第4話 ガキは薬草でも集めとけと大商人は言ったから薬草を望み通り渡してやった

 冒険者ギルドを後にし商人ギルドへ向かうニーナとアレク


 商人ギルドとは


 通称【世界の巨人】


 生活する上で商人ギルドが取り扱っている物を生まれてから死ぬまで一度もお世話にならない人はいない。


 揺籠から墓場までをもっとうに全世界で商いを営んでいる。

 商人ギルドは王より権力を持っているなんていう冗談も満更嘘ではない。


 何より扱っている物は物だけには止まらず情報を商材として扱っている剛の者までいる


 危険な情報をの方法で取扱う商人は特殊で、戦商人バトルトレーダーとも呼ばれ商人ギルドと同時に冒険者ギルドとのダブル登録の者もいる。


 何者にも囚われない。

 自由であり力もある事から冒険者では無く戦商人バトルトレーダーを目指す者も多い。


 戦商人に憧れる者は後を立たないが真に戦商人として大成する者は少ない。


 冒険者をしながら商いを行う才覚に腕っ節まで必要となるとやはり一握りの者しか生き残れない修羅の未知だからだ。


 ニーナが商人ギルドに登録しようと考えたのは、別に行くさ商人に憧れてというわけでは無く異世界の知識商材を使えば路銀に困る事にはならないだろう位の気安い考えと自身の村を壊滅に追い込んだ者の情報を得る為だった。

 

 寧ろ後者がメインである。


 ニーナとアレクは商人ギルドに着くと速やかにカウンターへ行き冒険者証を見せた。


 カウンターに居た少しイケメンの青年の眼鏡が獲物を狙う猛獣の様に光った様に見えたがニーナは特に気にする事は無い。


 商人ギルドの青年ニックはニーナの姿からまた無謀な戦商人を目指す子供が現れたのかと辟易としていた。


 とは言ってもギルドの業務を怠る訳にもいかず事務的に登録の説明をした。


 今度の無謀なこの少女は一体いつまでもつのだろうとそんな気持ちだった。


 ニーナは青年から事務的な説明を受けて登録を済ませると足早にこの場から立ち去ろうとすると入口で大きな商人に阻まれた。


 「悪いな嬢ちゃん、小さくて見えなかった。ここは嬢ちゃんの様な子が来るのはまだ早い。早く親の所に帰った方がいい。」


 ニーナの前に聳え立つ壁から声がした。


 「邪魔してるのはそちらですよ? レディーファーストって言葉を知らないんですか?」


 負けじと言い返すニーナ


 「レディー? そんな女性見当たらないんだけどよ?」


 わざと視線を下げないまま手を目の上に当てて遠見をする様にキョロキョロと辺りを見渡す商人


 ニーナは少しムカっと来たのか目の前の壁の胸倉を掴み地面に向かって引き下げた。


 ニーナに剛力に引っ張られ商人が膝を付き目線が同じ位の高さになった。


 周りからはあのゲインに膝をつかせたぞとガヤガヤと喧騒が起こっていた。


 「これで見えるかしら? 商人筋肉バカさん?」


 ニーナは勝ち誇った様な視線をゲインと呼ばれている商人に向けた。


 ニーナの肩の上でアレクは溜息をついていた。


 まさか自分が膝をつかされる等とは夢にも思わなかったゲインは一瞬ポカンとしていたが直ぐに持ち直した。


 「これは失礼した。まさか嬢ちゃんにそれだけの力があったとは。これは一本取られたわ。」


 ガハハハと豪快に笑うゲイン


 「それで貴方は何者?」


 ニーナの発言が意外だったのか周りの喧騒は更に高まる。


 ゲインを知らないなんて......


 あの嬢ちゃんバカなのか?


 等様々な声が聞こえる


 ゲインだかなんだか知らないものは知らない。


 外野有象無象が煩いわねと呟く。


 「俺はゲイン・アルバッハ。一応それなりに戦商人バトルトレーダーをしている。」


 「何だっていいけど人の邪魔をしたんだから先ず最初に言う事があるんじゃないの?」


 一切自分に非はないと思っているのでニーナは引く事は無い。


 「そいつは悪かったな嬢ちゃん。ただ本当に見えなかったんだよ。」


 二メートル近い大男からしたら確かに百三十センチ程度しかニーナは見えなかったのだろう。


 「少女ちゃん、キリがないですねぇ。」


 アレクの言葉にニーナはそれもそうねと目の前のゲインを避け商人ギルドを出ようとすると後ろから肩を掴まれた。


 「何?」


 キリッとゲインを睨むニーナ


 「まぁそう怖い顔するなよ。お詫びに何か奢らせてくれ。」


 「仕方ないわね。付き合って上げる。」


 あくまでも不遜な態度のニーナに周りの商人達はあの少女明日には日を浴びる事は出来ないだろうなと思っていた。


 ゲインに商人ギルドの商談スペースに案内された。


 そこにニーナはゲインと向かい合って座った。


 「俺にはエールをこの嬢ちゃんにはミルクを頼む。」


 ミルクと言われて馬鹿にしてるのかと収めた怒気が噴き出しそうになるが、一々怒っているのも大人気ないとニーナは怒気を抑えた。


 今のニーナは少女下手したら幼女にしか見えないので仕方がないと言えば仕方が無かった。


 商人ギルドの職員から飲み物が運ばれて来るとゲインはエールのジョッキをニーナの前に突き出し運命の出会いに乾杯と言った。


 ニーナはまさかロリコンと身震いしたがゲインの目にそういう色が含まれていない事からゲインのジョッキにミルクの入ったジョッキを合わせた。


 「それで嬢ちゃんはここに何しに来たんだ?」


 「商人登録だけど。」


 「見た所戦商人バトルトレーダー志望みたいだが?」


 「戦商人バトルトレーダー? そんなな知らないわ。」


 ほぅと目を細めるゲイン


 「私は路銀稼ぎと情報が欲しいから商人登録しただけ。」


 「路銀ねぇ〜 だけどよ、嬢ちゃんは見た所とても売れる物を様には見えないな。」


 品定めする様な試している様な目を向けるゲイン。


 ニーナは自分の頭に指を指して


 「ここにあるわよ。」


 そう挑発的な声色でゲインに言った。


 「中々面白い嬢ちゃんだ。」


 ガハハハと豪快に笑うゲイン


 「ただな、嬢ちゃん。今までそうやって吹かして言って次の日には姿が見えなくなった奴を俺は五万と見て来てるんだよ。」


 「そんな有象無象と私が同じに見えるってゲインの目はこのジョッキと同じ素材で出来ているの?」


 カウンターにいた青年ニックが青い顔をしている。

 

 「言うじゃねぇか。ただ今の嬢ちゃんがそう言っても俺だけじゃ無く周りも他の吹かし野郎達と同じ様にしか見ないぜ。」


 うんうんと頷いているアレクを小突くニーナ


 「確かに一理あるわね。じゃあどうして証明すればいいかしら?」


 ゲインはう〜んと顎を捻り考える素振りをした後何か思い付いたとばかり悪戯な笑みを浮かべた。


 「そうだな。今商人ギルドでは薬草採取の依頼が出されている。それを受けて貰おうか。」


 「は? 薬草採取? 馬鹿にしてるの?」


 ニーナから再び怒気が溢れ出す。


 「まぁ待て待て。そう怒るなよ。薬草採取だと言っても馬鹿には出来ないぞ。森には魔物も出るし危険な野生の動物や毒草等も生えてるんだよ。それらを全て乗り越えて採取依頼だって馬鹿に出来たものじゃないぞ。」

 

 「分かった。じゃあその依頼受けるわ。そのニヤケ面をいつまでしていられるか楽しみにしておきなさい。」


 ニーナはご馳走様と礼を告げるとダンと立ち上がり掲示板から薬草採取の依頼の紙を乱暴に剥ぎ取りカウンターに叩き付けた。


 青年から依頼受領の紙を受け取るとツカツカと商人ギルドを出て行った。


 やれやれ苛烈な嬢ちゃんだとゲインは苦笑いを浮かべていた。


 ニーナとゲインのやり取りを見ていた商人達もようやく時が動き出した様に慌てて動き出した。


 ニックからゲイン様本当に良かったのですか?


 と聞かれたゲインはニヒルな笑みを浮かべ


 「まぁ、面白い物が見れるだろ」


 とニックに一言だけ返したのだった。



 商人ギルドを出たニーナは森の方へ向かって既に歩き出していた。


 ぶつぶつと文句を言っている姿にアレクは余計な事は言うまいと静かにしている。


 要らぬ火の粉は浴びたくないとニーナと出会ってからまだ間もないが、少しは学習していたのだった。


 ニーナが街を出て一時間位歩いて薬草が生えている森に辿り着いた。


 「アレク、薬草ってあそこに生えているのでいいのよね?」


 実際に薬草を見た事は無かったが、アレスより引き継いだ知識にある薬草の姿の答え合わせをアレクにもとめる。


 「薬草で間違いないですねぇ。」


 どうやら自分で見た事がない物でもアレスの知識にあった物と符合は取れる様だとニーナは確信する。


 「アレク、この森にどの位薬草って生えてるか分かる?」


 「それは森全部って意味ですかねぇ?」


 「そうよ。この森よ」


 ニーナが良からぬ事を考えているのは明白だった。


 「あのギルドが位には生えているんですねぇ。」


 ニーナがいる答えを的確に返すアレク


 アレクはニーナが邪悪は笑みを浮かべているのを見てワタシは知らないよとばかりに諦めた気持ちになったのだった。


 その後ニーナは身体にこれでもかと強化魔法をかけ文字通り森の中を縦横無尽に駆け回った。


 ただひたすらに森の中を全力で駆け回り森の中に生えている全ての薬草を刈り尽くした。


 途中出会った魔物は剣を抜く時間すら勿体ないとばかりに跳ね飛ばしていった。


 森の全ての薬草とついでに出会った魔物を蹂躙し終わった頃には数時間が経っていた。


 ニーナに喧嘩を売るのは金輪際辞めようとアレクは固く神に誓ったのだった。



 日もそろそろ落ち始め空が赤から黒になる頃商人ギルドまで戻って来たニーナは勢いよくドアを開け


 「ゲインは居るかしら?」


 大声でそう言うと奥の商談スペースから冬眠していた熊の様にゲインがのっそりと姿を現した。


 「遅かったじゃないか嬢ちゃん。それに手ぶらみたいだが? あれだけ啖呵切って出て行ってまさか手ぶらとか言わないよな?」


 若干怒気を含めた様に言うゲイン


 それに不適な笑みで返す。


 「死にたくない者はここから立ち去りなさい!」


 商人ギルドにいる職員や商人は一同に は?という顔をする。


 その後に爆笑が巻き起こった。


 「嬢ちゃん遂にあたまがイカれちまったのか?」


 商人ギルド職員ですら口元に手を当て笑いを堪えている。


 涙を流しながら机を叩き爆笑している商人も居た。


 「嬢ちゃん、大道芸人に向いてるんじゃないか?」


 そんな声に更に商人ギルド内は盛り上がる。


 「忠告はしたわよ?」


 ニーナは商人ギルドの入口のに敢えて立ちギルド入口からギルド内に向けて手を前に出した。


 ゲインは嫌な予感に背中に冷たい物を感じた。


 「ダークホールオープン! レッツゴー♪」


 ニーナがそう言うとギルド入口に黒い穴が現れた。


 爆笑していた商人が一斉にその黒い穴に鎮まりかえる。


 「おい! まさか?」


 ゲインの危機感は的中する。


 ニーナの前に出来た黒い穴から薬草が噴き出していく。


 噴き出す勢いは留まる事なく部屋を薬草が埋め尽くしていく。


 キャハハハハとニーナの高笑いがギルド内に響き渡る。


 「誰か止めろ!」


 薬草で埋め尽くされていく商人ギルド内は正に地獄絵図


 ニーナの高笑いが収まる頃にはギルド内は薬草で埋め尽くされていた。


 壁すらも一部破壊して薬草は外にまで飛び出していた。


 結果ギルドは半壊の状態になったが、ニーナを煽った罰と止めなかったギルド職員の減給、直接の当事者だった戦商人のゲインが商人ギルドの修復費用を支払う事になりニーナは商人ギルドのマスターからの小言一つで特にお咎めは無かった。


 鮮烈な商人デビューを果たしたニーナはその後、【ギルドクラッシャー】として全世界に名を轟かせていくのだが、それは本人が望んだ事では無かったのは言うまでも無い。


 「自業自得ですねぇ。」


 邪神の言葉がこの世界に響き渡ったのだった。


 


 

 


 

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