「元弊社、花筏かな?」自歌自解
千住
P1 元弊社、花筏かな?〜どこまでも照るように澄む朝焼けが
元弊社、
誰もいぬ川原に仁王立ちのアラサー
花筏は晩春の季語。とは言っても新暦四月四日〜なので現代人の感覚としては春まっさかり。ここで舞台の季節を決定・提示する狙いがあります。
また、花筏とは桜の花が散りかかるイカダか、水面に散った桜の花びらのかたまりを言います。この場合下の句で「誰もいぬ川原」と言っているので前者のリアルイカダの可能性は低くなります。観光地住まいの人には馴染み深いと思いますが、水面に散った花びらは無抵抗に流され、沈んでいきます。それを元弊社に例えるということは、辞めたか辞めさせられた会社になにかあったのかも? 潰れちゃったかな? と不思議に思ってもらう狙いです。最後まで読んでからここに戻るとなんとなーく事情が察せる作りになっています。
誰もいぬ川原は、コロナのせいと取っても、失業して変な時間に出歩いているととっても、単にド田舎ととっても大丈夫です。
仁王立ちから作中主体(主人公、半分作者の千住)が歌人で連想されるような雅でしおらしい人じゃないことを察していただきます。短歌はただでさえとっつきにくい媒体なので、親しみのもてるような作中主体づくりを目指しました。
手の甲に桜の花をすりこんで
この身に春をなじませていく
冒頭の「花筏」で季節が春だという主張をしていますが、それが通じるのは季語に精通している人のみです。今回ブンゲイファイトクラブというジャンル制限なしのコンテストに出すにあたり、季語を知らない人をおいてけぼりにしないよう、直接季節を描写する一首を据えました。
春をなじませないと感じられないくらい余裕がないのも伝わったらいいな、元弊社が花筏になってしまった事情と関係があるのかなと思ってもらえたらいいな、という狙いもあります。
春うらら高飛車なあの青年も
鳩に弁当荒らされている
季節が春であることに加え、短歌としてはふざけ気味な文体であることも短歌に馴染みない読者にアピールしたい。ということでもう一首、説明的なものを足しました。
この青年が後に登場する「キミ」なのでは? という読解もあり、それに関してはどちらでもオッケー! という感じです。
実際に高飛車な知人が鳩に弁当を荒らされたことがあります。ちょっと嬉しかった。
月末は書類が宙を舞うらしい
昼寝するからあとはよろしく
最初の「元弊社〜」に加え、こちらで少なくとも職を離れていることが確定になります。(働いているのに月末進行を昼寝でやりすごしていたらかなりすごい。不真面目な外回り営業さんとかやったりするんだろうか……)
学生さん向けに解説すると、月末は大抵の仕事場で何らかの〆切があり、かなり忙しいです。前述のように月末進行なんて言葉で特別の忙しさを表現することもあります。
この一首は直前の青年への呼びかけか? という質問もありましたがどちらでもオッケーです! すると青年が辞めた会社の関係者というドラマが発生しますね。
どこまでも照るように澄む朝焼けが
することのない明日を呼び出す
無職確定状況説明パート2です。普通この上の句だと元気な明日が来そうですが、というところで意外性の面白さを狙っています。伝えたい空気は爽やかさと寂しさと虚しさの混合です。
春であることはここまでで説明済み。朝焼けが見れる時間はかなり早いです。することがないのにこんな時間に起きているのは……ということで、精神のバランスを心配してもらいます。朝早い仕事で働いていたころの癖だとか、逆に解放された反動で徹夜で遊んでたとか、いろんな想像を巡らせてくれると嬉しいです。
ここでブラック企業関連の予想を立てた察しのいい読者の場合、3ページ目に始まる同僚だった「キミ」との出来事がよりドラマチックになります。
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