第2話 少女は邪神を恫喝する
「しかし
アレスとの盟約である以上目の前の少女を無碍には出来ない。
「アレスさんから最期にこんな嫌がらせを押し付けられるなんて...... 中々食えないお人でしたねぇ。」
アレスの魂と等価交換で引き受けた対価はその妹であるニーナへ支払わなければならない。
その支払い以外にまさか少女の面倒を見る羽目になるとは思いもしなかったからだ。
「異世界の知識と力を与えてさようならぁ〜の予定だったんですがねぇ。些か面倒ですねぇ。」
いづれにせよ少女が目を覚さない限りは何もする事は無い。
神界は下界とは時間の流れが違うので
だからといって目の前にいる少女をどうこうする訳にもいかず座りが悪いのだった。
退屈は
三日間眠り続け
待ち侘びたとばかり寝起きの少女の顔の前に自慢の山羊面を晒すアドラメレク
「や〜っとぉ起きましたかぁ? おはようございます
ニーナは寝起きでまだ頭が働いて居ないのか目の前ある異形とも言えるアドラメレクの顔を見て驚く事は無く一言
「山羊?」
その一言がツボに入ったのかその異形の顔を歪ませて嗤うアドラメレク
「邪神とはいえ神様に対して山羊とは何たる不敬でしょうかぁ? まぁ、あの食えない男の妹ならその反応も納得も出来るものでしょう。」
泣き喚かれて話が進まなくなる。
それよりはまだ山羊と呼ばれる方が幾分マシかと自己解決するアドラメレク。
神の価値観は人とは違うのだから仕方がない。
「でわぁ話を進めましょうかぁ?
全く理解出来ていない事を前提に話を進めるアドラメレク。
「ここは何処? 目の前に山羊が居る。これは夢? 私はどうなったの?」
「意外に冷静なんですねぇ? もう少し取り乱すかと思いましたよぉ? いいでしょう先ずはワタシの自己紹介から始めましょうよ。」
両手を大業に振いその場でクルクルと周り胸に手を当て貴族の様に挨拶をする。
「ようこそぉ! お
キラッと歯を見せるキメポーズをとるも
「はぁ......」
期待していた反応とは余りにも乖離があった。
「まだ若いのにそれは余りにも塩対応じゃあありませんかぁ?」
「山羊がカッコつけても......。」
余りの辛辣さにキメポーズを取ったまま固まるアドラメレク。
居た堪れない空気感からゴホンと一つ咳払いをして居住まいを正す。
「前置きが長くなりましたがぁ〜 説明を始めます。 始めてもいいですよねぇ?」
この雰囲気をアドラメレクが自ら招いた事とはいえ必死に挽回すべく無理をする邪神
もうどちらが上なのか分からない酷い状態になっていた。
「あぁ〜 はい...... お願いします。」
本来なら眼前にバケモノみたいな姿が居ればまだ少女であるニーナも怯えてもおかしくないのだが少女は不自然な位に落ち着いている。
いや冷めているだけかもしれないが。
「ワタシは
それを聞いているニーナの無言にアドラメレクは話の続きをしてもいいと解釈し続ける。
「アレスは異世界からの転生者なんですねぇ。その魂は邪神にとっては何物にも変え難い位に豊潤で美味なんですねぇ。そのアレスの魂をアレスが死ぬ時にワタシに捧げて貰う事で盟約を結んだんですねぇ。」
「それで? 兄様へ支払うべき対価は?」
目の前に居る少女が何故対価について知っているのか疑問に思ったアドラメレクだが今は続きを優先する。
「アレスへ支払う対価は
へ異世界の知識の譲渡と下界で一人で生きていく力を与える事なんですねぇ。」
「兄様は色々考えてくれたんですね......。」
歳は離れていたがいつも自分の我が儘を聞いてくれていた兄の優しさに涙が零れ出した。
「そういうわけで
漸く盟約を果たせると安堵するアドラメレク
しかし
「力はまだ聞いてないから選び様がないけど異世界の知識については必要ありません。」
「またまたぁ〜 そんな所で意地を張っても良い事はないんですねぇ。」
アレスの持っていた異世界の知識は巨万の富すら簡単に生み出す様な代物だ。
この世界において衣食住全てにおいて革命を起こせるだけの知識がある。
アレスの元居た世界と下界では文明レベルの格差は埋めようもない位にあったからだ。
故にその知識の受取を拒否されるとは思わなかった。
「私にはその知識は必要ありません。何故なら私もその知識を持っていますから。」
この少女が一体何を言っているのかアドラメレクは理解出来なかった。
異世界の知識を持っている?
そこからアドラメレクは答えを導き出した。
「まさか...... 君も......。」
ニーナはニッコリと笑い邪神に告げる《死刑宣告》
「私も転生者ですから。」
初めて余裕を失ったアドラメレクは膝を付き頭を抱える
「バカな! そんなバカな! ワタシは聞いてない! 何処で間違った! ワタシは何を間違えたんだぁーーーーーー!」
「存在自体じゃないでしょうか?」
止めを刺す
「ではここからが本題ですね。私は転生者異世界の知識は既にもっています。
完全に立場が逆転していた。
盟約を違えた場合は自らの存在も消滅するからだ。
魂を対価にしての盟約はそれだけ重いからだ。
更にアレスは先に盟約をはたしている。
「何か...... 何か代わりになる物は......」
兄様の魂を食らったのだから少しは苦しめばいい。
ニーナもアレスに秘密にしていた事はあった。それを気付いていたのかいなかったのかは今はもう確認する事は出来ない。
頭の中では兄と分かっていてもニーナは前世記憶の中では一人っ子だった。
何処か自分が自分じゃない感覚に悩まされて演じ続けて来たがそれでも変わらず優しく接してくれた兄アレスを本当の家族の様に感じ甘える事が出来ていたからだ。
身体は子供でも頭の中にある記憶の自分は既に
歳の離れた兄より中身だけ歳上というのも不思議な物だとも思う。
未だ地面に手を付いたまま項垂れている
上手くやれば貸しが作れるかもという打算的な考えだったが。
「アドラメレク、知識は何か代わりの物を貰うとして力の方は先に受け取って上げるから早く渡しなさい!」
少女に怒られる神様
「但し私が
「そこは安心してもいいんですねぇ。」
対価の代替え案に少し立ち直った様だ。
「闇聖女なんてどうですかねぇ?」
「暗黒魔法でも使えるの?」
「それは勿論問題なく使えますねぇ。それに武器を使用する事だって出来ますねぇ。剣を使えば剣聖に引けを取らず戦士より力に溢れ盾を持てばシールドウォリアより上手く捌けますねぇ。魔法は勿論賢者でも足元に及ばないですねぇ?」
「それは酷いチートね。」
流石に若干引いてしまう内容だったが、どうせこれからこの小さな身体を引きずって生きていかなければならない。過分過ぎる力を持っていても誰かに責められる謂れはないだろう。
「分かった。力に関してはそれで納得して上げる。」
「邪神から見ても清々しい位に強欲ですねぇ。」
「か弱い少女に向かって随分な言いようね。」
どうやら口先では勝てないと細やかな抵抗に止める
「じゃあ残りのもう一つは......」
少女の注文次第では自らが破滅しかねないだけに邪神なのに神に祈りたくなったアドラメレク。
「私の両親を殺した者達の正体を教えなさい。」
そんな事が対価でいいの?と言わんばかりにアドラメレクは目を見開き口を空けて
これ以上少女の気が変わる前にさっさと盟約を果たしてしまおうとアドラメレクはその正体を明かす。
「
「え? 正体を教えるだけじゃ?」
「対価がその程度で済むと思った? いいのよ他の事にしても。そうね〜」
「分かりました! 分かったんですねぇ。手伝いますねぇ。」
「手伝わせて下さいニーナ様でしょ?」
このドS少女が!と内心では毒を吐くも
「手伝わせて下さいニーナ様!」
「分かればいいの。分かれば。」
何とか上手くまとまり消滅の危機から脱し安堵するアドラメレク。
その後アドラメレクから闇聖女の力を受取り先ずは両親を殺した者達が居る国の近くへ転送して貰う事になった。
復讐すべき相手がいる大陸最強を誇る竜騎士団を擁するドラゴニア帝国近くの隣り街へニーナは
「それじゃあ用がある時は呼ぶんですねぇ。ワタシは帰るんですねぇ。」
そう言って帰ろうとする邪神の角を後ろから掴んだ。
「は? 何帰ろうとしているの? 貴方もこれから一緒に行くのよ。」
それが当たり前の決定事項であるかの様に言う少女
「復讐する時に力を貸せばいいんですよねぇ? それが何故着いていくのが当たり前の様に言ってるんですかねぇ?」
「アドラメレク、貴方猫に
「聞いてないようですねぇ......」
全く自分の話を聞いていない事にガックシと首をもたげる。
アドラメレクは小さく呪文を唱えるとみるみる身体が小さくなっていき黒猫に似た何かに変身した。
「何で猫の背中に翼が生えているのよ! まぁ仕方ないから希少種と言っておくわ。それじゃあ行きましょう。アドラメレク。」
ニーナは黒猫に似た猫の様なアドラメレクの首根っこを掴み肩に乗せた。
そして街へ向かって歩き出した。
「何故こうなったんですかねぇ......」
こうして世界に闇聖女が誕生した。
いつも傍には黒い猫に似た不思議な生き物を連れて。
この一人と一匹の出会いがこの後世界に動乱を齎してて行く事になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます