復讐を誓った少女は闇聖女となる 邪神の使徒となり世界に動乱を齎す

@kwkek

第1話 兄は神に祈りその村の無事を願う

 模範冒険者と呼ばれていたアレスは故郷の村を目指して駆けていた。


 本来ならギルドや街で馬を借りられれば更に早く駆けつける事も出来ただろうが、生憎今日は馬は全て出払っており仕方なく走って村を目指していた。


 悲壮感を漂わせた様な顔をし息を切らせながらも歩みを止める事なく道を駆けるアレス


 その顔には一切の余裕は感じられなかった。


 一分一秒でも早く故郷の村へ辿り着かねばならない。


 「何とか間に合ってくれよ!」


 依頼完了後の疲労も残る中で気持ちは焦るばかり冷静な判断を失い兼ねないがそれでもアレスは必死で街道を駆けていく。

 

 アレスはギルドで聞いた話が何かの間違いであって欲しいと願いながら。


 故郷の村が無事である事を神に祈りながら。


 

 アレスは今冒険者をしている。


 15歳の成人を迎え冒険者になる決意を両親にしたアレスだったが、冒険者は一獲千金を夢見る事も出来るがそれは極一部の何らかしらの才能に秀でた者だけであり大半の冒険者はその日暮しに近い生活を送っている者が大半を占める事をアレスの両親は知っていたからだった。

 それに危険な職業であり怪我をしたり下手をすれば死ぬ事もある為、両親はアレスが冒険者になる事を反対していた。


 アレスはその後も根気よく両親の説得を続けた。

 結果的には条件付きで冒険者になる事を認めて貰えたのだった。

 

 その条件は住んでいる村から冒険者ギルドがある隣街へ通う事。

 命の危険がある依頼は受けない事。その二つを条件に要約認めて貰う事が出来たのだった。

 まだ幼い妹からはお土産を必ず買ってくる事を申し伝えられたのだがアレスはそんな妹の条件ですら律儀に守っていたのだった。


 決して危ない橋は渡らず堅実に依頼をこなしていく事からアレスについた名は模範的冒険者。


 冒険者としては素直に喜んでいい二つ名では無かったがアレスの仕事ぶりはギルドではそれなりに評価はされていたのだった。


 この世界で模範的冒険者となったアレスだったが、実はこの世界以外で生きていた別の記憶を持っていた。


 その記憶の中の世界では鉄の塊が道を走り鉄の塊が空を飛んで人々はお金さえ有れば世界中を旅する事も可能だった。


 子供の時は学校へ通い複数の同年代の子供と席を並べて勉強を教わる。


 今ではもうその記憶も薄っすらと覚えている程度にはなっていたが、魔物等は存在していない平和な世界。

 ましてや魔法なんて有り得ない人に優しい平和な日常が当たり前の世界。


 アレスは子供の頃その記憶にあった世界の事を両親や村の友達に話した事もある。

 夢でも見ているのか?と笑い話程度にしか捉われず相手にされる事も無かったので徐々にアレスもその事を忘れ口にする事も無くなっていった。

 

 今の自分は何処か別の世界から来たのかもしれないと思っていたけどそんな事よりも目の前にある厳しい現実の中で生きていかなければならない。

 

 いつまでもそんな御伽話の様な事を考えていられる程アレスの家は裕福では無かったし成人すれば働かなければならないのがこの世界では当たり前だったのだから。


 この世界には魔物が跋扈しており国同士の戦争もそこいら中で起こっておりとても平和とは呼び難い世界。


 生きている人には決して優しい世界では無く命の危険は身近なものであった。


 現実で生きている以上アレスも例外ではなくその環境の中で適応し生活していかなければならない。


 そんなアレスも冒険者になって二年が経っていた。


 今日も早朝に村を出て通い慣れた隣街を歩きギルド《職場》へ来ていた。


 ギルドが開くと共にギルド内へ掛け込んで行く。


 この世界に生きる冒険者の日常リアル


 ギルドからの依頼は早朝から早い者勝ちである為、朝一番に冒険者達はギルドに集まりより割のいい依頼を受ける為、切磋琢磨している。


 アレスはギルドのカウンター横に設置されている掲示板から一枚の依頼書を剥がしカウンターで討伐依頼を受けていた。


 特に難しい依頼では無かった為、卒なくこなして討伐依頼を完了し夕刻ギルドにその完了報告を行なっていた。


 完了報告をカウンターにて行いその記録をギルドカードに記載してもらい報酬を受け取って依頼完了となる。


 完了報告後、報酬を受け取りギルドの受付嬢とたわいの無い話をしていた最中にギルドに慌てた様に飛び込んで来た中堅パーティーの姿があった。


 ニナエ村が何者かにいたらしいと。


 アレスは受付嬢との雑談打切りその話を詳しく聞く為、中堅パーティーにの元へ駆け寄った。


 「頼む。その話聞かせてくれないか? ニナエ村は俺の故郷なんだ。」


 アレスの真摯な頼みに中堅パーティーのリーダーは自分の見た事をアレスに話し始めた。


 アレスが話し掛けた中堅パーティーの名は鋼の絆


 このギルドをホームグラウンドとしている男三人組のパーティーだった。


 リーダーで大剣を使う戦士のイカルス


 守りの要であるシールドウォーリアのナダル


 炎の魔法を得意としている魔法士のメラニス


 三人パーティーで中堅とはいえこの町ではそこそこ有名であった。


 基本的にソロだったアレスとも集団討伐レイドで何度か組んだ事もある既知の仲だった。


 イカルスは丁度ニナエ村より奥の森へ討伐依頼を受けて行っていた事を話した。

 依頼を無事に終えギルドへの帰り道にニナエ村から煙が上がって居たのに気付き近づこうと思ったが空から竜騎士らしきものが見えた為慌ててギルドに戻って来てギルドに報告したといった様な内容を教えてくれたのだった。


 「俺達の力不足ですまない。」


 イカルスはそう言ってくれたが


 「いや、ギルドに報告してくれただけで十分だよ。ありがとうイカルス。」


 アレスは鋼の絆の面々に礼を述べギルドから急いでニナエ村に駆け出して行ったのだった。


 全速力で駆けるアレスがニナエ村をそろそろ見渡せる丘に辿り着いた時にニナエ村は赤く燃え上がっておりあちこちから火の手が上がり黒い煙が立ち昇っているのが見えた。


 「父さん、母さん、ニーナ...... 無事で居てくれ。」


 アレスは神に祈りながら丘を駆け下りニナエ村へ向かって行く。


 息も絶えだえにニナエ村に辿り着いたアレスの眼前には燃え盛るニナエ村の姿が映っていた。


 目の前の光景がまるで悪い悪夢の様に見え膝をつきそうになったが、何とか足に力を入れアレスは自分の家に向けて歩き出した。


 辺りからは人の声は聞こえずバチバチと木の燃える音とガラガラと家の崩れる音だけが聞こえている。


 アレスはその光景を呆然としながらも村の中を進んでいく。


 自分の家の前に辿り着いたアレスの目に映ったのは燃え落ちた家だった何かの跡だった。


 今朝ギルドへ向かう時に出た家は跡形もなく燃え尽き瓦礫の山と化していた。


 「父さん、母さん、ニーナ......。」


 アレスはまだ若干燻っている瓦礫の中に入り両親と妹の姿を探した。


 両親の姿も妹の姿もそこには何一つ見つからなかった。


 何が起こったのかも分からず目の前の光景も到底受け入れられない。


 誰か生存者は居ないかと未だ燃え盛る村の中をゾンビの様に徘徊していた。


 まるで神隠しにでもあったかの様に人の気配は感じられなかった。


 燃え盛る村だけがアレスにこの世の地獄となる様な光景を現実として突き付けてくる。


 アレスはフラフラと村の中を彷徨っていく。


 もう生存者は居ないと絶望に囚われていたアレスの目に遠くで倒れている人影が見えた為、アレスは急いでその人影に駆け寄って行った。


 アレスは近く迄寄ると倒れていた小さな少女を抱き起こした。


 少女はアレスの愛している者であった。


 最近年頃なのか少し生意気な少女


 毎日お菓子を強請る少女


 ツンツンしている割に夜中にベッドに潜り込んでくる可愛い少女


 だけどアレスの愛すべき少女の背には一本の槍が刺さっていた。


 意識は無く辛うじて浅い呼吸はしていたが背中から流れる血が服を赤く染め少女を支えるアレスの手をも赤く染め上げていく。

 

 顔はやけに青白く血の気は失せていてどうみても助かる様には見えなかった。


 アレスはそんな妹を抱き締めた。


 「ごめんなニーナ...... 兄ちゃん間に合わなかった......。」


 アレスが流す涙が少女の顔にポタリポタリと降り出した雨の様に落ちて行く。


 僅かだった呼吸は更に弱くなっていく。


 今にも手の中から命が溢れ落ちていきそうに感覚にアレスは神に祈る事しか出来なかった。


 アレスは今自分が感じた事に違和感を覚えた。


 「また? 一体...... 俺は何処で......」


 その時一つドクンと心臓を打ち鳴らした。


 急に頭の中に渦巻く風の様に記憶が流れ出した。


 曖昧だった記憶がアレスの頭の中をまるで嵐の様に駆け巡る。


 「そうだったな。今全て思い出したよ。」


 アレスは薄れていた記憶を全て思い出したのだった。


 「それならやる事は一つしかない。」


 アレスは今にも命の灯火が消えてしまいそうな小さな妹の背中に刺さっていた槍を抜いてその身体を抱き上げた。


 そして空を見上げて咆哮した。


 「全部見てるんだろ? なら話は早い。お前の望みの物はくれてやる! だから俺の願いを聞け! 邪神アドラメレク!」


 アレスが天に向けて咆哮したのと同時に天より黒い稲妻が走り地面に堕ちる。


 「よう〜やく思い出しましたかぁ? 随分時間が掛かってしまいましたねぇ。待ちくたびれましたよぉ。」


 いつの間にかアレスの目の前に黒い山羊の様な頭を持った悪魔の姿があった。


 アレスは目を細め呆れた様にその邪神に目を向けた。

 

 「俺も今全て思い出したんだよ。仕方ないだろ。それより時間がない。直ぐに頼むよ」


 「おやおやっ? 随分お急ぎのご様子。お別れの時間は宜しいのですかぁ?」


 「気が変わる前にさっさとやってくれ。但し約束はたがえるなよ。」


 「それはどうでしょう? 何と言っても私邪神ですからねぇ。」


 「お前を信用はしていない。だがお前は約束は破れない。」


 「随分とお詳しいんですねぇ?」


 「邪神なんてそんなもんだろ? お互いに利害は一致してるんだ。」


 「違いないですねぇ。」


 何が愉快なのか邪神はケタケタと笑う。


 「但しその少女うつわが何を望むか迄はワタシも保障出来ないですよぉ?」


 「ニーナは間違ぇねぇよ!」


 「随分信頼してるんですねぇ?」


 「当たり前だ! 俺の最愛の妹だぞ。」


 「アナタにも人の心が分かる時が来たんですねぇ。このワタシ感動しましたぁ。」

 

 「煩いんだよ! もう言葉は要らないだろ。じゃあな邪神クソ野郎


 「相変わらずせっかちですねぇ? なら盟約通りその魂頂きましたぁ!」


 歓喜の表情を浮かべた邪神アドラメレクはアレスの身体の中に手を突き刺し取り出した魂を口に入れた。


 「何たる美味! かってこれ程美味な物があったでしょうかぁ!」


 アレスの魂を喰らい邪神は歓喜に打ち震え小躍りしていたが、既に魂を喰らわれたアレスは姿を消しその存在すら消失していた。

 

 その場所には一人少女だけが寝かされてる。


 それを見たアドラメレクは辺りをわざとらしく見渡した後少女に目を向けた。

 

 「この少女ガキどうしましょうかぁ?」


 一瞬そのまま捨てて行こうかと考えたが盟約上そのまま捨て置くわけにも行かず渋々寝ている少女を抱え上げるアドラメレク。


 「面倒ですが...... 本当に本当に面倒ですがぁ取り敢えず連れて帰りますかぁ。」


 アドラメレクはそう言うと手で目の前の空間を捻じ曲げると闇の渦の中へ少女を抱えて消えて行ったのだった。

 


 


 


 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る