付き、次の瞬間、再び嫌な音を聞いた。
また同じように繰り返すのか。
そう思った俺だったが、次に目の前に現れたのは、地獄の光景では無かった。
代わりに居たのは、巨大な椅子にふんぞり返っている化け物。
ゴワゴワとした赤い髪の毛と筋骨隆々な体格。
俺を鋭く威圧するのは、巨大な目と口元から飛び出ている牙と、額にある太い角。
その風貌は俺に、
「……
「……ぁ」
ゆっくりと告げられるその言葉に、返事をしようとした俺だったが、閻魔の鋭い睨みを前に、押し黙ってしまう。
そんな俺の様子が気に食わないのか、閻魔は大きくため息を吐くと、怒りを
「貴様は……何も反省していないようだな……ならば、より過酷な世界にしてやろう」
野太く響くその声は、俺の心を容易に打ち砕いてしまう。
だからこそ俺はこの時、閻魔が何を話しているのか、しっかりと聞くことが出来ないでいた。
「貴様が今から行く世界は、軟弱な貴様などすぐに死んでしまうような、過酷な世界だ。だが、簡単に死ぬことは許さん。それが、貴様に与えられるべき、ジゴクなのだからな」
その場にへたり込んでいた俺は、のそりと立ち上がった閻魔を目にした瞬間、その場から逃げ出そうと駆け出す。
でも、簡単に逃げれる訳がない。
即座に体を掴まれた俺は、閻魔の手の中でもがき続ける。
そんな俺をあざけるように、閻魔はニタニタと笑みを溢しながら、掴んだ俺を頭上に持ち上げた。
かと思うと、その大きな口を広げて、俺を放り込んでしまった。
ヌメヌメとした巨大な舌の上を、何とか這い上がろうと手足を使って藻掻いてみるが、到底上がることは出来ない。
喉の奥の方で、今にも
そうして気が付けば、俺は浮遊感のど真ん中を漂っていた。
辺りは真っ暗闇で、寸分も光が存在しない。
ただ、落下を続けている感覚の中で、両手両足をジタバタと動かしていた俺は、ついに大きな変化を手に入れる。
初めに感じたのは、触覚。
誰かが、俺の頭や肩付近を掴んで、引っ張ろうとしている。
次に感じたのは、声。
呻き声をあげている女性と、これは、赤ん坊の泣き声?
そして、最後に感じたのは、光。
何も見えないながらに、瞼を透過して明るさを感じる。
そこで初めて、俺は気が付いた。
大声で泣き喚いている赤ん坊が自分自身であることと、肺に入り込んでくる空気が、妙に爽やかに感じられること。
胸の内に込み上げて来る溢れんばかりの疑問を、声を大にして叫びたいが、出て来る言葉は嗚咽ばかり。
状況を理解できないことから、困惑の中に居た俺は、そっと頭を撫でられたことに気が付き、同時に、胸元が痛んだ気がした。
「よく頑張ったわね……、ウィーニッシュ」
掠れてしまって、元気のない女性の声。
そんな声に続くように、周りからは多くの祝福の声が、掛けられていた。
思わず黙り込んでしまった俺は、状況も分からない中で、大声で泣きわめいた。
この時の俺は、なぜ泣いてしまったのか、自分でも理解できていなかった。
ただ、胸から込み上げて来る痛みを発散するように、全てを、吐き出したかったのかもしれない。
そして疲れ切ってしまった俺は、ゆっくりと眠りに落ちていったのだった。
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