010 例の少年と面接。p01

 

 ニーナはようやく分かった。エインズに自信を持たせてはいけないと必死に頑張ったであろう村人の気持ちが。


 その怪力を得意気に披露して褒められ、ついには調子に乗って、気に入らないものを壊しまくるような人物に育ってしまえば……世界は崩壊だ。


 同じ人族としてのルールが適用されるだけに魔王よりも厄介だろう。


 そしてエインズの規格外の強さを目の当たりにし、周囲の者も薄々この少年の違和感の正体に気付き始めていた。


 ただ、その理解についてはあまり正しいとは言えなかった。



「あのガキ、ゴリラにでも育てられたのかよ」


「あれはきっと魔族の血を引いた子供か何かだろう。装備を着ていないのは、そもそも必要ないってことだ、やべえぞ、勘繰ってたら殺される!」


「ソルジャー試験をお遊びか何かと勘違いしてる訳じゃねえんだ、あいつにとっては本当にお遊びなんだよ」


「俺、あんなのと同期になれる気がしねえよ。なんだよソルジャーって、金貰って護衛する楽な商売じゃなかったのかよ」


「ヒッ!? 今目が、目が合った! 殺される……」


「隣の女もきっとやばい奴に違いねえ」



 エインズから距離を取って座り、目をあわさないようにとビクビクしている受験者達。その気配を感じ取ったエインズは、自分だけ力加減をせずに試験を受けてずるいと思われているのだと落ち込んでいた。



「おい、あの2人から試験前に男が1人逃げたって話知ってるか?」


「ああ、そう言えば……腹が痛いと蹲った奴を容赦なく」


「あの女の方がやったらしいぜ、あまり関わらない方がいい」



 ニーナに関しては完全にとばっちりだ。


 勘違いが勘違いを生み、その生まれた勘違いを第三者が更に勘違いする。エインズとニーナの正体をめぐる勘違いは暫く続く事になる。





 * * * * * * * * *





<全試験が終了しました。選考結果をご案内します。お手元の受験番号をご確認の上、呼ばれた方は最終面接会場へ向かって下さい。受験番号1番、7番、19番……>



 試験が終わって30分後、会場内には試験結果を告げるアナウンスが流れていた。祈るように両手を組んでいる者、余裕、もしくは既に諦めているのか特に反応を見せない者、番号が呼ばれず肩を落としている者、受験者の姿は様々だ。



<99番、117番、131番……>



「だ、大丈夫だよね、俺筆記も出来た感触あったし、実技だって全部攻撃した……木人は壊してもOKだって言われたし、問題はない、ないはず……」


「私、筆記は完全に受かってるわ、受かってる。実技の平均は見たところ14体、ニーナ、あなたは19体。大丈夫よ私、大丈夫……」



 全受験者280名のうち、ニーナとエインズは呼ばれるまで時間が掛かる。今年最強……いや最凶だと看做されている2人が、ブツブツと自分に言い聞かせる言葉を呟いている姿は、受験者には恐怖でしかない。



「実技で18体未満の奴は全員落ちてるみたいだな」


「やべえよあの2人、呪いのまじないでも呟いてるんだぜ」


「ああ……俺あの2人に対して何も粗相してねえはず、大丈夫、大丈夫……」



<250番、270番、271番、277番……以上、筆記、実技試験の通過者は38名となります。繰り返します。1番、7番……>



「やった、やった! 受かったぁ!」


「私も呼ばれたわ! やった、面接で特に問題がなければソルジャーよ!」


「エインズ様、ニーナ様、おめでとうございます。面接となれば人柄を判断される場。油断なさいませんよう」


「うん、ちゃんと受け答えの練習はしたからね、大丈夫と思う。一番自信があるんだ」



 38人に絞られた受験者が一斉に面接会場へと向かう。木の床の通路を歩きながら皆は喜びも束の間、面接試験への緊張が込み上げてくるようだ。


 この中の何人が合格を言い渡されるのかはまだ分からない。ただ、屈強な者、俊敏そうな者など、それなりに強さを窺える風貌の者が多い。


 逆に言えば育ちのよさや穏やかさとは程遠い者ばかり。面接が得意そうな者が見当たらない。


 男性は32名、女性はニーナを含めても6名で、一番小柄で若いニーナはやや浮いている。


 まあ、肩に猫を乗せ、完全な普段着姿のエインズほどではないが。



「4つの部屋それぞれに試験官がおりますので、呼ばれた番号の方は指示された部屋にお入り下さい。それでは1番の方、赤い札の部屋へ。7番の方、黄色い札の部屋へ」



 番号は昇順で呼ばれるが、指示された部屋はランダムなようで、青、白の札の部屋には殆ど通されることがない。受験者達は首を傾げながらも、指示された通りの部屋の前に並ぶ。



「131番、青い札の部屋へ、154番、赤い札の部屋へ……」


「あ、青の札だ」


「まだ2人目よね、白の札の部屋はまだ1人よ」


「出身地別かな」



 赤、黄、青、白の順に並ぶ者が少なくなっていく。部屋の中の様子は全く分からず、受験者達は不安そうに互いの列を見比べ、中には並んだ者同士で共通点がないかを探り合っている。



「270番、青い札の部屋へ。271番、白い札の部屋へ。277番……」


「私は青だわ、青は合計で6人……」


「俺のとこなんて、俺を含めても3人だよ。どうしよう、これでチーム戦なんて言われたら」


「エインズ様、私も加勢しますから4人と思って下さい。1匹増えれば楽になるはずです」



 対抗戦だと決まったわけではないのに、ニーナとエインズという大注目の2人が発言したせいで、受験者の間ではこのチーム分けで何かをするんだという空気になっている。


 全員が呼ばれて並ぶと、赤17名、黄12名、青6名、白3名となっていた。



「あの馬鹿力のガキがいるところが一番少ないと考えると、あり得るな……」


「勝てるわけねえよ、ああ、もう駄目なのか……」



 皆、面接会場と言われた事など、もうすっかりどこかへ飛んでしまったようだ。



「それでは1人目の方は部屋にお入り下さい」



 部屋に呼ばれる時間の間隔は、赤の部屋が一番早く、白の部屋が一番遅い。もう1つ出口があるようで、終わった者が出てこない。どんな面接が行われているかも分からない。



「次の方」


「あ、はい! ニーナ、お先に」


「ええ、頑張ってね」



 エインズは緊張の面持ちで、扉を叩いて壊さない為か代わりにチャッキーに2回ノックしてもらう。どうぞと声が掛かると、チャッキーにドアノブを回してもらった。


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