第46話 世の中には、やってはいけない事がある
常々、甘いと思っていた。
サラはミウの肩に自身のスーツの上着を脱いで掛け、赤から乾いて赤黒い茶へと変色し始めている足のテーピングやドレス、そして髪、耳と視線を向けて。
こいつら、どうやって殺そう? と真剣に考えつつシェルディナードの言葉を聞いて、唇を笑ませる。
親友はどんな
何でこんな
理由は、アレでも
確かに血の半分は父親が一緒なのだからそうかも知れないが、ほぼ他人だ。おかしい。
大好きな親友の、そこだけが唯一納得できない所だった。
しかし。
「世の中には、手を出していいもんと悪いもんがあるんだよ」
やっと。やっとこの
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
何かサラ先輩が怖い。
ミウは側でじっとしているサラに、えもいわれぬ恐ろしさを感じていた。
上着まで貸して貰って失礼だとは思うが、怖いもんは怖い。
――――ひぇっ! サラ先輩が笑ってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
しかも何というか、物凄く楽しそうに。
これはアレだ。プレゼントを貰った子供が、早く開けたくてウキウキソワソワしているような。
それがどうしてここまで物騒に感じるのか。これがサラクオリティか。正直そんなクオリティ遠慮したいミウである。
こういう時は歯止めになるシェルディナードはと言えば、得たいの知れない冷気こそなくなったが、自身の馬鹿兄達を相手にしていてこちらを見てもいない。
――――シェルディナード先輩! この状態のサラ先輩と二人にしないで下さいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
だがしかし、ちょっとそんな事を言えるような雰囲気じゃない。凄く真面目な感じがする。
いやあえてその雰囲気をぶち壊して和ませるのも手といえば手であるが、その場合は何か矛先がミウに向く。今回は絶対向く。
しかもきっとサラだけじゃなくシェルディナードにも怒られる。
世の中には、やってはいけない事がある。
「ところで兄貴達、コレなーんだ?」
「っ!?」
「お、おい! それどこでっ!?」
明るく声を上げてシェルディナードが小脇に抱えていた二つの小箱を見せた。
どちらもゴテゴテと装飾過多でいかにも「宝箱です!」な主張が激しい。罠かと思うくらい。
一言で表すなら、悪趣味。これに尽きる。
シェルディナードが小箱を開けて中に入っていたものを取り出し、箱を捨てていく。
何かやたら高そうな宝石とかが床に激突して無惨にも散っていくのが勿体無い。
中身は何やらカビみたいな色の球体。掌で握り込める程度の大きさだ。二つあって、どちらも少し色味が違うようだがあんまり綺麗とは思えない所は共通。
にっこりとシェルディナードはそれらを手にして首を傾げる。
「知ってるよな? そう。兄貴達の『聖句箱』」
――――シェルディナード先輩っ! サラ先輩が本当に怖いです!
シェルディナードが取り出したものを見て、サラが「あは」とか何か綺麗だけど邪悪にしか見えない笑顔で言えばそりゃ怖い。
なんか呪いの人形ぽくて。
――――これ以上あたしのサラ先輩トラウマ増やさないで下さいよぉぉぉぉぉぉぉ! もうヤダこの先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
「俺自身に何かやってくんのは別に構わねーよ?」
――――構ってます! サラ先輩がすっごく構ってます! シェルディナード先輩!
シェルディナードの言葉にサラが、むぅ、と頬を膨らませて不機嫌顔になる。そこにははっきり「構うんだけど」と書かれているのがミウからははっきりくっきり見えた。
「兄貴達がどう思おうが家族だし。でもさ」
一旦言葉を切って、シェルディナードは表情から笑みを消す。
「
何かその言い方は貴族じゃなくて犯罪者方面の方々みたいですね。なんて言えない。
「聖句箱……って、何ですかね?」
ポロっとミウの口から疑問が零れた。
シェルディナードとその兄達の様子から何となく大事なものなのだとは予想出来るのだが。
「魂」
「え?」
サラが相変わらずイイ笑顔のまま、やけに楽しそうに言う。
「リッチ、は、魂を壊されない、限り、死なない、の」
でね? と。
「聖句箱って、物、に、魂をしまってる、んだけど」
サラの眼が、シェルディナードの持つ球体へ注がれる。
「アレがあいつらの魂」
――――ひっぃぃぃぃぃぃぃぃ!? サラ先輩怖すぎます!!
もう、どうみても悪魔にしか見えないんですけど!?
そんな笑みを浮かべるサラに、ミウはガタガタと震える。
めっちゃ壊したい。そんな言葉が聴こえそうな眼光と笑み見れば以下略。
バロッサ達のみならずミウまで顔が青くなる。
「さてと。兄貴達、覚悟はいいよな?」
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