第15話 ニーナ報復を考える 其の3 商人ギルド本部へ
早朝商人ギルドの使いにより商人ギルド本部へ行く日取りが決まったと言伝が来た。
旅の連れは未だ戻る気配はないが特に心配はしていなかった。
それより何かやらかさないかの方が気がかりだ。
ニーナ自身も割とやらかしている筈だが、私だけは何をしても許されるの精神なのでこれからも唯我独尊を突き進む事になるだろう。
次にミレイユ《じゃじゃ馬》についてだ。
どうやらかなりの箱入りで両親や兄妹からもかなり甘やかされて育てられたらしい。
何処でどうなったらそんな考えに至るのか貴族で非ずは人に非ず。
といった風な思想を持っている様で、其の事に伯爵も頭を悩ませていた様だ。
このままでは家から出る事も無く嫁にいっても普通に生活を送るのも困難と考えマクシミリアン伯爵の知人でもある冒険者ギルドのグランドマスターにお願いして市井の者とも触れ合えば変わるだろうとの思いから冒険者ギルドに預けられ働く様になったという経緯が手紙には書かれていた。
冒険者ギルド本部では大人しく研修を受けていたようだが、研修が終わり地方への本配属が決まるとそれが気に入らなかったのか本来の性格が顔を出し平民出身者には傍若無人に振る舞っている様だ。
本来なら諫めるべきギルドマスターも本部から預かりのましてや伯爵令嬢という事もあり迂闊に手出しは出来ず今の状態にして至っているとの事だった。
「馬鹿娘の始末を他人に丸投げしてましてや預り先ですら管理出来ていないとか本当に冒険者ギルドって必要なのか疑問しか湧かないわ。」
やはりファーストデールで潰しておいた方が良かったかもしれないと言うのがニーナの正直な感想であった。
「折角王都の商人ギルドに行く用事が出来たわけだし冒険者ギルド本部も覗いてみようかしら?」
この世界の伏魔殿を覗く様な気持ちで少し楽しくなるニーナであった。
後書かれていたのは開拓した筈の鉱山が何故か元の綺麗な山林に戻っており商人ギルドも鉱石の取扱に影響が出ているとの事だった。
マクシミリアン伯爵家は急ぎ調査を行うらしいが、誰の仕業か綺麗な山林に還った場所を再び鉱石が取れる様にする迄には相当な時間を要するだろう。
鉱山で働いていた鉱夫の仕事が無くなりそれを本の少しは申し訳ないと思わなくも無かったが、馬鹿娘のせいなので文句があるならマクシミリアン伯爵本人に言って欲しいものだ。
明日には王都へ向かう事になりそうなので宿の延長のお願いと共に出て行っていつ戻って来るか分からない連れへの伝言と金銭を預けておき翌日ニーナは馬車に揺られて商人ギルド本部がある王都へ旅立って行ったのだった。
そしてニーナは今王都に向かう馬車に揺られている。
馬車での旅は思っていたよりゆっくりとしたものだった。
乗り心地はそれ程悪くは無かったので惰眠を貪りつつ二、三日あれば王都に辿り着くとの事だった。
王都には本来の目的である商人ギルドへの顔出しとおまけの冒険者ギルドの冷やかし。
あわよくばマクシミリアン伯爵家の情報も何らかしら得たいとの算段もある。
敵を知る為には先ずは情報から。
ゴリ押しで力を持って制圧してもそれはそれで構わないのだが、ニーナの最大の目的は故郷を滅ぼした竜騎士団の殲滅である。
わざわざ自らお尋ね者になって今後の旅をやりにくくするのも面倒くさいのでマクシミリアン伯爵家を聚落に追い込むのはあくまでついでレベルで片しておきたいのだった。
馬車での旅では日を越す事になるのでニーナも夜は見張りに参加するつもりだったが、大事な客人という事で夜の見張り番は免除されている。
だからと言って一日中馬車の中に居るのも退屈で身体がなまりそうなので夜の散歩に出掛ける。
素手でも魔物相手に遅れを取る事はないので軽装でブラブラといった感じだ。
途中狼の群を見たがニーナを見た瞬間Uターンして引き返して行ったが気のせいだろう。
「それにしてもこの世界の月も綺麗な物ね。」
前の世界でも月は見えたが、この異世界は文明が発展していない分空気が綺麗なのか月は綺麗に見えている。
何もない平原だと数多の星々がまるで宝石を散らしたかの様に夜空を彩っている。
今見上げている星々の何処かに以前住んで居た星もあるのかなとセンチメンタルに気分にもなるがもう戻る事が無い以上余計な感傷に浸るのもどうかとそれ以上考える事を放棄してニーナは夜空を眺め続けて居たのだった。
特に何かあるわけもなく二、三日程で王都に辿り着いた。
移動してきた街が霞む程に王都は広くまるで都市の様に綺麗に区画されている。
手前から奥に行く程に建物は大きく豪華になっている。
一番奥に見える西洋の城と似た様なのがきっと王城なのだろう。
「私には関係ない物ね。」
貴族でも王族でもないニーナには無縁の長物。
接客的に関わりたいとも思わないし寧ろ色々な物に縛られそうで只々面倒くさいと考えている。
自分の力で勝ち取れるこの世界で自由に気ままに好きな様に生きたいと思っているニーナは現状の生活に不自由はしていない。
逆にそれを邪魔する者こそ敵だとすら思っている。
「私は自由に怠惰に生きるわ。何者にも縛られない自由を今の私は楽しむわ。」
それは宣言にも似た様なものだった。
多少のしがらみもこの世界なら自身の力で解決出来る。
そんな事を考えていると馬車は王都の中央にある大きな建物の前で停車した。
馬車の扉が開かれ目の前には豪奢な大きな扉が鎮座している。
ニーナはその扉を開け放つ
扉を開いた先では赤い絨毯が敷かれておりその左右には皆慣れた制服を着た者達が一斉に頭を下げた。
「「「「「「ようこそ! 商人ギルド本部へニーナ様」」」」」」
こういう場面なんて言うんだったかしら?
と考えて数瞬
「お出迎えありがとう。」
と普通に返事を返したのだった。
同時刻
この世界の何処かにある某所
「私達の出番がないんですねぇ。」
「それは仕方ありませんよ。私達はそれよりもやる事があるのですから。邪神様。」
「分かってはいるんですねぇ。ですが、本当に行くんですかねぇ? ワタシはオススメしないんですねぇ。」
「折角呼ばれたんですから行きましょう。」
エリスに抱かれている以上逃げ場は無い。アレクは嫌々だったが、もう腹を括って諦めるしか無い。
数百年も放置していたのだ間違いなく怒ってるんですねぇ。
戦って負けるとは思わないが、グチグチ嫌味を言われるのが分かっていて行くのが嫌なのだが、自分が幼女ちゃんを連れ出して迂闊な事を口走ってしまった以上もう諦めるしかない。
「どうしてこの流れになったんですかねぇ。自分の迂闊な言葉のせいとは分かっていますが、はぁ〜ですねぇ。」
未だささやかな抵抗をアレクは見せてはいるが、目的地はもう目の前だ。
そこに座すは巨大な
数百年前まで世界各地で大暴れてしていたニーナとエリス以外のもう一匹の使徒。
「今更どの面下げてここに来たのですか? 主人様。」
これは完全に切れていますねぇ。
猫を射殺さんとばかりに睨み付けているのはこの世の厄災の一つ邪神竜バルムンクだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます