第42話 許せることと、許せないこと
世の中には、許せることと、許せないことが明確に存在している場合がある。
「あらぁ。どこの困ったさんかしらぁ」
今回の事は、エイミーにとって後者だった。
可愛い可愛い大切な友人。エイミーにとって、ミウとアルデラは気のおけない友人であり、心の癒しである。
「ちょっとおいたが過ぎますわね」
ほわほわとした口調と笑み。なのに纏う空気がどす黒い。
「…………」
それを
幼い頃から近侍として側にいるこの少女は、普段はとても温厚で大人しい。が、その血筋はケルの家に代々使える護衛のそれ。
ガーゴイルというその性質は、宝の番人。
正直、どこの馬鹿がエイミーの
平たく言って、キレてる。こうなると自分の言葉など歯止めになるかどうか怪しいものだ。本当にどこのどいつだこんな馬鹿な事をするのは。
「う……。胃が」
キリキリ痛む。ケルはそっとエイミーから目を逸らし、しかし逸らした先でもっと面倒なものを見て、天を仰いだ。
「…………ふふ」
「ちょっと、退きなさい」
その台風の目の横を鋭く切り裂く声。ミレイだ。
竹が両断されるように瞬時に人が避けて道ができる。
カツコツとヒールの音をさせて、ミレイがシェルディナードに近づく。
「シェルディナード」
「ん?」
「コレ。ここ最近の害虫の動きをまとめたメモ。証拠も必要でしょ? 後で送るわ。 ――――だから」
金色の瞳を光らせてミレイが甘くシェルディナードの耳許に唇を寄せて囁く。
「叩き潰して」
しかしシェルディナードはクスクスと笑い、少しだけ溜め息をつく。
「
仕方ねぇなぁ、という顔なのだが、いつもと何かが決定的に違うと、ケルは感じた。
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
「ぎゃんっ!」
ベシャッと冷たい石の床に投げ出されたミウは思わず声を上げていた。
――――いっ、たぁぁぁぁあいっ! 何この人達ぃぃぃぃぃぃぃ!!
腕やお尻を打ち付けてズキズキ痛むし、多分膝も擦りむけた感覚がある。
しかも。
「痛っ! や! やめて下さい!!」
ぐいっと後ろから髪を
恐怖と痛みにミウの瞳に涙が浮かぶ。
どこかもわからない暗くて冷たい場所。墓所にも似た冷たい雰囲気の広間のような場所だと、
「コレが最近あの愚弟が執心している庶民の女か?」
冷たく蔑むような声音と口調に声の主を見る。
無理やり上げさせられた顔の数メートル先に、少し年上と思われる少年と青年の二人が立っていた。
「ずいぶん噂と違うな。本当にこれか?」
「確かに、噂では魔性の女みたいに言われていたが、到底このちんちくりんでは合わないな」
――――ちんちくりんで悪かったですねぇ!!
「だ、れ ――――ふぎゃっ!!」
口を開いた瞬間、頭が床に容赦なく押し付けられる。もう床に叩きつけられるの方が正しいかも知れない。
口の中が切れて血の味が広がり、頬が擦れて痛む。
「誰が口をきいて言いと言った?」
「身の程を知れ、
――――痛い。痛い、けど、我慢。きっと、泣いたら余計に、酷い事、される。
再び髪を引っ張り顔を上げさせられたが、ミウは歯を食いしばって声を抑えた。
ミウを見下す二人はどちらも今いる場所と同じように冷たそうで陰気な空気を纏っている。顔立ちは整っていると言えるのだが、その雰囲気と性格の悪さが滲み出ているのか、暗い陰険な印象が強い。髪は白く、顔色も悪い。瞳は濁った池のような
着ている服は貴族らしくけばけばしいくらい
「フン。
「確かに。コレに執心するとは、とうとうアレも堕ちるところまで堕ちたな。まあ、所詮は愛人の産んだもの」
「僕らとはそもそも生まれが違うからな」
耳障りな声。ミウはムカムカとした不快感に無意識に二人を睨み付けていた。
――――この人達、シェルディナード先輩の、お兄さん?
全然似てない。嫌い。
白い髪が一緒と言えば一緒だが、この二人の髪は艶がない。
――――シェルディナード先輩の髪はもっと艶があって綺麗だし。
そんなわりとどうでも良い事を考えていないと恐怖で身体が震えそうだった。
――――だって絶対、シェルディナード先輩と中身も正反対の方向でしょ!?
確実に危ない人達だとミウの本能が警告をガンガン鳴らしている。
――――逃げなきゃ。
助けを待っているだけでは生き残れない。
少なくとも、このまま大人しくしていてもろくなことにならなそうな気がする。対応からも丁寧に扱おうなんて気はこれっぽっちも無いようだし。
ミウは静かにそっと、指先に魔力を集め始めた。
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